ミュージカルで伝える花街の世界
Masayuki Suo & Tamiyo Kusakari
映画監督 周防 正行 & 女優 草刈 民代 (2015年7月17日記事)

時間と経験の積み重ねで生まれる品格

舞台は後継者不足に悩む京都の花街。ある日、下八軒の万寿楽に舞妓志望の春子(上白石萌音)が訪れる。言語学者の京野(長谷川博己)の計らいにより、 万寿楽の見習いになった春子。万寿楽のおかみ(富司純子)や芸妓の里春(草刈民代)らに支えられ、花街の厳しいしきたりや踊りの稽古、慣れない言葉づかいに悪戦苦闘し、一人前の舞妓になっていく…。

先月行なわれた日系文化会館によるトロント日本映画祭で、 最終日に上映された周防正行監督の最新作『舞妓はレディ』。上映会には周防監督と監督の妻であり、同作品で芸妓の里春を演じた女優の草刈民代さんが登場した。花街を舞台にした作品の企画が持ち上がったのは、1996年に公開された『Shall we ダンス?』の制作前とのことだといい、満を持しての映画化となった本作品。周防正行監督と草刈民代さんに話を伺った。

▲映画『舞妓はレディ』より ©2014 F/T/K/D/K/K/A


―歌や踊りを交えて物語が展開していくミュージカル仕立ての作品となっていますが、ミュージカル映画の制作は以前から考えていたのですか?
周防監督「漠然とミュージカルの要素が入った作品を撮ってみたいとは思っていたんですけれど、ミュージカル映画を作りたいから選んだ素材ではないです。僕が感じる京都のお茶屋さんの面白さを伝えるには、ミュージカルという形式が一番伝わりやすいかなと思いました。今回作ってみて楽しかったので、またいつかミュージカル映画を作りたいですね」

―監督にとって初めてのミュージカル映画ですが、出演者側の感想を教えてください
草刈さん「11年に公開された私の踊りを収めた『ダンシング・チャップリン』というバレエ映画の作品があるんですけれど、セリフがなく、踊りだけの作品をどう撮るかということを、監督がその作品で経験していたので、その経験を生かして今回ミュージカル映画に取り組めたんじゃないかという気がしています。 監督は、バレリーナの現役時代から私が踊っているのを見ていたので、踊りを見ていた時間が長いですし、撮った経験もある。今作では、振付家に、より具体的にイメージを伝え、狙いを明確にして撮っていました」

―キャスティングは歌って踊れる人を選ばれたのですか?
周防監督「物語のキャラクターとして相応しい方を探して、その人にお願いする時に、”歌と踊りもお願いします“というやり方をしました。観客も上手に歌える役者さんを見たいというのではなく、”この役者さん、こんな風に歌うんだ!“という驚きがある方が楽しめると思ったんですよね。ずいぶん前の映画になりますけれど、ウッディ・アレン監督の『世界中がアイ・ラヴ・ユー』(96)のように。あの作品を見た時に、”あ、先にやられちゃった“って思ったんですよ。普段歌ってる姿を見ない役者さんが、映画では歌っているという、そういう意外性のある楽しさがありました。今回の作品は、本格的なミュージカル映画というつもりは全くなくて、僕なりのミュージカル映画を目指しました。実際、歌って踊るミュージカルの経験を持っている人は高嶋政宏さんくらいでした。富司純子さんにも歌に挑戦してもらえたし、それぞれの個性で歌を聴かせてもらえたというのが僕自身もすごく楽しかったです」



―踊りについて草刈さんにアドバイスを求めることなどはありましたか?
周防監督「振付家の決定は、草刈のアドバイスによるものです」

草刈さん「パパイヤ鈴木さんが振り付けをなさったんですが、今回の映画は、役のキャラクターが面白く表現されている躍りでなければなりません。『Shall we ダンス?』の中の踊りも、みんなそれぞれ上手に見えるように踊っているんですけれども、その人の個性に合わせて演出されていて、個性を際立たせるような踊り方をしていました。監督の要望も上手な踊りよりも、役の雰囲気が出るような踊りだったので、みんな楽しんでやっていました」

―『それでもボクはやってない』(07)では緻密な取材が反映されていましたが、今回の作品でも花街の取材はされたのでしょうか?
周防監督「企画を思いついた『Shall we ダンス?』の前に何度か取材という形でお茶屋に行ったんですけど、当時は何が楽しいのかわからなかったんですよ。その後、『Shall we ダンス?』が終わった頃にたまたま誘ってくれた人がいて、お茶屋さんに知り合いができたんですが、それがきっかけで楽しくなりました。 たぶん、1、2回行ったことがあるというくらいだと、お座敷遊びのスタンダートとして、ご飯食べて、お酒飲んで、舞を見て…、それで終わっちゃうんだと思います。実は、お茶屋で楽しんでいる人たちは、その人たちなりの楽しみ方を芸妓さんたちと開発しているんですよ。お座敷ひとつとっても毎回違うんです。今回ミュージカルという手法を導入したのは、お茶屋の楽しさって、”こういうものです“という形式がないからなんです。あそこは、みんなで遊びを作る世界。経験が必要なんです。だから僕も楽しさがわかるのに20年かかったのかもしれないですね。取材というより自分が実際に遊びに行って、舞妓さんや芸妓さん、おかみさん達と知り合いになれたことが作品作りに役立ちました」

