トロント日本映画祭開幕作品「駆込み女と駆出し男」
Masato Harada
映画監督 原田 眞人 (2015年6月5日記事)

こだわりは江戸時代の台詞まわし

離婚を女性から切り出すことが許されなかった 江戸時代。離縁を願う女性たちは、幕府公認の縁切り寺であった鎌倉の東慶寺に駆込んだ。寺に入った女性たちは駆込み寺の作法に従い、御用宿にて取り調べを受けることになる。御用宿に居候中の信次郎(大泉洋)は戯作者に憧れる医者見習い。信次郎は、彼女たちの抱える問題を聞き、解決しようとさまざまな戦法を練っていく…。

6月11日(木)から26日(金)にかけて日系文化会館にて開催されるトロント日本映画祭。開幕初日に上映されるのは、先月日本で公開されたばかりの『駆込み女と駆出し男』だ。当日の上映会には、原田眞人監督が舞台挨拶と上映後のQ&Aに登場する。原田監督は、1972年に起きた連合赤軍による立てこもり事件、あさま山荘事件を扱った『突入せよ!「あさま山荘」事件』(02)、御巣鷹山での日本航空123便墜落事故を題材に大事故を取材する新聞記者の奮闘を描いた『クライマーズ・ハイ』(08)、そして 第35回モントリオール世界映画祭の審査員特別グランプリを受賞した 『わが母の記』(12)などが代表作として知られている監督だ。そして俳優としては、『ラスト サムライ』(03)でトム・クルーズと共演。悪役の大村参議を演じ、その演技も話題となった。

▲映画『駆込み女と駆出し男』より Ⓒ 2015 "KAKEKOMI" Film Partners


はじめに、最新作『駆込み女と駆出し男』について最大の見所を伺った。

「2時間23分の、天保の時代へのタイムスリップ。あるいは、クリント・イーストウッド監督作の『許されざる者』(92)がREVISIONISTIC (歴史修正主義:古くから言われてきた史実に新たな解釈を加えること)WESTERNと言われたように、REVISIONISTIC EASTERNを目指した点です」

今作がはじめての時代劇だという監督。自身の時代劇体験は小学生の頃に遡る。

「小学三年生のときに京都の母の知人を訪ね、その人の紹介で東映、大映、松竹の撮影所で時代劇の撮影を見学しました。(子どもには退屈だと思われがちな時代劇見学ですが)撮影見学は少しも退屈ではなかったですね。当時ファンだった大川橋蔵さんにもこの時に会い、中村錦之助さんや勝新太郎さんにもサインをもらいました。時代劇で育ったようなものです」

そして今回の制作のいきさつについて続けた。

「今回の企画はプロデューサーから持ち込まれましたが、これまで時代劇の企画は何回も挫折していたので、とにかく実現するならば前向きに考えたいと、取り組みました。原案である井上ひさしさん著の『東慶寺花だより』は十五の連作から成り立っているので、どのエピソードを生かすとか、ヒロインを誰にするか、仇役をどう設定するか、時代をいつにするか、などがキーでした。原作の時代設定は、井上ひさしさんが敢えて1805年頃から1830年代までの話題を入れて曖昧にしていましたから。強権発動の政府という意味で現代につながるものもあるし、結局は水野忠邦や鳥居耀蔵が暗躍した1841年から2年の話に変えました。いずれにせよ、駆込み寺の話なら、『ラスト サムライ』の撮影で使われていた姫路の圓教寺を使えるな、と思ったのが最大の理由ですね。プロデューサーには圓教寺と信次郎役の大泉洋さんを押さえたらやる、と言った記憶があります」

▲映画『駆込み女と駆出し男』より Ⓒ 2015 "KAKEKOMI" Film Partners


撮影に使われた寺社仏閣は兵庫県姫路市にある圓教寺をはじめ、京都の妙心寺、楊谷寺(ようこくじ)、東福寺、随心院、滋賀の三井寺、西教寺、百済寺(ひゃくさいじ)、教林坊など、20か所以上。歴史的建造物を舞台にした疾走感のある展開は、2時間23分という長さを全く感じさせない。その鍵は、ストーリー展開のテンポにある。

「早いテンポは自分の作品共通です。昨今の時代劇のテンポがスローすぎるのではないかと感じますね。物語の展開は、マトリョーシカ人形のような、入れ子構造で劇中劇を次々並べることを意識しました。『アラビアン・ナイト』のように」

1979年に『さらば映画の友よ インディアンサマー』で、デビューした原田監督。高校在学中から映画監督を夢見るようになったという監督は卒業後、イギリスのロンドンに留学する。

「当時、世界でもっとも数多くの古今東西の映画を見ることが可能だった場所が、パリのシネマテーク・フランセーズか、ロンドンのナショナル・フィルム・シアター(現BFIサウスバンク)でした。フランス語は歯が立たなかったのでロンドンを留学先に選んだ次第です。いずれにせよ、その後ロサンゼルスで長期間暮らす予定があったので、その前にヨーロッパで生活してみたかったというのもありましたね。ロンドンでは、半年で400本の映画を見ました。最後の一か月はドイツのベルリン国際映画祭とスペインのサン・セバスチャン国際映画祭で過ごしたので、一日5本くらいのペースで見ました。もちろん、すべて劇場で。サン・セバスチャンでは憧れの巨匠ハワード・ホークス監督と会い、それを機に、監督になる夢が決意に変わりました」

▲映画『駆込み女と駆出し男』より Ⓒ 2015 "KAKEKOMI" Film Partners


留学生活で夢に急接近した監督に留学生活を有意義にする秘訣を伺うと、「とにかく人と会う。自分をさらけだして話す。尊敬する人物がいたら会いに行く、もしくは会おうと努力すること」であると、自身の経験を踏まえて答えてくれた。

作品作りは「生きる歓び」だと断言する監督。今年8月にも新作の公開が控えている。

「8月8日に『日本のいちばん長い日』が日本で公開されます。この作品は、1967年に公開された岡本喜八作品のリメークではありません。昭和天皇が鈴木貫太郎枢密院議長を終戦内閣の首相に名指してから玉音放送が流れるまでの四か月間の日本人の思いを綴ったもの。来年は、おそらく、時代劇の超大作に取り組むことになります」

公開作品と新作の制作が控える多忙な原田監督が登場する『駆込み女と駆出し男』の上映会は、6月11日(木)。日本で公開されたばかりの話題作の鑑賞に加えて、近い距離で原田監督に会えるこの機会をお見逃しなく!


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Biography

はらだ まさと


静岡県出身。1979年『さらば映画の友よ インディアンサマー』で監督デビュー。95年の『KAMIKAZE TAXI』は海外でも高い評価を得る。その後『金融腐蝕列島[呪縛]』(99)、『突入せよ!「あさま山荘」事件』(02)、『クライマーズ・ハイ』(08)など話題作を発表。12年に公開された『わが母の記』で、第35回モントリール世界映画祭審査員特別グランプリを受賞。戦後70周年となる今年8月には『日本のいちばん長い日』が公開予定。