俳優として躍進し続けるオダギリジョーさんに聞いた
トロント日本映画祭で上映された出演作のサイドストーリー
Joe Odagiri
俳優 オダギリジョー(2017年8月11日記事)


いい人の役ではなく、
いびつな役だからこそ自分ができると感じるんです


6月8日から28日にかけて、日本文化会館にて開催された第6回目のトロント日本映画祭(以下TJFF)。2012年にはじまった同映画祭には毎回、日本から監督や俳優が特別ゲストとして登場し、舞台あいさつを行ったり、会場に足を運んだお客さんと交流しながら、日本映画の魅力をトロントの人々に伝えている。
今年は何人かの監督が来加した中で、俳優として唯一登場したのがオダギリジョーさんだった。TJFFでは、日本において観客や映画評論家からの評価が高かった映画や、海外の映画祭にもノミネートした作品が選ばれているのだが、TJFFで上映されたオダギリジョーさんの出演映画は全部で3作品にものぼった。
その中の1つが、2016年の10月に日本で公開された『湯を沸かすほどの熱い愛』。銭湯を営む一家の物語で、オダギリさんが演じた一家の父親は、家出をしたが銭湯へ連れ返され、宮沢りえさんが演じる余命わずかな妻、そして娘とともにぶつかり合いながらも銭湯を再開させていく、というあらすじだ。
6月13日に日本文化会館に登場したオダギリさんに、舞台挨拶を行う直前にインタビューを行なう機会を得た。まずは、同作への出演を決めた理由から聞くと「単純に、脚本が面白かったからですね」と話す。家出をして他所で子供を作るという、いわゆるダメな父親役を演じたわけだが「不完全なものが好きで、完全なものに対してあまり魅力を感じないんです」と、役への思いを語った。 「正しいことを正しいセリフで言う役、ストレートで真面目な役には、興味が持てないんですよ。今回、ダメな父親を演じたわけですが、そういったいびつな形にしか、自分である意味を感じないというか。いい人の役でしたら、ほかに適した俳優さんがいると思うんです。いびつな役だからこそ、自分ができると感じるんです」
いびつなものに、なぜ惹かれてしまうのだろうか?
「それは、自分がいびつだからじゃないですかね? きっと、真っ直ぐで正しく健康的なものに、どこか嫌悪感を感じているんです。人間は、そういうところばかりでは無いじゃないですか。だから、もっと人間の裏側を描くべきだと思っているんです」



© “Her Love Boils Bathwater” Film Partners


お互いが信用し合えた中野監督との撮影

『湯を沸かすほどの熱い愛』の脚本と監督を務めたのは中野量太さんだ。中野監督にとって初めての商業映画であり、日本アカデミー賞では優秀脚本賞と優秀監督賞を受賞したほか、モントリオール世界映画祭に出品するなど、国内外で話題を集めた作品となった。脚本を読んだ時の感想をオダギリさんに聞くと「素晴らしい脚本だと思いましたし、いい作品になることは間違いないと思っていたんです」と話す。
そんな中野監督と一緒に作品を作った印象をこのように語った。
「監督が、特に子供たちに演出するときに、すごく熱く一生懸命頑張っている姿を見て、いい意味で映画バカなんだろうなと思ったんです。この人は映画が好きで仕方がないんだろうなと思って。だからすぐに、信用できましたね。さらに、こっちを信用してくれていることも分かったんです。僕の場合は役柄もあり、演出をすると言うよりは、次は何をするんですか?という感じで放任してくれていました。お互いに、早い時期から進むべき方向もきちんと分かり、着地点も見えていたから、僕がやりすぎなければオッケーでした。やりすぎたら、もちろん監督は止めますけどね。そういう意味で、お互いが信用し合って、監督が任せてくれていたことを感じましたね」


