マンガを通して
日本文化を伝えたい
Nao Yazawa
漫画家 谷沢直(2014年3月7日記事)

海外のコアなファンに マンガを描く楽しみを教授

ジャパンファウンデーション・トロントにて2月15日から3月7日まで開催されていた日本語講座の特別クラス。日本のマンガについて学べるレクチャーとテーマごとに設けられたマンガの描き方の実践クラスが行なわれていた。この特別企画に講師として招かれていたのが谷沢直さん。小学館コミック「ちゃお」にて1994年から96年に連載されていた「ウェディングピーチ」が代表作として広く知られている漫画家だ。

▲「愛天使伝説ウェディングピーチ」©Nao Yazawa/Shogakukan

「国際交流基金で日本語と日本の文化を組み合わせた日本語教育クラスの講師の募集を知人から聞いて応募したんです。募集要項には特にマンガ、アニメのジャンルを歓迎しますとあったんですよね。日本のマンガスクールで外国人向けに講師もしているので、自分でもできるかもしれないと思い、応募しました。国際交流基金のどの地域に行くこ とになるかは未定だったんですが、英語が話せるので英語圏を希望していたんです。それで今回、トロントでこの企画が実現することになりました。マンガという日本文化を通して日本、日本語に興味を持ってもらおうというのがこのイベントの主旨です」と、トロントに来られたいきさつを話してくれた。

谷沢さんはカナダのマンガ・アニメのイベントに参加するのは初めてだが、米国やヨーロッパの都市でのコンベンションへの参加経験は多数ある。海外のイベントのゲストに招待されるに当たり、きっかけとなったのは英語のホームページだと明かしてくれた。

manga 「セーラームーンが流行っていた2000年頃ですかね、各国の編集長が日本に来て著作権を取って、自国で日本の作品を出版するという流れがあったんです。『ウェディングピーチ』もその1つでした。アニメ版があったということも海外の出版社に興味をより持ってもらえたきっかけだったと思うんですけどね。

その出版が決まった頃がちょうど、パソコン、インターネットが一般に普及し始めた時期。それで自分でもホームページを立ち上げてみたんです。そしたらある日、そこに載せていたメールアドレス宛てに、ドイツからメールが届いたんです。ホームページには、絵にちょっとしたキャプションを英語で入れていたんですけど、それをドイツの出版社が見てイベントに招待してくれたんです。デンマークについては、初めて参加したドイツでのイベントで知り合いになった在フランクフルト日本国総領事館の方が、在デンマーク日本国大使館に赴任になったため、こちらにも来てくれませんか? ってことになって…。ちょっとした縁ですね」

世界に繋がる契機を作ったのは英語のホームページ。英語は以前から学習していたのかと聞いてみた。
「ドイツから英語のメールが来て、それから英語の勉強を始めました。まず、ビジネス英語のメールの書き方の本を購入して、ひな形を真似して、単語を書き換えて… と苦戦しながらやり取りをしましたね」

ドイツとデンマークのイベントでは、外国人向けに英語でワークショップも担当。それがきっかけとなり、日本のマ ンガスクールで外国人向けにマンガの描き方を教える講師のオファーを得た。

外国人が生徒の場合には、描き方以前に教えることがあるという。
「外国人にマンガの描き方を教える場合、まずは、マンガの読み方から始めないといけないんですよ。外国人はマン ガを本ではなく、インターネットで読む人が多いんです。欧米ではスキャンレション(原本をスキャンしてインター ネットで発信する違法行為)が横行していますからね。マンガをネットで読む場合、1ページ単位で読んでいくので、見開きのページの右上から読むという私たち日本人が普通に持っている習慣がないんです。あと、縦書きなことにも戸惑うみたいですね。

生徒の大半は、旅行で日本に数週間から数か月滞在する外国人なので、作品を仕上げるといった本格的なものではな く、イラスト的な絵がかければ満足だったりする人たち。みんな、カジュアルに習いに来ていますよ。 ストーリー作りの概念とかを教えることはないので、簡単な英語で教えています」

マンガを通して日本文化に憧れる外国人が増えていることを肌で感じるというが、日本国内でのマンガ人気は下降し ているという。
「売れる作品はものすごく売れるんですが、そうじゃないものは昔のようには売れないという二極化が激しいですね。全体的に売上げは低下しています。売れなくなった理由は、マンガが一番の娯楽ではなくなったからだと思いますね 私たちが子どもの頃の時代は娯楽が少なくて、マンガは誰もが一時期ハマるものという位置にありましたが、今ではそれより手頃で便利な携帯電話があり、マンガ以外の娯楽が簡単に手に入ってしまいますよね」

その一方、海外ではコアなファンが増えている。その証拠に、今回ジャパンファウンデーション・トロントで開催されたイベントは、告知後わずかな期間で定員を満たしたほどの人気ぶり。その中の1つ「Let's Draw Manga」では、日本語に絡んだ自身の経験をテーマに、4コマ漫画を完成する講義を実施。生徒たちは実際にプロ仕様の原稿用紙とペンを使って、作品を完成させた。また、「Express Yourself!」では喜怒哀楽の表情の描き方をレクチャー。後半には付けペンを使ったペン入れの仕方を英語と日本語を交えながら教授した。

講義の後、トロントで日本語が母国語ではない外国人に漫画を教えることについて感想を訊ねた。
「日本と違って海外にはマンガを気楽に描ける土壌がないんだなという感じがしますね。マンガを描くことに対して 敷居が高いのかな、と。これはトロントだけではなく、ドイツでもそうだったんですが、日本では大型文具店で販売されているマンガを描くのに必要なペンや原稿用紙がこちらではなかなか手に入らないんですよね。道具を見つけたとしても、日本で購入する3、4倍の値段が付いていたり…。それだとちょっと興味があるからやってみようといって気軽に始められないですよね。今回の講座では、できるだけ実践を加えて、プロが使う道具を使ってマンガを描く楽しみを味わってもらえるような構成にしています」

「Let's Draw Manga」では4コママンガの描き方をレクチャー

今後も海外のマンガ・アニメ関連のイベントに積極的に参加したいという谷沢さん。次回作については、「日本でマ ンガ家を目指す外国人を主人公にした作品が描けたらいいと思っています」と自身の経験を織り交ぜた作品を発表す る構想があることをほのめかした。近い将来の新作にも期待したい。 〈インタビュー/青木 りえ〉

 
 


Biography

やざわ なお

東京都出身。第14回藤子不二雄賞にて入選した『ゲンゴロウ参る!』が『別冊コロコロコミック』に掲載され てデビュー。代表作は『ウェディングピーチ』(小学館コミック『ちゃお』連載)『怪盗シスターズ いただき!パ ンサー』(小学館『ぴょんぴょん』連載)、電子書籍の『Moon & Blood』など。 マンガスクール中野にて「マン ガ作品制作 基礎・応用」「英語によるマンガの描き方講座」などの講師も務めている。

【サイト】
www.geocities.jp/yazawanet