トロント国際映画祭 『バケモノの子』一般上映会Q&A
Mamoru Hosoda
アニメーション監督 細田 守 (2015年11月6日記事)
両親の離婚により父親と離れ、また、親権のあった母親が交通事故で亡くなったことにより、1人ぼっちになってしまった9歳の少年。親戚の養子としてもらわれそうになるところを飛び出し、渋谷の街をさまよっていた。そこで少年は熊のような姿、形をしたバケモノの熊轍に出会う。一瞬で見失った熊轍を探しているうちに少年はバケモノの世界“渋天街”に迷い込み…。

『おおかみこどもの雨と雪』から3年ぶりの細田守監督の新作『バケモノの子』。日本で7月に公開された同作品は、細田監督作品の最大のヒット作となり、9月に行なわれたトロント国際映画祭での一般上映会にも熱烈なファンが会場に詰めかけた。上映後のQ&Aでは、語りかけるように親しみすい口調で、質問に丁寧に答えていた細田監督。その上映後のQ&Aを紹介します。

―『バケモノの子』の制作のいきさつを教えてください
「実は、前作『おおかみこどもの雨と雪』を作っていた当時、私たち夫婦には子どもがいませんでした。それで、子どもが欲しいなという願いを込めて『おおかみこどもの雨と雪』を作りました。実はその後、その願いが通じて僕ら夫婦に子どもができたんです。男の子が生まれました。今度はこの子がどうやって成長していくんだろう、きっと親だけが子どもを育てるのではなく、親以外のたくさんの人たちに育てられて成長していくんだろうなと思った時に、この物語を思いつきました」

―前作『おおかみこどもの雨と雪』とはつながりがありますか?
「作品の世界は違いますが、 どちらも親と子、そしてその子どもの成長を描いているというテーマにおいて連続性があると思っています。『おおかみこどもの雨と雪』は、お母さんから見た子どもの成長。この作品は、お父さん、擬似的なお父さんから見た子どもの成長を描いていると思います」

—これまでの監督の作品では、現実世界から離れた別世界での登場キャラクターは、赤い輪郭線で表現されていました。今作品で赤い輪郭線がないのはなぜですか?
「これまでの作品では現実ではない世界を描くときに、記号として赤いアウトラインを使っていたんですけれど、この映画は現実とは違う世界、バケモノたちの世界のシーンが長いので、世界を分けるべきか、分けないべきか、実はすごく考えました。その結果、あえてこの作品では分けないで、両方の世界で成長していくという連続性を考えて、赤い線は使いませんでした 。 日本の伝統的な芸術である日本画では、神様を描く時は赤い線を使って、世界を分けています。バケモノの世界を赤いラインを使って分けるというのは芸術的な意味ではすごく大きかったんですけれど、それよりも今回はストーリーのテーマを優先しました」

—この作品では戦いのシーンで登場人物が死ぬことはありませんね。そこは意識されたのですか?
「そうですね。戦うシーンを作る時に、刃物を使わないようにしたいな、と思ったんです。戦って一方が死んでしまうというような戦いにしないように、刀はさやの中に入れたままで、戦わせています。小さな子どもたちも見る作品なので、刃物は避けました。ですが、やはり戦いのシーンは手に汗にぎって見てもらえるように(迫力を出すように)…と気遣いをしました。 この作品の中の戦いは、お互いが憎しみあって戦うのではなくて、神様たちへの神事といいますか…。例えば、日本の相撲が、どちらが強いかを確かめる勝負ではなく、神様に捧げるお祭りとしてあるように、それと同じようにしたいと思いました」

終了間際に、幼い子どもから「熊徹がオオカミに見えた」という大胆な発言が飛び出したが、細田監督は笑顔で「熊のつもりで描いたんだけどね。前の作品でオオカミを描いていたから似てしまったのかもしれない」と応じ、会場は笑いに包まれた。舞台から下り、会場を去る間もサインや握手を求めるファンが監督の周りに殺到。細田監督の人気の高さが伺える上映会であった。フランスで12月に上映がされるのをはじめ、世界30か国以上での上映が決まっている『バケモノの子』。 北米の劇場公開は早ければ年末に予定されている。


 
 


Biography

ほそだ まもる

富山県出身。東映動画(現東映アニメーション)入社。クリエイターとして活躍後、演出家に転向する。2006年に『時をかける少女』を発表し、日本アカデミー賞の最初の最優秀アニメーション作品賞受賞作となる。『サマーウォーズ』(09年)、『おおかみこどもの雨と雪』(12年)でも日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞したほか、国内外で多数の賞を受賞。

『バケモノの子』オフィシャルサイト:www.bakemono-no-ko.jp