愛する人を突然失ってしまったら…を今一度考えてもらいたい
Kazuhiro Teranishi
映画監督/小説家 寺西 一浩 (2014年11月7日記事)


日本映画が大健闘した今年のモントリオール世界映画祭。初日のレッドカーペットに華を添えたのが寺西一浩監督の『東京~ここは、硝子の街~』。2012年に自作の小説を映画化した『女優』で監督デビューをし、同作品は上海国際映画祭に正式出品され、現地でも高評価を得た。今作が2作目という新進監督だ。

「モントリオール世界映画祭はすごく歴史のある映画祭。ヨーロッパ的というか芸術的な作品が集まっている感じですよね。お客さんは、映画を深く、細かいところまで観ていて、本当に映画が大好きな人が観ているんだなという感じがしましたね」と初回の上映会終了にモントリオール世界映画祭の感想を述べた寺西監督。

バーの経営者兼モデルのトオル(木村敦)を中心にした同性愛が絡んだサスペンスが軸となっている『東京~ここは、硝子の街~』。劇中には、トオルが経営するバーのある新宿の夜の街が度々登場する。

「あのバーは、自分の店なんです。新宿2丁目ではないんですが、すぐ近くにあります。僕の作品では新宿を題材にしていることが多いです。新宿は人が面白いんですよ。ある人はたまたま職業がホストだけど、抱えている問題は、普通のサラリーマンと同じだったり、また、逆に計り知れないほど、謎めいている人がいて…。興味がつきないですね」

トオル役にはミュージカル『テニスの王子様』などで知られる木村敦さん、木村さんとW主演を務めているのがK-POP デュオ「GO.X」のメンバーJKさん、その他、歌手としても知られる内山麿我(まろか)さん、元関西ジャニーズJr.の有本祐さんなど、出演者は美男子揃い。そして男性同士の濡れ場も多い。

「俳優さんたちが実際に、同性愛者かどうかはわからないのですが、とても自然でした。演出は必要なかったですね。”じゃ、撮りますよ~“って言ったら、”はい“って。演技指導をすることはなく…。みんなかっこよかったです」




今回の作品では”東京“にいる今の若者たちのリアルな姿を映したという寺西監督。ボーイズラブという言葉も浸透している昨今では、「映画の中に出て来るようなカップルは東京には多い」のだという。

「同性カップルを多く目にするようになってきた理由には、”東京“という都市が成熟したことがあるんじゃないですかね。モントリオールでは手を繋いで歩いている人も見ましたが、東京では、それはまだ…という感じですけど。ストーリーには実体験も入っています。ゲイの人はアンダーグラウンドというか、ちょっとマイナーみたいに思われているかもしれないですが、東京ではそれほど珍しいことではなくなってきています。奥さんも子どももいて、でも、男の子が好きという人が増えているとか、これまで女の人と付き合ってきていたのに、急に女の人がダメになっちゃって…とか。僕のまわりでも多いです。でもそれは東京という特別な街だからですかね?だからタイトルも”東京“にしてみました」


そして、そんな東京の街で大学院に通うトオルが研究対象にしているのが作家三島由紀夫さんの代表作『仮面の告白』だ。

「僕は三島由紀夫さんの作品が好きなんですが、 ある時、三島由紀夫さんが自殺する前に話している様子をYouTubeで見たんです。”人は何のために生きるのか、何のために人を愛するのかということを考えるべきだ“という意味合いのメッセージをそこで受け取って、今の時代に欠けているこのような思想を伝えたいと思い、彼の作品『仮面の告白』のエッセンスを入れました。人が人を愛するという根本的なことを、もう一度この映画を観て考え直してもらう機会になったらいいなと。僕自身、母が急に意識不明になったことがありました。この人ともう会えないかも…と思った時に、彼女ともっとこんな話がしたかった、もっと時間を共有しておけばよかったなって思ったんです。実際に、そういう場面にならないと人間はその状況について考えられない。作品にするにあたり、男性と女性の話だったら当たり前の話になってしまうので、少し色を付けてドギつく、男性と男性のストーリーに仕上げました。一見、同性愛の映画に思えるかもしれないですが、人と人が愛し合って、愛した人が目の前から急に消えてしまった時に、その人はどういう気持ちになるか、どうやって生きていくのかというのを考えて欲しいと思います」


今回も前作に続き、原作は自身の小説。自作の小説を自分の手で映像にすることに強い思い入れがあるのかと思いきや、意外な答えが返ってきた。

「『女優』を映画化しようと思った際に、香港出身のサム・レオン監督に撮ってもらおうと、香港まで脚本と原作を持って行ったんです。そしたら監督から”本が書けるなら、映像も撮れるんじゃない? 自分の作品なんだから自分で撮ってみたら?“と。そこで、映画製作の経験はないから撮り方がわからないと伝えたところ、”僕が教えてあげる“と言われて、6か月間、監督の撮影現場に通いました。監督業についての教科書なんてないわけですよね。なので、撮影現場での彼の行動を見てメモを取ってオリジナルのテキストを作りました。後から聞いた話なんですが、彼はアクション映画は得意だけど、恋愛映画は撮ったことがなかったとのことで、自分で撮れないから僕に自分で撮ったら? と言ったんだということでした(笑)。サム・レオン監督からは、”映画祭に行くと鍛えられる。どうせ映画を作るんだったら、そういう大舞台に出なさい“と、国際映画祭に出ることを勧められました」


それを見事に実現している寺西監督。「ありがたいことですよね」と笑顔で喜びを述べた監督に、最後に次回作について伺った。

「1年に1本というペースで撮っていきたいと思っていて、 次回作は現在、製作中です。今回出演してもらった中島知子さんもそうですけれど、撮るんだったら最後までがっつり組める人とやりたいと思っているんですよね。映画監督って簡単そうに見えるかもしれませんが、大変です。命がけです」。


 
 


Biography

てらにし かずひろ


1979年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。慶應義塾大学在学中に出版したエッセイ『ありがとう眞紀子さん』で文壇デビュー。2012年、『女優』で映画監督デビュー。第15回上海国際映画祭正式招待作品、第25回東京国際映画祭、東京中国映画週間オープニング特別上映作品に選ばれる。『東京~ここは、硝子の街~』は11月8日(土)より ヒューマントラストシネマ渋谷 他 全国順次上映。北米では2015年、ニューヨークのQuad Cinema にて公開予定。
『東京〜ここは、硝子の街〜』オフィシャルサイトwww.tokyo2014.com
寺西一浩 オフィシャルサイトwww.teranishigumi.com