同世代のチームで手がけた『オーバー・フェンス』

翌日の6月14日に上映されたのは、山下敦弘さんが監督を手がけた『オーバー・フェンス』。佐藤泰志さんの小説の実写化であり、職業訓練校に通いながら失業保険で暮らす主人公と、危うい美しさを持つ風変わりなホステスが出会い、心に闇を抱えながらも希望を少しずつ見つけて生きていくという、どこか共感を覚えるようなストーリーだ。山下敦弘さんとオダギリジョーさんは同世代であり、そんなチームだからこそ成し遂げられたことや、良かったと思えたことを聞くと「たくさんありすぎて、答えられないくらい」だと言う。
「山下さんとはデビューも同じような時期で、歳も学年が一個違うくらいだったかな。さらに、お互いあまりメジャー映画に手を出さずに、インディーズ映画にこだわってきたことも共通しています。それでもどうにか20年間生き残ってこられた。これまで一緒に仕事をする事はほとんどなかったんですが、どこか同じ戦場を生き抜いて来た同志のような感覚があるんですよ(笑)。いざ、主演と監督で組むことになるときに、それが上手く働いたと思いますね」
20代でデビューした両者が40代になったことが、上手に働いた理由の1つとも思える。
「それも、無くはないでしょうね。デビューしたての、20代初頭の2人だったら、もしかするとぶつかっていたかも知れないですしね」
そんなオダギリさんが、40代になって変化したことについて「日に日に、仕事をすることが難しくなってきている」と答えた。
「絶対に自分がこの作品に出る必要性を感じないと、受けようと思わなくなりました。本当に、大切な一本と思えないとやる気になれなくなってしまいましたね」



© 2016「オーバー・フェンス」製作委員会



絶対に自分がこの作品に出る必要性を感じないと受けようと思わなくなりました



役者として映画とどのように向き合うのか

TJFFにて、6月11日に上映された『続・深夜食堂』にも警官役で登場しているオダギリさん。人気コミックが原作である『深夜食堂』は、松岡錠司さん監督のもとTVドラマ化経て劇場版が公開、さらにはNetflixドラマにも進出するなど、大きな人気を得ている作品である。オダギリさんは過去に同作にて警官役のほかにも、謎の男・片桐役としても出演しているが、そのいきさつを明かしてくれた。 「TVドラマシリーズで演じていた片桐は、2シリーズ目で旅立ってどこかに行ってしまったんですよね。それで、3シリーズ目に入るときに監督と飲んでいて、“どうする? 何か違う役で、出るか?”みたいな話になって。じゃあ、警察官とかにしようと。飲みながら作った役だったんですよ」




あくまでも映画としてどう組み立てていくかということを考えたいんです


ここまでオダギリさんが出演した3本の映画について話を聞いたが、監督とのエピソードを掘り下げたのは、彼が監督目線で映画に接している俳優に違いないと思ったからだ。その真意を聞くと「そういう性格なんだと思います。台本にもうるさいんですよね。でも、信用してくれる監督さんは、そういう面を信用してくれていると思うんです」と答えた。
「役者はやっぱり、下手をするとエゴの塊になってしまう。自分だけが前に出てしまう役者さんもいますが、それでは作品が変な方向に行ってしまうことが多くて。僕はあくまでも、映画としてどう組み立てていくかということを考えたい。そこを好んでくれる監督さんは喜んでくれるし、すごく信用しくれる。一方でそういうタイプではない監督さんだと“こいつ、面倒くさいな”と必ず思われるんですよね(笑)」
俳優として、映画に真剣に向き合いながら生きてきたオダギリさんに、これから新たに挑戦したいことを聞くと「引っ越しをしたいですね」という答えが。
「とにかく、物が増えてしまって。引っ越しとか、何か大きな出来事がないと捨てられない気がしています。本当は断捨離と言いたいところなんですけど、そこまで根性が無いので。無駄なものを捨てたいということですね」


 




Toronto Japanese Film Festival
第六回トロント日本映画祭

▼オダギリジョー主演作品▼

オーバー・フェンス
Over the Fence
© 2016「オーバー・フェンス」製作委員会


監督:山下敦弘 上映時間:112分
出演:オダギリジョー、蒼井優、松田翔太 ほか


湯を沸かすほどの熱い愛
Her Love Boils Bathwater

© “Her Love Boils Bathwater” Film Partners
監督:中野量太 上映時間:125分
出演:宮沢りえ、杉咲花、オダギリジョー ほか


Biography

オダギリジョー
1999年に俳優としてデビューして以来、日本国内の映画賞にて男優賞を多数獲得。トロント日本映画祭では、自身が出演した2016年の話題作が3本上映し、2日間連続で舞台挨拶に登場した。