「これと共に人生終わってもいいと思えるかどうか」
そういう気持ちで毎回やっています
Kazuya Shiraishi
映画監督 白石和彌(2017年12月8日記事)


「悪」を描きながら、人間そのものって何なんだっていうことを表現していきたい


「初めて訪れましたが、トロントに魅了されました。できることなら移住してみたい」。第42回トロント国際映画祭のパブリックスクリーニングに姿を現した白石和彌監督がこう話すと、会場からは歓声と拍手がわき起こった。『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』で各映画賞を総なめにしてきた白石監督は、今度は究極の愛を描いた最新作『彼女がその名を知らない鳥たち』でメガホンをとった。トロントでワールドプレミアとなった本作について、「最低の人間のクズみたいな人達がたくさん登場しますが、最後には美しい愛の物語へと変貌していきます」と紹介。また、ちょうどその日、北朝鮮がミサイルを日本に向けて発射したとの報道があったことに触れ、「ここで政治的な話をするつもりはないけれど、今日、僕の故郷の北海道の上空を北朝鮮のミサイルが通過しました。暴力からは何も生まれません。そのことを各国のリーダーはしっかり考えてほしいです」と語ると、客席からは新たな拍手がわき起こった。

―どんな経緯でトロント映画祭への出品が決まったのですか。
日本での公開は10月28日でしたが、2月初めには作品が完成していました。トロント映画祭は大きな映画祭ですし、マーケットが世界に広がっていくチャンスがあるので、出したいねと話していたところ、呼んでいただいたので、とてもうれしく思っています。

―本作は日本でベストセラーになった同名小説の映画化ですが、初めて原作を読まれた時、すぐに映像イメージがわきましたか。
それはすごいありましたね。2人が住んでいる汚い部屋の中とか、一緒に住んでいる女性に虐げられている男の感じとか、イメージしやすかったです。その辺はまったく自分にもないわけじゃないので、笑。原作については正直、映画にしずらい作品だな、というのが第一印象でした。読んでいて、ずっとしんどいんですよね。でも、読み終わった時に、それまでしんどかったものが美しく転化する。これは映画化してみたい、と思いました。

―キャスティングが見事でした。
最初に原作を読んだ時、蒼井優さんにはオファーしたいと思いました。陣治についても、僕は本人が持っているパブリックイメージと違う役柄をあてるのが好きなんですけど、十和子と年齢差のある40半ばの男と考えた時、阿部サダヲさんなら彼が持っているキレイな部分とコメディの部分を転化させたら、すごい化学反応を起こすだろうなということはある程度計算ができていました。

―阿部サダヲさんはものすごい汚れっぷりでした。
冒頭に出てくる陣治は絶好調に汚れいています。陣治が十和子に最初に出会った時って、顔がまだ白いんですよ。十和子との付き合いが深くなるほど汚れていく。十和子の持っている内面の黒さとか、そういうものを陣治が吸い取ってあげているようなイメージでした。

―一方で人間のクズのようなキャラクターが何人も出てきます。彼らは白石監督の目にどう映ったのでしょうか。
まず共感はないですよね。女性に暴力をふるったりとか、日本で大流行している不倫とか、したことないですし。ただ、不倫って相手のいい部分しか見ないじゃないですか。いい部分だけを見て欲に溺れていく、それは楽しいだろうなと思いますね。関係に責任も持たなくていいわけだし。

人間の嫌な部分がリアルに表現されていました。
嫌なところは確かに多いんですけど、でも、どこかで滑稽だったりするわけですよね。滑稽と嫌なところって紙一重のところがある。僕は「悪」を描きながら、人間そのものって何なんだっていうことを表現していきたいと常に考えているので、そこに関してはそんなに苦労はしていないかな、むしろ楽しかったですね。ただ、演じる側の方たちはどこまでやっていいのかをすごく悩んでいたので、この辺までやっていいんじゃないかみたいな話を結構しましたね。

―物語は本当に想像を超えた展開でした。
最初の20分くらいは本当に何の映画なのか分からないと思うんですよ。話の本筋がまったく見えない。それは割と意図的にしていて、なんの話なのか分からない部分の時間が、実は二人にとって非常に大切だった時間だった、という構造にしています。その辺のさじ加減というか、お客さんを引っ張っていくバランスを保つのは難しかったですね。

―白石監督が本作の中で一番思い入れのあるシーンはどこですか。
いろいろ全部分かった後に思い出すのは、怒ったり、出ていけと言ったり、喧嘩してきたこと。でも実はあれこそが二人にとって重要な時間であり、美しい時間だったと反転する。そういう意味で前半の二人のシーンが気に入っています。あとは、ご飯をちょいちょい食べるでしょ、あの二人。食べ物を一緒に食べるというのは何かを共有することだと思うんです。なので、2人が何を食べるのかはものすごい考えましたね。アンケートを取ったりして研究しました。

―本作の中で監督が一番思い入れのあるキャラクターは誰ですか。
それはもちろん陣治でしょうね。彼が最後に残すものって、絶対マネできないと思うんです。その一万分の一でも、何か一つでも実行できたら、僕も見てくれた人も人生が良くなるんじゃないかなって思います。

―来年公開の次回作『孤狼の血』はすでに完成されています。今後はどんな作品を手がけてみたいですか。
実は時代劇をやりたいなとずっと思っていて、今、ネタもようやく定まり始めてきたところです。作品は自分が決めることもあれば、依頼されることもありますが、共通しているのは、ちゃんと心が燃え上がるかどうか、ということ。「これと共に人生終わってもいいと思えるかどうか」、そういう気持ちで毎回やっています。



Toronto International Film Festival
2017年 トロント国際映画祭

彼女がその名を知らない鳥たち
Birds Without Names

監督:白石和彌
上映時間:123分
出演: 蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、村川絵梨ほか







Biography

しらいし かずや
北海道出身。若松孝二監督に師事し、2010年に『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編監督デビュー。2013年、『凶悪』で新藤兼人賞2013金賞、第37回日本アカデミー賞優秀作品賞・脚本賞ほか各映画賞を席巻。2016年『日本で一番悪い奴ら』『牝猫たち』を製作。2018年には役所広司主演『孤狼の血』の公開が控えている。