日本の女性観や男女のすれ違いを追う
Kyoko Miyake
映画監督 三宅 響子(2017年5月19日記事)

アイドル文化から見える日本という国


©2017 Brakeless Limited

北米最大級の国際ドキュメンタリー映画祭「Hot Docs」が4月27日から5月7日まで行なわれ、日本人監督の作品としては、サンダンス映画祭にもノミネートした三宅響子さんによる『Tokyo Idols』が参加した。これまでに、福島第一原発事故の避難民となった親戚を追った『波のむこう~浪江町の邦子おばさん~』や、2005年4月に起きたJR福知山線脱線事故を取り上げた『止まらない列車』など、日本社会の核心をついた作品を発表してきた三宅さん。最新作『Tokyo Idols』ではアイドルカルチャーに焦点を当て、日本における女性観や男女観についてを追求している。Hot Docsへの参加のためにトロントを訪れた三宅さんに、本作を製作した背景やねらいについて話をうかがった。


―まずは、映像を撮り始めたきっかけからお聞かせください

「もともと映画やドラマが好きで、漠然と映像関連の仕事に就きたいと思っていました。しかし、当時はイギリスに住んでおり、さらに大学院で研究者を目指していたので、今さら映画学校に行く年齢でもない上に、お金も無い状態で。そんな中で、幸運なことに手頃な値段の機材が出てきて、2007年にビデオカメラを買いました。映像関係のアシスタントやインターンシップに申し込んだのですが、1つも仕事は見つからず、もう自分でやるしかないと思い短編を撮り始めました」

―新作『Tokyo Idols』に関してですが、日本のアイドルを題材にしようと思った理由をお聞かせください

「日本で昔から感じていたモヤモヤ感が、アイドル文化に結晶されているような気がしたからです。決定的な出来事は、日本に帰国した際に前田敦子さんがAKB48を卒業するということが大々的に報道されていたこと。新聞で大人たちが真面目にアイドルの総選挙を語っているのを見て、アイドル文化はメインストリームになっているのだなと実感し、その文化から見える日本というのはどんな国なんだろうと思ったんです。ずっと感じていたモヤモヤ感をもう一度見つめ直し、そこから見える日本の女性観や男女のすれ違いを追いたいと考えました」

―『Tokyo Idols』では、アイドルの柊木りおさんに密着しています。彼女を選んだのはどんな理由からですか?

「2つの理由があります。まずは、マネージメントが徹底されているアイドルは、撮影内容のコントロールが厳しくなるからです。りおさんはマネージャーと二人三脚で、ご家族とも話すことができ、ファンの方たちもオープン。そうやって、アイドル以外の顔が見られる環境があったことです。もう1つは、やりたいことがはっきりしていて、それをきちんと伝えてくれる彼女の人柄ですね。こちらとしても、アイドルを弱々しい被害者のようには写したくなかった。りおさんだったら、そうはならないだろうという安心感がありました」


©2017 Brakeless Limited

―実際に2年間、密着取材を行なったとのことですが、最終的にアイドルに対してどのような気持ちを抱きましたか?

「頑張っている姿に心を打たれましたし、もし自分も今10代で日本在住だったら、アイドルになりたいと思っていたかも知れません。その一方で、アイドルというプラットフォーム自体に批判的な気持ちがあることもぬぐえず、最後まで葛藤していました。アイドルとしての成功は、歌唱力など努力や才能だけではない部分、"カワイイ"と思われることに左右されていて、そこに日本的な女性を閉じ込める力が働いているような気がするんです。しかし、りおさんは典型的な”カワイイ”というタイプではないと自分でも思っているし、叩かれてもものともしない強さを持っている。新しい形で切り開いていく力がある人だと思い、アイドルもそうなっていけばいいなと感じました」

―ファンの方たちに対するイメージは、撮影前と後でどのように変わりましたか?

「やはり、最初は私なりの偏見がありました。15年間イギリスに住んでいたこともあり、同年代の女性に目を向けずに半分も年下の女性を見るということに対する違和感ですね。しかし、実際にはあまりいやらしい感じは無いんです。ファンの方たちの様子を見ていると、彼らをここまで必死にさせているものを知りたいという気持ちに変わっていきました」

―ファンの方たちがなぜ必死でアイドルを応援しているのか、その答えは見つかりましたか?

「私は超就職氷河期と言われたロスト・ジェネレーション世代です。バブル期で育ったのに、いざ社会に出る段階でバブルが弾けました。安定した職業を得られずに不安定な状況が続いた人が多かったことでしょう。そんな世代の男性たちは、アイドルを応援することでステップアップしていく夢を一緒に見たり、一家を支える強い男性のような気持ちになれるのかも知れません。また、アイドルの女の子は、少し古風でやわらかく、包み込んでくれるような感じの子が多いので、そこに安らぎを求めているのかなと思っています」


©2017 Brakeless Limited

―では、もしもアイドルが無くなったとしたら、日本はどのような社会になると思いますか?

「アイドルは、人々のストレスが爆発しないようにする潤滑油のような役割を果たしている気がしますね。もしも、今後アイドル文化が無くなったとしたら、ストレスを抱えた人に『あなたならできる!』という気持ちを与えるものが、違う形で出てくれるのかも。2次元の世界や、初音ミクのようなバーチャルな存在が進化したり、みんなで一緒に孤独を埋める空間が生まれるのかも知れません」

―最終的に「Tokyo Idols」を通して、どのようなことを伝えたいですか?

「日本だとNetflixで公開されるのですが、何らかの形で話し合いをする機会を提供できればと思います。同年代の女性にアイドルに関する映画を作っていることを話すと、アイドルについて思うことはあっても『男の人ってそうだよね』というあきらめ感が漂う。でも、仕方がないと思っても何も変わらない。ですから『Tokyo Idols』を通して議論するきっかけになったらいいですね」。


Biography

みやけ きょうこ
映画監督。2011年に初めて撮った短編映画『ハックニーの子守唄』がベルリン国際映画祭にて若手育成部門の最優秀賞を獲得する。映画祭Hot Docsで上映された『Tokyo Idols』はサンダンス映画祭にも登場した話題作。

サイト:kyokomiyake.com