今ある景色の背景から
掻き立てられる創造力
Katsuhiro Miyamoto
建築家 宮本佳明(2014年3月21日記事)

「空港からレンタカーでナイアガラの滝を見に行ってきたんです。帰りのナイアガラ方面からトロントのダウンタウンに向かう高速道路で、CNタワーを前に左側にダウンタウンのビル群、そしてオンタリオ湖が右側に見えますよね。その風景がシカゴのダウンタウンに向かって南下する時の風景をそのまま左右反対にしたものとあまりに似ていてびっくりしました」と、建築家らしい視点で街の感想を答えてくれた宮本佳明さん。先月行なわれた「記憶をつなぐ建築Architecture as a Vessel of Memory」の講演のためにトロントを訪れた宮本さんにジャパンファウンデーション・トロントにてお話を伺う機会を得た。

▲鉄骨フレームで補強した宮本さんの事務所「ゼンカイ」ハウス

宮本さんは兵庫県宝塚市の出身。阪神大震災で全壊判定を受けた実家を改装し、木造の長屋に鉄骨フレー ムを挿入、補強して蘇らせた「ゼンカイ」ハウスの建築で注目された。そこには修復以上に社会的な問題提起を含んでいるという。

「震災後、政府から出された『公費解体制度』で大きな破損を受けた住宅は公費で解体してくれるという 制度があったんです。お金を出してくれるなら…というので、あの当時、けっこうな数の建物が矢継ぎ早に壊されたんですが、解体にはお金が出るのになぜか修繕には公費は使われない。公費解体というのは、必ずしも被災者のためではなくて、解体作業で大量に出るゴミの処理対策だったんです。それに対する制度への異議申し立てという意味で建てました。今もそこが事務所になっています」

Pizza e Pazzi 東京大学建築学科卒業設計で受賞したグランプリの辰野賞をはじめ、日本国内では公益財団法人日本デザ イン振興会が主催するグッドデザイン賞、芸術のオリンピックとも称されるイタリアのヴェネチア・ビエンナーレでは、阪神大震災で発生した瓦礫を現地に移送した展示で金獅子賞を受賞するなど、華々しい受賞歴を持つ。建築家として常に第一線で活躍されている宮本さんに建築家に求められる資質を伺った。

「デザイン、緻密さ… など、いろいろありますが、一番は、高いコミュニケーション能力。人が話すことなんて本人が思っていることの半分にも満たない。ですから、相手が思っていることを引き出すようにコミュニケーションを取っていかないといけない。クライアントの意図を汲み取ったら、それを今度は大工さんなどに伝えるんですが、彼らは独特な言葉を使うので、けっこう意思疎通が大変なんですよ。でもそこの努力を省略してしまうと、こちらが想像したものと全く違うものが出来てきてしまいますからね」

安倍政権の経済対策アベノミクス効果などで景気回復の兆しが見え始めた昨年。東日本大震災の被災地復 興や2020年の東京五輪の開催など、建設業界各社の活躍が期待される。プロジェクトは多いとされる日本の建築業界だが、「建築家に対して仕事の量は多くはないですよ」と宮本さんは言う。

「それでも世界的に見れば日本はまだ仕事がある方だと思います。新しい建物を建てるサイクルが早いのでね。ヨーロッパ、特にイタリアなんかは、もう新たな建築家は必要がないって言われていますから。長い歴史のある国には、優れた建物がすでに存在するので、古い外観を生かして内装工事だけを行なうというのがほとんどです」日本では建物の寿命が短いというものの、自身の作品が次世代に残り、風景として存在していくことはさぞかし誇らしく思われるのではないかと問うと、意外な反応が返ってきた。

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「自分が設計した建物が壊されると聞くと、残念な一方でホッと肩の荷が下りるんですよね。建物が立っている間は、欠陥が出ないかとか破損したりしないかなど、建てた建築物に対して常に責任を感じている自分がいるみたいです。(そういうことより)困難な場所に建てることにやり甲斐を感じていますね。斜面のある土地とか、一般的に建てにくい土地を利用して建てると安く建てられるんですよ。土地の予算を削って建築費を費やして、あっと驚く建築物を建てるというか。そこに醍醐味を感じています」

ジャパンファウンデーション・トロントの館内を歩きながらも、床にはどういう素材が使われているか、 また、以前はどのような建物だったかなど、常に建築家の観点でものを見る宮本さん。見えている景色のその歴史、背景を捉えることで、創造力が掻き立てられるのだとか。


「時々、道路にある不自然なカーブに気づいたりしませんか? そこには理由があるんです。それは以前に建てられた建物だったり、地盤や地層の影響だったりするんですけどね。そういった視点で見ると、今現在見ている景色から遥か遠い昔までが見えてくるような気がするんです。例えば、大阪の伊丹空港から飛行機が飛び立つ際に窓から外を眺めると、眼下に広がる景色が碁盤の目になっているんですよ。条里制といって飛鳥時代とか奈良時代に行なわれていた土地区画制度なんですけど、その頃の景色みたいなものが見える。現代にもそうやって古代の景色が見えるってなんか、感動ですよね」。

 
 


Biography

みやもと かつひろ

宮本佳明建築設計事務所代表。大阪市立大学大学院工学研究科兼都市研究プラザ教授。1987年東京大 学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。JCDデザイン賞ジャン・ヌーベル賞をはじめ国内外で 受賞多数。著書に『「ゼンカイ」ハウスが生まれたとき』、『環境ノイズを読み、風景をつくる。』などがある。

【サイト】
www.kmaa.jp