熱意で起こした奇跡
Masahiro Yoshino
Hiroyuki Tanimoto
Lee Xiaomu
吉野眞弘 谷元浩之 李小牧(2013年11月1日記事)

「夢をあきらめている人に向けて、
希望が与えられるいい事例になったと思う」

「映画の中で私は狸として登場していますが、本職はこの映画に登場している会社の経営者です。毎日の仕事は、利益をあげるという目的のため、(狸のように)人をだまし、人をあざむき… と、どんな手でも使います(笑)。そのように人生を全力で走っている途中にふと振り返る瞬間がありました。人生とは? 生きるとは? 愛するとは何なのか? この映画は私自身のことでもあるんです」という主演の吉野眞弘さんの言葉で始まったトロント国際映画祭での劇場舞台挨拶。


▲ 映画『人間』より

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同映画祭でワールドプレミア公開された『人間』は、吉野さんが社長を務めるメディア総合研究所が製作を担当。監督を始め、製作スタッフにはプロフェッショナルが携わり、出演者は同社の社長と社員ら関係者、そし てその友人らを含む150人ものボランティアの協力の元に作られた低予算映画だ。計3回行なわれた一般公開では、全てソールドアウトを記録。地元カナダ人にも好評価を得た『人間』の出演者とプロデューサーに、お話を伺った。まずは、プロデューサーを務めたメディア総合研究所海外戦略部の谷元浩之さんに制作へのいきさつを訊ねた。
「フランスに住んでいる2人の監督、チャーラ・ゼンジルジとギヨーム・ジョヴァネッティとの出会いは、2人が日本で撮影した短編映画に、社長の吉野を含め我が社の社員が出演したのがきっかけでし た。撮影が終了してから6か月後、その作品がスイスで開催されるロカルノ国際映画祭への出品が決まったと連絡があり、社長の吉野と私とで駆けつけました。そこから親交が深まったという感じですね。その後、チャーラとギヨームの2人が、アーティストを半年間京都に送り、制作活動を推進するというフランス文化庁の アーティスト・イン・レジデンスに参加して、日本に来たんです。それで、今度は長編映画を一緒に作ろう! と監督から相談がありました。実際に撮影を始めたのは去年の冬で、撮影期間は4週間ほどでした」
監督2人が作り上げた物語は、 自身が運営する会社が経営難に陥ったことから精神を病んでいく中小企業の社長(実は狸)が、さまざまな人間との出会いを通して、「人間とは何か」「生きるとは何か」「愛とは何か」を再び見つけるまでを描いたファンタジー。

「シナリオはなく、出演者たちには台詞も渡されていなかったんです。監督は、実際にカメラを回す2、3分前にシチュエーションを説明し、演じる側は、状況に合わせた台詞をアドリブで話し、それをつなげているんです」と谷元さんがユニークな撮影方法を説明してくれた。「出演者たちの演技が自然なのは自分の言葉で話しているからなんですね」と、主演の吉野さんに問うと、「私も半分くらいまではどういうストーリーなのか全く分かってなかったですからね(笑)。 でも、みんなお互いの演技にひっぱられて涙のシーンでは本当に涙を流して…。この映画は日本の古い価値観、また、人と人とのつながりがよく描かれていると思います。夫婦関係も私は狐と狸の化かし合いだと思うんですよ。戦略を練って、罠にはめ…ってね(笑)。私自身も勉強になりました」と撮影当時を振り返りながら映画のテーマについても触れた。さらに、今回の映画祭の招待作品としての入選は、「本当に喜ばしいことです」と述べた上で、「この映画は素人でもここまでできるといういい事例になったと思うんですよ。これは出演者のことだけではなくてね。どんなに小さな会社であっても、どんなに予算がなくても、熱意があれば、こういうものが作れますよ、トロントの映画祭に来られる奇跡がき ますよ。というね。これから映画を作る人、熱意はあるけど予算はない…とあきらめている人に、希望が与えられたら本望です」とこの快挙に一般の映画制作会社とは違う喜びを感じていると吉野さんは話してくれた。

▲ 谷元浩之さん
▲ 李小牧さん
そこに「私にとってこの映画は、日中の友好親善の橋渡しができたという特別の思いもあります」と、出演者の李小牧(リー・シャム)さんが付け加えた。李さんは25年前に中国から日本に渡航し、現在は作家、コラムニストなどとして活躍している他、歌舞伎町にてレストラン湖南菜館を経営している。「劇中で李さんは社長の相談役を果たしていましたが、私生活でも同じような友人関係なんですか?」の問いには、「頻繁に話す仲というよりも、何かあれば協力し合う間柄ですね。今回撮影で歌舞伎町が使われていますが、あれは私が交渉 したことで可能になったんです」と、李さん。レストランを長年経営する中で歌舞伎町人間関係を地道に築いてきたことが、功を奏したという。

最後に、「これを機にハリウッドから俳優業のオファーがあったらどうしますか?」と出演者2人に問うと、「頑張ります!」と満面の笑顔で答えた李さんに反して、「絶対ないですね」ときっぱり答えた吉野さん。
「経営者としての責任がありますから。従業員たちに支えられて会社があるので、お金をまわしていくことが私の使命。どんなことがあってもそのことが第一です」と社長としての顔を覗かせた。
▲ 自身の会社について熱い思いを語る吉野眞弘さん
吉野さんが経営するメディア総合研究所は、独創的なメディア発信事業を通して、新たな文化創造に寄与することを経営理念とし、翻訳、IT、コンサルタントを含む8つの事業を展開。先の言葉に続けて吉野さんは続ける。「お金をまわすのと同時に会社には夢がないとダメだと思うんです。この夢に向かおう! という個人とは別の仕事上の夢。会社はこの2つの車輪を回して初めて動くもので、この夢を全員で絶対に実現する! という働く人の気持ちで組織が成り立っているんです。私の会社は、従業員100人強の会社で、規模は大きくはないのですが、人材が多彩です。希望に燃えた人間がたくさんいますよ。そこそこ標準点を取る優等生は少ないです。その代わり、どこかが欠け落ちているけど、ここだけは秀でているという人間が多いですね。キラキラしています。人間はそれでいいと思うんですよ。欠けている部分のある人間が団結し合って、どうしていくかが、企業のテーマだと思うし。映画作りもそうです。今回の映画はまさにそれを象徴していると思うんです」。



 
 


Biography

メディア総合研究所

1993年創立。翻訳、IT、映像、教育、出版、国際、エンタテインメント、人材支援の8つの事業を展開。代表取締役は吉野眞弘さん。映画『人間』でプロデューサーを務めた谷元浩之さんは国際メディア戦略室に所属。映画『人間』は現在、北米での公開は未定。日本ではオーディトリウム渋谷にて11月2日(土)~ 8日(金)の期間限定で上映予定。
www.mediasoken.jp



リー・シャム

中国湖南省長沙市出身。1988 年に来日し、中国の人気雑誌「時装」の東京特派員、在日中国人向け新聞「僑報」の発行人を務めた。2002 年に出版したデビュー作品「歌舞伎町案内人」ほか、著書多数。現在は講演などでも活躍。また、歌舞伎町にて中華レストラン湖南彩館を経営。
www.leexiaomu.com