できるだけ飾りや主張を削ぎ、どんな色にも染まるのが役者の使命
Kirin Kiki
女優 樹木 希林 (2015年10月2日記事)
Photo:Courtesy of TIFF

映画『あん』でTIFFの舞台挨拶に登場

ある日、どら焼き屋「どら春」に、アルバイトの応募の張り紙を見てやってきた徳江(樹木希林)。はじめは雇用を断った店長の千太郎(永瀬正敏)だったが、彼女の作った「あん」の美味しさに感動し、徳江を雇うことになる。彼女の作るあんにより、店が繁盛してきた矢先、徳江がハンセン病だという噂が流れ…。

9月10日から9月20日まで開催されていた今年のトロント国際映画祭で上映された河瀨直美監督の最新作『あん』。同映画祭での北米プレミア上映に伴い、監督と共に女優の樹木希林さんが来加した。

ワールド・プレミアとしては今年のカンヌ国際映画祭にて「ある視点」部門のオープニングフィルムとして上映された『あん』は、日本では5月に公開され、現在も全国拡大ロードショー中の大ヒットを記録。多くの共感を得ている理由を樹木さんに伺う。


Photo:Courtesy of TIFF

「この作品で徳江さんはハンセン病の患者だったけれども、みんなそれぞれ抱えている問題はあるんだと思う。隔離されるというような過酷なことはないとしても、自分自身を縛っていたり、何らかの理由で生きにくい時期とか、それぞれあると思うんです。私も、『あん』の徳江さんも、みんな何かを背負っている。そして最後はみんな同じように、人生を全うして死んでいく…。それが私の実感です。だから何かあっても“自分で自分をあきらめないで”と思います、そして、“失敗したっていいじゃないの”って。そんな気持ちで映画を見ていただければいいかなと思います。この作品は、メッセージが全面的に出ている作品ではない。そこが多くの人に受け入られているんだと思うんです。強いメッセージ性があると、“自分で考えるからいいよ”とうるさく感じると思うんですよ。そういう意味で、この作品は見た人が自分の中で消化していっていただける映画だと思います」

河瀨監督の作品には『朱花(はねづ)の月』(2011年)に出演経験がある樹木さんだが、その時は1日だけの撮影のみ。主演として監督と組むのは今作品が初となった。

「河瀨監督は日本の女性には珍しく繊細さと強さが混じっている監督。作品のことになると絶対に妥協しません。大概の俳優は一度河瀨さんの作品に出たら、もう二度と彼女の作品には出たくないと言います。私もそれには同感ですが、若い俳優の方にはぜひ河瀨監督と仕事をして欲しい。そう思うくらい魅力的な監督です」


前半のハイライトは、徳江が千太郎に教えるあん作りのシーン。2人の絶妙な掛け合いは見ている者の気持ちをほのぼのさせる。

「永瀬さんは地味に芝居を作っていく方なので、ただ一緒にいるだけで感情移入ができました」

そして物語のもう1人の主要人物、14歳のワカナ役は樹木さんの実孫である内田伽羅(きゃら)さんが演じた。

「撮影当初は14歳だったのですが、撮影中に15歳になり、少女から大人の女性に変わっていく、微妙な時期を彼女と一緒に過ごしました。編集でカットされてしまったのですが、台本をもらった時には、ワカナ役が徳江の14歳の頃を演じるとあったので、孫にオーディションを受けなさい、とすすめました。私とは全然似ていなくて、今時の若者には珍しく、どっしりしているというか、落ち着いている子なのでバランスが良かったかなと思います」


Photo:Courtesy of TIFF


Photo:Courtesy of TIFF


樹木さんは、1961年に女優としての活動を始め、映画だけにとどまらず、テレビドラマやコマーシャルなどでも印象深いキャラクターを演じ、その活躍は言わずとも知られている国民的女優。今回の徳江役を含め、役作りに対しては「ただやるだけ。55年もやっているので、自然にそうなります」とあっさりと答えたあと、自らの役者哲学を語ってくれた。

「自分でこうであらねば…というものがだんだんなくなってきました。撮影現場では監督の言うことを、“はい、わかりました”と、全て受け入れ、自分は無な状態でいます。役者というのはどんな色にも染まっていくのが一番いいと思っているんです。台本もらった時に、“こういう風にやろう!”という気負いはないです。役に入った時は、できるだけ自分の飾りや主張を削いでいく、そんな気持ちでいます。役者を始めた当初は、いつでもやめる、というつもりだったんですが、今は、ここまでやってきたんだから、今後も役者を続けようと思っています」

長い役者人生だが、映画に対して強い思い入れが芽生えたのはここ10年ほどのことだという樹木さん。河瀨監督や、同じくカンヌ、トロントの国際映画祭に招待され、樹木さんが出演している『海街diary』の是枝裕和監督との出会いによるところが大きいといい、2人を含めた日本映画の今後を担う監督への思いを述べた。

「ものを創る、創造の漢字“創”という漢字は絆創膏の創(そう)という字で、きずという意味。だからものを創るとは、今の自分を乗り越えるために、これまでの自分を否定して、破って、次に進むってことじゃないかと思います。今後の日本映画の監督にはいそういう意味で期待しています」

数々の映画賞での受賞のほか、紫綬褒章や旭日小綬章を受章している樹木さん。

「おばあさん役ができる年齢の役者はたくさんいるけど、みんなあえて“おばあさん”を演じるのよね。私はそのままをやっているだけ」

あくまで自然体の樹木さんの次回作は来年公開予定の是枝監督の作品が決まっている。

 

 
 


Biography

きき きりん

1961年に文学座に入り、俳優活動を始める。2008年紫綬褒章受章。『東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜』(07年)で第31回に日本アカデミー賞最優秀主演女優受賞。『わが母の記』(12年)で 第36回日本アカデミー賞にて最優秀主演女優賞ほか、主演、助演含め映画賞の受賞数多数。

『あん』オフィシャルサイト:an-movie.com