▲映画『舞妓はレディ』より ©2014 F/T/K/D/K/K/A


―女性から見たお茶屋遊びの印象は?
草刈さん「男性、女性関わらず、お座敷遊びというのは一番洗練された遊びのような気がしますね。遊びという意味では、究極の何かがありますよね。お茶屋というと、いわゆる女性が接待するお店のルーツという感覚かもしれないですが、私たちが行っていた京都の祇園などは敷居がすごく高いです。花街にいる人たち、特に京都の人たちは自負心が高いので、ちょっとやそっとじゃ仲間に入れてくれない感じがありましたね。芸妓さんたちは人をたくさん見ているし、お客さんの値踏みもするので、お客さん自身、彼女たちになめられないためにはちゃんとしていないといけない。お茶屋遊びは、お金もかかるし、大ごとの遊び。そこでどれだけ気持ちよく遊べるか、みたいなところがあると思うんですよ。芸妓さんたちは誰がそういう人なのか、一目見ればすぐわかるようなプロ。こちら側にも知性がいるというか。同じくらいノレないとつまらないし。芸妓さんたちも面白くないと、全然盛り上がっていかないわけですよ」

周防監督「だから取材でお座敷に行っても全然楽しくないんですよ」

草刈さん「次の日のことを心配しながら飲むなんていう、せこいことをやっていたらダメだっていう感じですね。そういうところで男の人は磨かれるんじゃないですかね。若い頃からそういうところで遊んでいる男性はやはり洗練されていますよね。自分でお金を払って自分を磨きにいくみたいな、気合いが必要なところです」

―草刈さんが演じた芸妓の里春は、時に厳しく、時に優しい姐さん的な存在でしたが、 役柄との共通点はありましたか?
草刈さん「私が芸妓になったらこんな感じかな?って(笑)」

周防監督「一番、地に近い役でした」

草刈さん「実際、いろんなタイプの芸妓さんがいらっしゃるけれども、それぞれ象徴的な人物が劇中に登場しているんです。里春みたいな人は必ずいるんです、お茶屋遊びを知っている人が見たら、”あ、こういう人、いるいる!“となると思うんですよ。里春だけでなく、渡辺えりさんが演じた豆春みたいな人も実際にいますし。田畑智子さんが演じた百春みたいな舞妓さんも実際にいるようなタイプなんですよ。私が演じた里春は、お茶屋さんのスターっぽい人。お客さんからお金を巻き上げる時も容赦ないみたいなね(笑)」

▲映画『舞妓はレディ』より ©2014 F/T/K/D/K/K/A


―『Shall we ダンス?』で映画デビューされた草刈さんですが、監督から見た女優、草刈民代さんの一番の魅力はどこでしょうか?
周防監督「男前な女優さんという感じですね。この役は、彼女の個性を今までで一番反映させやすい役だったと思います」

―草刈さんはこれまで周防監督の作品、『Shall we ダンス?』、『ダンシング・チャップリン』、『終の信託』で主演され、またいつも近くで監督を見ていらっしゃる立場として、『舞妓はレディ』には監督のどういうキャラクターが出ていると思われますか?
草刈さん「これまでテイストの異なる作品を作ってきて、監督はそれぞれの作品で毎回違ったことに挑戦していますが、この『舞妓はレディ』には、今までに挑戦してきたことの積み重ねがカットごとに現れている作品だなと思っています。 私は身内なので見方がちょっと違うかもしれないのですが、エンターテインメント作品なので、楽しんでさらっと見てしまいがちですが、よく見ると、カットごとに品が感じられます。 京都の作品なので意識してそのように撮っているんだとは思うのですが…。照明の方が1本目からずっと一緒にやってくださっている方だったり、カメラマンもこれが3本目というように、長年一緒にやってきたという時間、経験の積み重ねがすごく出ています。映画監督として成熟するということは、こういうところに現れるのだなと思いました」

―次回作についてはすでに構想はありますか?
周防監督「また全然違うタイプのものをやろうとは思っています。寡作なわりにはバラエティに富んでいるとよく言われるんですけど、次回作も、”こんなこともやるんだ〜“と、意外性を楽しんでもらえるような作品にしたいと思っています」。


 
 


Biography

すお まさゆき


1992年、『シコふんじゃった。』、96年、『Shall we ダンス?』で日本アカデミー賞最優秀作品受賞。『Shall we ダンス?』は世界各国で上映後、2007年には、ハリウッドでリメイク版が公開。07年、『それでもボクはやってない』が第80回米アカデミー賞外国語映画部門、日本代表作品に選出。13年、『終の信託』で毎日映画コンクール日本映画大賞受賞。


舞妓はレディ:www.maiko-lady.jp



くさかり たみよ


1973年、小林紀子バレエアカデミーにてバレエを始め、バレリーナとして数々の賞を受賞、ロシアをはじめ世界各地での公演多数。96年、『Shall we ダンス?』で主演をし、第20回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめ数々の賞を受賞。2011年、バレエ映画『ダンシング・チャップリン』で主演。12年、『終の信託』で主演し、第36回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。


草刈民代オフィシャルサイト:www.suoz.com