多彩な音色を紡ぎだす
ハープの魅力を追求
Mariko Anraku
ハーピスト 安楽真理子(2014年5月16日記事)

"続けていければその先に必ず灯りが見えてくる"

Telus Centre for Performance and Leaning にて、4月27日に、公演を行なったハーピストの安楽真理子さん。ニューヨークのメトロポリタン歌劇場管弦楽団の専属ハーピストの安楽さんは、会場となったホールに併設されているトロント王立音楽院でハープとピアノを学んだ経験を持つ。現在は、ニューヨークのメトロポリタンオペラの 活動拠点であるリンカーンセンターでハーピストとして演奏している。また、ソロや室内楽の演奏活動も行なっている。当日のコンサートではハープのソロ、ハープとピアノの二重奏、そしてハープの二重奏などで、ハープの魅力が存分に伝わる演奏を披露。演奏終了後は観客からスタンディングオベーションが送られた。


「トロントには父の転勤で私が11歳の時から高校の途中まで住んでいました。ハープはそれ以前から習っていましたが、トロント王立音楽院から奨学金をいただけることになったのがきっかけで、通い始めました。

今回、トロント公演のオファーをいただいた際にまっ先に思ったことは、学生時代にお世話になったお二人の恩師、ピアノの先生のジェイムズ・アナグナソン先生(現在は母校の学長)とハープのジュディー・ローマン先生と共演したいという事でした。今回のリサイタルでは、ピアノとハープのそれぞれとデュオ曲を披露しましたが、実は、ピアノとハープの為に書かれた曲というのは少ないのです。でも、どうしても恩師と共演したかったので、サルゼード作曲のピアノとハープの為のソナタを選びました。ハープの恩師、ジュディーと相談した上、二重奏はハープが最も美しく響く曲を選曲しました。また、日本人なので、日本を代表する現代作曲家、一柳慧(いちやなぎ とし)さんの曲もプログラミングしました。お客様の皆様に楽しんで頂けるようユニークなプログラムになった と思います」

左からジュディー・ローマン先生、安楽真理子さん、ジェイムズ・アナグナソン先生

トロントに住んでいた頃の思い出を伺っても、安楽さんからは共演した二人の恩師の名前が発せられる。それほど彼女の音楽人生にとって重要な人物だったようだ。「お二人には大変お世話になったので感謝しています。30年前に知り合ったのに、今でも当時と変わらず、まるで親友のように接してくださり、今回も本当に温かく迎えて下さいました。私にとっては先生と教え子という枠を越えた大きな存在です。音楽的に素晴らしい先生である事はもちろんですが、お人柄も尊敬しています。人生のメンターという感じですね。お二人の先生方に出会わなかったら、私の人生はどうなっていたんだろう? というほどの素晴らしい影響を受けました。特にジュディーにはお世話になりました。トロントに住んでいた際、父がロサンゼルスに転勤になりました。ところが、ロスには良いハープの先生がいなくて…。するとジュディーが『それなら私の家に住んで、ハープを続けたらよい』とおっしゃってくださり、私は一人トロントに残り、彼女の家族にお世話になりながらハープを続けました」

家族と離れてハープに集中した10代を過ごした安楽さん。そこまで彼女をのめり込ませたハープの魅力を伺う。

札幌で開催されているパシフィック・ミュージック・フェステバルにて(2013年)
写真提供:PMF組織委員会


「ハープの音色は"天使のような"などとその美しさが表現されることがありますよね。もちろん、そういう音も出せますが、力強い音、甘い音、深い音、激しい音、ドライな音、また、ガラス細工のように繊細でキラキラした音もハーブには出せるのです。そのように多彩な音色が出せるところですね」これまでを振り返って、「ハーピスト になろう!」と思ったことはなく、全く自然な流れで現在があると話す安楽さんが、音楽に初めて出会ったのは3歳の時。現在もご健在であるお祖母さんからピアノの手ほどきを受けたという。そして8歳になった頃、叔母にあたるハーピストの井上久美子さんからハープを習い始めた。その後父親の転勤でバンクーバーとトロントでハープを学んだ彼女は、一度日本に戻り、上智大学に進学。その後、音楽の道に進みたいという気持ちから、名門音楽大学として知られるニューヨークのジュリアード音楽院に編入。同大学院を卒業。95年、大学院在学中にメトロポリタン歌劇場管弦楽団のオーディションに受かり入団し、現在に至る。

