1人の映画人として、そして1人の人間として
杉野 希妃
女優、プロデューサー(2011年08月19日記事)

自分で枠を作ってしまったら人生もったいないです

下町で自営業を営む家族が、昔のよしみで住み込み従業員を雇ったことから始まる様々な人間ドラマを描いた映画『歓待』。近所づきあいが苦手な妻と、人が良いだけで"ノー"と言えない夫が、不意な訪問者たちによって巻き込まれていく非日常の世界は、実は世界各地で起こっている、または起こるだろう日常を切り取ったもの。他国からの移民と排他的な地域コミュニティ、そしてそこにある違和感を時にユーモラスに、時にシリアスに描いた作品だ。
日系文化会館で行なわれた「第3回新世代映画祭」でオープニング作品として上映され、東京国際映画祭でも高い評価を受けたこの話題作から今回は、主演、そしてプロデューサーを務めた杉野希妃さんを迎えた。


エンドロールに並ぶ沢山の外国人の名前と、27歳の主演女優がプロデューサーを務めるということをあわせて、この作品は異色。外国人俳優を含め、杉野さんと子役以外は平田オリザさん主宰の劇団「青年団」の俳優で、このコラボレーションは、後妻として町にやってきたが町内会の結束が強すぎてなじめないヒロインの状況と重なり、ポツリと浮き立つ違和感に相乗効果をもたらしている。その完成度の高さに、世界各国の映画祭から引く手あまただという。

「今回の映画に関しては、80か所(の映画祭)からオファーを頂いて、上映されているのは30か所くらいです。それらの映画祭には出来るだけ訪れるようにしていますが、一人で全部は行けないので監督と私が交互に行っています。ミュンヘンとパリに関しては2人でいったんですが、例えば、北京を私が行って上海を監督が行く、という感じです。
日本での上映の時はティーチインやQ&Aもやっています。4月に渋谷で公開されてから、だいたい毎日、トークショーみたないことをしていますね」

その忙しいスケジュールの間を縫うように渡加、インタビューに応えてくださった杉野さん。トロントにいらっしゃる前はミュンヘン、パリ、韓国のプチョンなどに足を伸ばしたという。
「(沢山の映画祭に参加していると)国によって、この作品の見方が全然違うな、と思います。例えば、オランダでは移民の問題がある国らしく、『日本では移民はどういう風にうけとめられているのか』という質問を受けました。でも、ニューヨークだと社会的な質問が多かったり『これはフェミニズムの映画なんじゃないか』という意見もあったりして意外でした」

今年秋の北米公開を控え、移民の多いカナダではこの作品がどう捉えられるのか、興味深いところだ。
「この映画のメッセージは、観ていただいた方それぞれの思いで受け止めていただければいいと思いますが、こちらが想像していなかったような反応の方が多いかもしれません。作った時は、この映画で人を怖がらせようとか、笑わせよう、という気持ちはなく、ドラマとして作ったんですが、観た人の中ではホラー映画のように感じた、という意見もあれば、コメディだった、という方もいらっしゃいました。その意見がすごく新鮮で驚きました。
その反応によって観てくださったその方が、普段どういうことを考えているのかな、っていうのが逆に分かるようなこともあります。そういう時は、『映画を通して人と交流してるな』って感じますね」

映画が大好きで、ずっと映画に携わっていきたい、と語る杉野さんは、今作で女優、プロデューサーの2役をこなした。
「(主演しながらプロデューサーとしての仕事をこなすことは)大変ではあるんですけど、どちらかというと、私は女優である、とか、プロデューサーである、という区切りをあんまりつけずに"映画人"として映画に関わっていきたいな、という気持ちがあるので、作品を作るときは、女優だから、プロデューサーだから、っていう役柄はあまり考えたくないと思っていました。
でも、それぞれでやはり大変な部分があって、プロデューサーは作品全体に責任を持たないといけない。最初から最後まで…。特に、資金集めは慣れないことだったのでそういう難しさはありましたね。でも現場で演技をしてる時は演技に集中していましたから、2つの仕事をしていても混乱することはありませんでした。
実は、ゆくゆくは監督業もしてみたいと思っているんですよ。今の日本映画は、人気テレビの番組からの作品や漫画などを原作にするものが多いですね。でも、私はオリジナルで面白い作品を作っていきたいと思っています。だから今、一生懸命シナリオを書いているところです。
特に、いくつかの国の合作という形で出来たら面白いですよね。『歓待』の前に、日本語と英語、韓国語がごちゃまぜになっている映画を撮影したんですが、すごく楽しかったですね。一応、英語を共通語として使いますが、細かい指示は英語が分かる人が日本語や韓国語に訳して…、伝言ゲームみたいな感じです(笑)」

合作映画に参加することでこれまでの価値観が覆されたり、そこから学ぶことがあったり… 枠にとらわれず、1人の人間として接すれば得るものは果てしないという。彼女のそんな思考の柔らかさ、フットワークの軽さは日本語だけでなく、韓国語も操る国際性から来ている のだろう。
「韓国語は大学時代に語学留学して覚えたんです。私は韓国人(在日3世)なので、家では韓国の伝統的な行事をしたり、食卓にもよく韓国料理が出たりする環境で育ったんですが、(韓国語を)話すことは出来なくて…。それがもどかしくて語学留学したんです。
その語学留学が、私にとっては転換期となりました。韓国で、自分のアイデンティティがどこなのか、っていうことを考えたんです。自分は日本人でもあり、韓国人でもある…。でも時間が経つにつれ、自分が誰なのか、を考える前に、自分は世界の1人なんだ、って思いたい、そういう考え方に変わって行きました。 韓国でオーディションに参加して女優として映画に関わるようになってから色んな映画祭に行く機会を頂き、そこで様々な国の方と交流するうちに、よりその考えが強くなりましたね。
例えば、映画への携わり方も、女優・プロデューサー・監督と色々あるように、ひとつのことにこだわったら限界があると思うんです。それって、もったいないと思います。人生、色んなことに挑戦で きるんですから…」


"話べたなので…。伝えたい気持ちは沸々とあるんですけどね、もどかしいですね"と笑う杉野さん。可憐で儚げな外見とは異なり、しっかりとした強い意志の光が感じられるその目は、次のステップとして何を見つめているのだろう。

   映画「歓待(Hospitalité)」より
映画「歓待(Hospitalité)」より

 
 


Biography

1984 年生まれ、広島県広島市出身。女優、映画プロデューサー。
慶應義塾大学在学中に韓国へ留学し、06 年に韓国映画「まぶしい一日」宝島編の主役として映画デビュー。
その後、キム・ギドク監督の韓国映画『絶対の愛』(06)、人気ケータイ小説を映画した作品『クリアネス』(篠原哲雄監督、08)などに出演(『クリアネス』では主演)する。
東京国際映画祭日本映画・ある視点部門作品賞を受賞した『歓待』(11)は、長編映画のプロデューサーとしてのデビュー作。
公式ブログ:ameblo.jp/kiki-sugino