欧米諸国での仏教人気 その理由と仏教の魅力とは?
Kenneth Tanaka
武蔵野大学教授 ケネス田中 (2014年11月21日記事)

現在、欧米諸国で仏教の人気が急上昇しているという。一体仏教の何が人を魅了しているのだろうか。9月にトロント本願寺で行なわれた特別講義の講師をした、ケネス田中さんにお話を伺った。田中さんは現在日本の武蔵野大学教授だが、日系アメリカ人3世として日米両国で育ち、国際的な仏教学者として日本国内外でシンポジウムや講演を行なっている。

田中教授は日本で生まれた後、家族と共にアメリカへ渡航し、カリフォルニア州マウンテンビュー市で学生時代を過ごした。

「アメリカに移住した当初は、家族と共にキリスト教の教会に通っていました。ですが、教会には何か違和感を感じていたんです。そんな時、隣に住んでいた日本人の女性がお寺に誘ってくれました。13歳の時でした。その女性に連れられて、弟と一緒に行ったお寺が浄土真宗だったんです」

田中教授はその後、地元の仏教青年会へ参加。高校時代からはYBA(Young Buddhist Association)に参加するなど、仏教徒としての道を歩み始めた。

「仏教学を勉強、研究し始めたのは大学院の頃です。仏教学者のアルフレッド・ブルームさんや海野 大徹(うんの たいてつ)さんに影響を受けてのことでした。宗教を学問として研究したいと思ったんです」

▲トロント本願寺で行なわれた特別講義で講演する田中教授

ブルームさんと海野さんは共に1960年代頃から活躍している仏教学者だ。両氏に影響を受けて研究を始めたという田中教授も、現在ではアメリカ仏教に関して日本での第一人者と言われ、多くの著書がある。

「アメリカには現在、約350万人の仏教徒がいます。人口のおよそ1.2%程度ですね。カナダもほぼ同じで、人口の1%程が仏教徒です。ここ40年の間でアメリカの仏教徒人口は17倍にも増加しました。また、仏教同調者、ナイトスタンド・ブッディストと呼ばれるのですが、その人たちはもっと多い。仏教徒ではないが仏教に興味を持ち、仕事をしたり家族と過ごすなどした後、1日の終わりに部屋でナイトスタンドをつけて1人で瞑想する人たちのことです。アメリカではこれがすごくポピュラーなんです。この他にも仏教の思想に影響を受けたというアメリカ人は沢山いますよ」

当然ながら、アメリカではキリスト教が最も多く信仰されている。人口の数で見れば少数派の仏教だが、最近の増加率はどの宗教よりも高い。現在アメリカで仏教が流行している理由について、田中教授は3つの要因が挙げられると言う。

「1つは多くの有名人が仏教を信仰していることです。アップル社の創立者スティーブ・ジョブズは禅修行に熱心でした。俳優のリチャード・ギアもゴルフ選手のタイガー・ウッズも仏教徒です。もう1つはダライ・ラマの影響ですね。ですが、1番の理由は何と言っても瞑想にあります。アメリカでは仏教の修行方法として『瞑想』が人気で、Spiritualityが求められているんです。Spiritualityは日本語では霊性という意味ですが、アメリカ仏教では『個人の聖なる体験』と呼びます。仏教では瞑想によって個人個人が宗教を文字通り『体験』する事が出来るんです」

また、日本では仏教というとお寺に行って念仏を唱える、というイメージが強いが、アメリカではそういったことはあまりない。

「日本では団体に所属して儀式を行ないますね。一般的に死者儀礼がメイン。お葬式だったりお墓参りだったり、葬式仏教なんて揶揄されるくらいです。しかしアメリカではそうではなく、どのように生きるか、というのがフォーカスされている。大げさに言うと、生きるため、悟るための宗教なんです」

▲田中教授が手掛けた著書の一部

そして、田中教授はキリスト教は「信じる宗教」であるのに対し、仏教は「目覚める宗教」なのだと言う。

「仏教は行なって初めてわかるんです。ただ神話や迷信を信じるのではなく、自ら実践することで物ごとを理解できるようになります。行なって理解する、というプロセスを踏んでいるので、科学的なんですね。物事の本質を理解することを仏教では『智慧(ちえ)』と呼んでいて、智慧には常に慈悲が伴います。本質を理解する、つまり智慧に目覚めると慈悲にも目覚める。だから『目覚める宗教』なのです」

アメリカで今後更に仏教徒やナイトスタンド・ブッディストが増えていくだろう、と田中教授は予測する。アメリカ人の思想に触れることで新たな側面を持った仏教。私たち日本人の従来の概念を覆すような発展を、いま遂げているのかもしれない。


 
 


Biography

けねす たなか

1947年山口県生まれ。武蔵野大学教授。浄土真宗の僧籍も持つ。日系二世の両親とともに1958年に渡米。米国の仏教大学(IBS)と東京大学にて修士号を取得後、カリフォルニア大学(バークレー校)大学院にて博士号を取得。現在は国際真宗学会会長、日本仏教心理学会会長、仏教キリスト教学会理事も務める。主な著書に『オーシャン -アメリカにおける浄土真宗の入門』、『アメリカ仏教 ー仏教も変わる、アメリカも変わる』など。