「9月から5月半ばまで行なわれるリンカーンセンターでのオペラシーズンに出演しています。以前はシーズン終了後にオーケストラの米国やヨーロッパのコンサートツアーが行なわれていましたが、最近はツアーが少なくなってきているのが現状です。オーケストラで弾く傍ら、マンハッタンミュージックスクールでハープを教えたりソロや室内楽の演奏もしています。メトロポリタン歌劇場管弦楽団に入団してから今年で19年になりますね。
他のオーケストラに移る方やリタイヤする方などもいらっしゃるので、メンバーは入れ替わりがあります。数年前 に所属年数60年以上のティンパニー奏者の方がリタイヤされました。90歳少し前まで演奏なさっていたんですよ。 演奏家にとって年齢を重ねる事のメリットですか? それはもちろんあります。私自身、20歳の頃の音色と現在の音色は違うと思いますし、人生と同じく経験を積んできたからこそ自然と奏でられる音色があると思います」
プライベートでは3歳半になる息子の母親でもある安楽さん。その人生経験はハープに対する向き合い方に変化をもたらしている。
「練習時間は、子供がいなかった時に比べて減りましたが、短時間の中でこれまで以上に、一刻、一刻を大切に、一つずつの音を大切にするようにしています。心をこめて一生懸命、楽器と楽譜に向き合って音を奏で、曲を作り上げていくように心がけています」

子育てとの両立には、睡眠不足をあげるが、公演がある日も必ず夕食は一緒に食べる、幼稚園の送り迎え、また、習い事に連れて行ったり、オフの日は思う存分一緒に遊ぶなど、出来るだけ子供との時間を捻出するように努力しているという。音楽家として、そして母親として多忙な生活を送る安楽さんには、最近特に思うことがあるという。それは継続することの大切さだ。

「続けていく間はつらいこともあるし、面倒なこともある。でも、その後の結果には大きな達成感がある。追求している時は苦しいし、私自身、小さい頃や上智大学に通っていた頃、みんなが楽しく遊んでいたり、放課後お茶に行くのを横目で見て、"どうして私は練習しないといけないんだろう?"と思っていたこともありましたけれど、今では本当に続けてきてよかったと思っています。私の場合は、音楽を続けてきて、人間関係を含め、本当に色々な方と出会えて恵まれています。トロントで出会った恩師たちと30年来のおつきあいを築けたことで、言葉では表現できないような素晴らしい環境をいただいていますね。続けていればその先の灯りが必ず見えてくると思います。
音楽に限らず、何事にも通じるのではないでしょうか。古巣のトロント王立音楽院で演奏出来たことに感謝し、また、先生方に御恩返しが出来た事を嬉しく思います」。



 
 
Biography

あんらく まりこ

東京生まれ。95 年、メトロポリタン歌劇場管弦楽団(MET) の専属ハーピストに就任。97年には、CD「Harp Recital」を発売。ベルリンフィル フルート奏者Eammanuel Pahudとのコラボ作品「Beau Soir」もリリース。 MET公演のほか、世界の主要な音楽祭に参加し、ソリストとしても国内外の数々の公演を行なう。今夏は札幌にて世界の若手音楽家を育てる目的で行なわれているパシフィック ミュージック フェスティバルで演奏と講師も 勤める。イベントの詳細はサイトにて。www.pmf.or.jp
また、ヴァイオリニストの天満敦子さんとのデゥオコンサートも予定されている。