舞台に蘇る人生を翻弄された人の声
Miwa Yanagi
現代美術作家 やなぎ みわ (2015年2月6日記事)
© Shen Chao-Liang
日系文化会館にて2月21日(土)に公演予定の「ゼロ・アワー 東京ローズ最後のテープ」。この作品は、第二次世界対戦中、当時のラジオ・トウキョウ(現NHKワールド・ラジオ日本)で米兵の戦意を喪失させる目的で行なわれたプロパガンダ(対敵宣伝)放送番組、「ゼロ・アワー」で、米兵に絶大な人気を誇ったアナウンサー”東京ローズ“を演じた複数の声たちを巡る物語。

2013年に日本で初演されたこの作品は、ニューヨークのジャパン・ソサエティにより、戦後70年となる今年、5都市を廻る北米ツアーが実現する。舞台の演出を務める現代美術作家のやなぎみわさんに話を伺った。

Courtesy of Aichi Triennale 2013 photo by Naoshi Hatori

「この舞台は、史実を元にしたリアリズムの歴史劇ではなく、ダンサーの出演もあり、かなりパフォーマティブな作品です。アメリカ人日系二世のアイバ・戸栗(とぐり)郁子さんが”東京ローズ“として知られていますが、実は『ゼロ・アワー』のプロパガンダアナウンサーは何人もいたと言われています。ですが、この作品は、そういう史実を伝えることよりも、プロパガンダ放送というものが一体どういうものなのか、声ひとつで人々を動かす力というのは、一体どういうことなのかに重きを置いています。北米ツアー向けに英語を増やし、ダンスで表現する部分を増やすなど、演出をかなり変えたので俳優は大変だったと思います」

Courtesy of Aichi Triennale 2013 photo by Naoshi Hatori

舞台の概要を話すやなぎさんは美術作家であるが、近年は特に演劇活動を精力的に行なっている。現代美術作家としてのデビューは、鮮やかな色彩の中に制服をまとった無表情の女性たちを写した映像作品の個展「The White Casket」。1993年のことだ。

「学生時代は伝統工芸を学んでいたんです。大学は京都にありましたから、伝統的な染色の技術を学びましたが、卒業後しばらく工芸から遠ざかり、写真や映像作品を制作していました」

▲「The White Casket」

衝撃的な作品でデビューした後、映像、写真作品を精力的に制作。国内はもとより、海外でも個展を開催し、さまざまな芸術賞を受賞。09年には芸術家のオリピックとも言われる現代美術の展覧会ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館の出展作家として選ばれ、女性のジェンダーを扱ったモノクロの作品を展示し、高い評価を得た。ところがそれ以降、やなぎさんは演劇に転向する。

▲「Windswept Women-The Old Girls’ Troupe」

「大きな変化でしたね。でも、以前から自分が演劇をやるようになるとはなんとなく感じていました。『The White Casket』より前のエレベーターガールをモチーフにした作品というのは、生身の女性をギャラリーに展示するという、パフォーマンス作品でした。また、解説ガールみたいな、現代美術を説明する女性を美術館に配するという個展プロジェクトもやったことがあります。どちらも20年ほど前のことになるんですが、私自身、学生演劇の経験などが全くないので、その当時は、生身の人間のイレギュラーさについていけなくなりまして、写真にしちゃったんですよね」 時を経て今では演劇が「どうして昔からやってなかったんだろう…と、不思議に思うくらいにおもしろい」と言うやなぎさん。表現方法を変えながら20年以上も第一線で活躍するやなぎさんの信条は、「常に今作っている作品のことだけを考えている」とのこと。同時進行でリハーサルを進めているという次回作も舞台作品で、しばらくは劇作家と、演出家としての活躍が期待される。

最後に北米公演を間近に控えた「ゼロ・アワー 東京ローズ最後のテープ」で一番伝えたいメッセージを伺った。 「”東京ローズ“と名付けられたアナウンサーたちは、日本にいたアメリカ生まれの日系人たちと言われています。そういう人たちが母国であるアメリカに向けて戦意を失なわせるような放送をしなくてはならず、後には、戦犯扱いをされるようになるんですが、戦争に限らず、いつの時代にもどちらの国にも属さない人たちというのは必ずいますよね。でも、戦争になるとそのボーダーラインが動き、運命の荒波にもまれ、人生が激変したりする。そういうボーダーラインによって人生を翻弄された人たちの声というのは、なかなか残らないものなんです。そういう声を蘇らせるには、演劇という手法でしかないと思うんですよ。ボーダーラインによって動いてしまう、境目にいる人たちというのは当時だけではなく、いつの時代にもいるわけなので、普遍的なテーマとして受け止めてもらえたらと思います」。


ゼロ・アワー 東京ローズ最後のテープ



© Miwa Yanagi

太平洋戦争中、日本が連合国軍に向けて放送したプロパガンダのラジオ放送「ゼロ・アワー」で、「東京ローズ」と呼ばれて人気だった日系の女性アナウンサーを題材にしたもの。日本語と英語で公演、英語字幕付き。終演後、やなぎみわさんによるQ&Aが行なわれる。チケットは右記の連絡先にて発売中。

【日 時】2月21日(土)14時
【場 所】日系文化会館(6 Garamond Crt.)
【チケット】一般$29.21、JCCC会員・シニア$22.13 ※税別
【連絡先】416-441-2345
【サイト】www.jccc.on.ca



 
 


Biography

やなぎ みわ

神戸生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。1993年に京都で初個展「The White Casket」を開く。以後、96年より海外の展覧会にも参加。2009年、第53回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館にて「Windswept Women-The old Girls' Troupe」を出展。10年、演劇公演「桜の守茶会」で作・演出を務め、以来、演劇公演多数。2月21日(土)には日系文化会館にて「ゼロ・アワー 東京ローズ最後のテープ」を公演予定。

オフィシャルサイト  www.yanagimiwa.net