限られた出会いを大切に
Kazuko Moghul
モガール 和子 (2015年3月6日記事)

「もう4年、まだ4年―」モガール和子さんへのインタビューは、印象的なこんな言葉で始まった。2011年3月11日に発生した東日本大震災から4年となる今月、ドキュメンタリー映画「長面 きえた故郷」がトロントで公開される。映画に出演しているモガール和子さんに、震災の話と自身の人生に大きな影響を与えてきたという座右の銘を伺った。

映画の舞台は「生まれ故郷の宮城県石巻市長面。500人の小さな地区だったけど、104人が死者・行方不明者となった」と話すモガールさん。被害の大きかった沿岸部だ。モガールさんはカナダに居住しており、震災発生時には日本の親族と離れていた。「朝のニュースで初めて地震と津波が起こったことを知った。とにかく衝撃だった」。あわてて家族に電話をしたが音信不通に。その後すぐネット上で家族10人の安否確認を試みた5日後、やっと妹の福田祐子さんの無事がわかった。

震災後「すぐに故郷には戻らなかった。戻ることができなかった」。テレビで目にした津波の想像を絶する映像。その光景を「現実として受け止めたくなかった」。しかし2か月後、思いがけず友人から日本行きのチケットを貰う。その温かい心遣いに背中を押され帰郷を決意。同時に、知人で監督の石原牧子さんから同行取材の申し出があり「震災を記録に残せれば」と承諾した。

映画には、モガールさんと祐子さんが実家や母校の大川小学校、避難所などを訪問する様子が収められている。「家族を亡くした人もたくさんいた。だけど親せきや友人、昔近所に住んでいた人たちが、いろいろなことを話してくれた」。何気ない会話に垣間見るのは、住民の素直な表情や気持ち、ありのままの被災地だ。家族や家を一瞬にして失っても前を向く彼らから、東北の人のたくましさや住民同士の強い繋がりを感じる。

▲大川小学校への応援メッセージとともに。監督の石原牧子さん(左端)とモガール和子さん(左から2番め)

▲実家跡で呆然とするモガールさんの弟、高橋茂さん

「故郷の大切さを伝えたい」。映画公開に至った、モガールさんの何よりも強い思いだ。「被災後の変わり果てた地元でカメラを回すことに、初めはためらいもあった」。しかし、あれから4年が過ぎる今「故郷はいつも変わらずそこにあるものだと普段は思っている。でも突然消えてしまうことだってある。故郷がどんなに貴重な存在か、観た人に感じてほしい」と願って止まない。

「無くなった今でも鮮明に思い出す。海が本当にきれいな所でね」と長面について誇らしげに教えてくれるモガールさん。震災前後の航空写真を示しながら「ここには本当は田んぼがあって、公園もあったのよ」と丁寧に説明する姿は、地元への愛情がにじみ出ている。「小さな地区だったからみんな顔なじみ。大家族みたいなもの。故郷が突然消えてただ寂しかった。でも、やっぱり重要なのは人」と語る目に、うっすらと涙が浮かぶ。笑顔を絶やさず、明るく前向きそうなモガールさんでも、”大家族“と表現する住民を失った悲しみは、この先も癒えることはないのかもしれない。


一方、カナダでは、友人らと協力して精力的にチャリティ活動を行なってきた。道行く人に着物姿で手作りおにぎりを振る舞ったり、コンサートで善意を募り、衣類や食べ物、現金などの形で被災地を支援し続けてきた。

そんなモガールさんの座右の銘は「絆」。幼い頃からの「母の教え」だ。「地球上にはたくさんの人がいるけれど、出会える人の数は限られている。だからこそ人との出会いを大切にしたい」。その言葉はまさに、彼女の親しみやすい人柄を表している。そして「震災では国境を問わず、たくさんの人に助けられた。特に精神的にね。絆の大切さを再確認した」と穏やかに続ける。これまで人との繋がりを大切にしてきたからこそ、たくさんの人が彼女を支え、手を差し伸べたに違いない。

最後に、震災から4年の今伝えたいことを聞いた。「思ったことを、思った時に、思った場所で思い通りに伝える。後回しにしないでほしい。明日は何が起こるかわからないから―」。静かだが強く語るモガールさんの脳裏には、未だ行方不明の兄・高橋鶴義さんや亡くなった親せき、友人の姿が浮かんでいたのだろうか。自身の心境の変化については「4年前から何も変わっていないかな」と少し考えた後「でも涙は少なくなりましたね」と笑った。

この節目を機に、もう一度被災地を思い出してみてほしい。「まだ避難生活を送っている人もいる。東日本大震災に関わることなら、講演でもチャリティでも、元気な限りどこへでも飛んでいきます。風化させないためにね」満面の笑みで締めくくった。


長面 きえた故郷



東日本大震災で甚大な被害を受けた石巻市長面地区を中心に撮影されたもの。監督は石原牧子さん。長面地区出身のモガール和子さんが、震災が発生した約2か月後に被災地へと行き、心に傷を受けた家族と寄り添う姿や被災地での友人との交流を捉えた作品だ。なお、入場料と寄付金の一部がJCCC基金奨学金制度に寄付され、3月19日と21日の両日とも10ドル以上の寄付をした人には上映記念品が配られる。

【日系文化会館】
■ 日 時:3月19日(木)開場18時 開演19時~
■ 場 所:日系文化会館(6 Garamond Crt.)

【トロント大学】
■ 日 時:3月21日(土)開場14時 開演15時~
■ 場 所: Innis Town Hall, University of Toronto(2 Sussex Ave.)

■ 入場料:$10
■ 連絡先:647-784-6141(Nakao)、905-624-8052(Moghul)