小さな明かりを人々の心に
Masayuki Hirota
セブンスデー・アドベンチスト教団 牧師 廣田 信之 (2014年12月5日記事)

トロント日系セブンスデー・アドベンチスト教会では毎年秋、日本をはじめ世界各国から特別講師を招き講演を行なっている。今年は日本の久留米キリスト教会から廣田信之牧師が招かれ、「わたしを変えた聖書の言葉」と題した特別講演が行なわれた。

廣田牧師が聖書に出会ったのは30代の頃。友人の誘いでセブンスデー・アドベンチストの教会を訪れたのがきっかけだったという。

「千葉の木更津にある教会なんですが、そこに後輩に誘われて…。公判中だったのかな? 私が精神的に落ち込んでいる時に行ったんです」

後輩が廣田牧師を誘ったのは、当時抱えていた、想像を絶する苦闘を思いやってのことだったのだろう。廣田牧師は化学工場での爆発事故で全身火傷という重傷を負った。しかし、廣田牧師が背負っていたものは生死の境をさまよった傷跡だけでなく、自らの判断ミスが爆発事故を引き起こし、同僚を帰らぬ人にしてしまったという重荷だった。その過去は、講演で淡々と語られた。

「一般社会でしたら、こんな事故はなるべく隠したい過去ですよね。ですけれども、そんな暗い人生、葛藤しかなかった暗闇で神に出会った。そして、神の素晴らしい愛と恵みを体験したからこそ生きてこられたんです。その素晴らしさを伝えたいと思ってこうやって皆さんにお話をしています。もちろん、今までの人生を断ち切ることが出来るわけではないんです。でも、個人で抱えている色々なもの、罪の結果だったり、問題だったり、病気だったり、そういう現実を受け止めながらも神の豊かな愛、それをお伝えしたいという一心で牧師をさせていただいています。それが、私が事故の後、命が与えられた理由であり、私の使命だと思っています」

▲廣田牧師(左)とトロント日系セブンスデー・アドベンチスト教会の中川中牧師

廣田牧師はセブンスデー・アドベンチストという教団に属し、人々を導いている。しかし、講演会に足を運ぶ人たちに訴えるものは特定の宗教でなく、もっと人間として根底に流れているものだ。

「私はね、やっぱり、人間は心の拠り所というものを求めていると思っています。聖書的に言うならば、神によって人は作られています。偶然ではなく、進化論ではない。それが聖書の内容です。私たちの真の父は神様なんです。だから、例えば迷子になっていた子どもがお母さんを見つけたら泣きながらも安心するように、真の父の胸の中で人間は安心できると思うんです。そんな本当の父がおられ、安心できる場所がある、そういうことを覚えておいて、何かがあった時には訪ねて欲しいと思って講演をします。人間の人生はパズルである、と言った方がいます。ところが、このパズルに一つだけ抜けているところがある。その1ピースが神様です。私はね、意識しようとしまいと、人間はそれを求めていると思うんです、本当は。私も、あの事故がなかったら真のお父さんのところに来なかったかも知れない。でも、こうして出会わせてもらって得ることが出来た心の平和を語ることで、今苦しみを抱えていても、自分の価値観を取り戻すことが出来る。罪を犯した人も許される。そのままのあなたを受け入れてくださる神様というものがある。それを伝えたいんです」

隣で静かに廣田牧師を見守っていた奥様の由美子さんは、頷きながら言葉を足してくれた。

「人間って孤独な時がありますよね。人間関係で孤立したり、病んでいる時。真っ暗闇の中にひとりでいる時。孤独っていうのが人間にとって一番辛いことではないでしょうか? 私は大きな病気をして入院しまして、何でもいいから、誰でもいいから助けて欲しい、そう思いました。本当に孤独な戦いをしなければいけない、一人ではとても苦しくて、気が狂ってしまいそうだった。孤独に押しつぶされてしまいそうでした。そんな時に、神様が一緒にいてくださった。人間には誰しも、一緒にいてくださる存在が必要なんだと思うんです」

▲廣田信之・由美子夫妻

確かに、人は頼れる人、頼れる何かがなければ、とても弱いものだ。だから友達や家族を作り、一緒にいようとするのだろう。

「そうなんですよ。ボクシングが強いからその人が強い訳じゃないんです。内面の強さって別ですから。人間にはどこかにもろさがある。そう思うんです。大統領であろうと首相であろうと、皆ありますよ。生きている者にはね。いつもはそれを見ないようにしてるかも知れない、考えないようにしてるかも知れない。でも、どこかにはあるんです。そして、人間は弱いもの同士ですし、時には傷つけあったりします。だけども、それを受け入れ、そのままの私たちを尊いと言ってくださる神がいます。学問で優秀であったり、人気があったり、足が速かったり、高く飛んだり出来る人がいますが、そういうことではなく…。聖書の中には『あなたはわが目に高価で尊い』という言葉があります。これに触れた時に、人と比較することは取るに足らないことであると分かるんです。それは、大きいか小さいかでしょ? 速いか遅いかでしょ? 神様は、あなたの存在に価値がある、といってくださっているんです。人と比較して劣っていると思ったり、孤独に苛まれた時、この言葉を思うことで、自分の人生を取り戻して欲しいと思います」

自分自身の体験を話し聞かせることで、誰しも自らの心の暗闇から立ち上がることが出来ると説く廣田牧師は、広島三育学院高校での祈祷週のお話の時、生徒さんの一人が、廣田牧師の話を聞いて感想文を書いたそうだ。

「先生のお話は暗い、って書いてあるんです(笑)。正直ですね。確かにそうだと思うんです。大怪我をして人を傷つけてしまった、という話ですから。しかしその後に、『でも、暗いからこそ、光が輝いて見えることが分かりました』と書いてくれたんです。明るい中でロウソクを灯してもあまり見えませんが、暗い中で灯すロウソクの炎はどんなに小さくても光り輝いて見える。それがイエス様の輝きなのです。そういう小さな明かりを皆さんの心に灯せるように、と思って話しています」

牧師という仕事は天職、と真っ直ぐな目で語る廣田牧師。宗教という枠を超えて、人間同士として話していただいた今回のインタビュー、目の前の仕事や義務をこなすのに忙しい毎日で忘れかけていたものを教えていただいた思いで教会を後にした。


 
 


Biography

ひろた まさゆき

セブンスデー・アドベンチスト教団西日本教区、久留米キリスト教会牧師。三育学院大学キリスト教学科卒業。20代の時、勤務していた化学工場での爆発事故のため重傷を負い、2 年余りの闘病生活を送る。この事故で、自身に業務上の過失が認められたため起訴され、裁判で執行猶予判決を受ける。人生に大きな絶望感を抱いていた矢先に聖書に出会う。現在はこの経験を元に、久留米教会にて人々を導いている。

トロント日系セブンスデー・アドベンチスト教会
(19 Mortimer Avenue)tel.416-425-8005