踊りは命の芸術
Natsu Nakajima
舞踏家 中嶋 夏 (2015年4月17日記事)
© Makoto Onozuka
ダンスを通してアジアの思想と美意識を伝えることを目的としたダンスの祭典「カン・アジアン国際ダンス・フェスティバル」が今年は4月30日から5月2日に亘り行なわれる。3夜連続でハーバーフロント・センター・シアターにて5組のアーティストたちがそれぞれパフォーマンスを披露するステージに、舞踏家の中嶋夏さんが出演する。中嶋さんはこれまで世界各地でパフォーマンスを行なってきたが、同フェスティバルへの参加は今回が初めてとなる。

「今回、トロントで披露するパフォーマンスは『 Like Smoke Like Ash(煙のように 灰のように)』といいまして、初演は、一昨年の12月に東京で行なわれた女流ダンサーのイベント『海外女流ダンサー・ウィーク 東京』で、私は特別ゲストとして踊らせていただきました。当時、私は70歳。老いに入っていく入り口を表したというか、老いの問題を含めた人生の回想のような作品です」

© Makoto Onozuka

© Makoto Onozuka

高校時代から踊りを習い始めたという中嶋さんだが、当時は家族にも打ちあけずにこっそり習いに行っていたという。 「私が幼い頃から母が日本舞踊や三味線を習っていたので、私も習いたかったのですが、母から”あなたの脚の形は踊りには向かない“と言われて習わせてもらえませんでした。高校生の時に始めた時は、 おけいこ代を何とかひねり出して、 母に内緒で習いに行っていました。初めは、 邦正美(くに まさみ)さんというドイツでダンスを学び、日本でダンス教育を広めた方に師事していたのですが、私にはしっくりこなくて、次なる師匠を探していた時に、土方巽(ひじかた たつみ)さんのデビュー作を見て、”この人しかいない!“と思って、すぐに弟子入りしました」

リズムやステップを重視する西洋の踊り(舞踊)とは一線を画し、白塗りをし、身体をひねり、丸め、床に転がるという動きを披露した土方巽氏のパフォーマンスは、舞踏と呼ばれ、海外でも”BUTOH“として認識されている。舞踏の創始者ともいわれる土方氏に師事し、70年代から海外のイベントで舞踏家として活躍してきた中嶋さんは、舞踏の世界的な浸透を間近で見てきた。

「舞踏の世界への広がり方というのはすごいものがありますよ。現在、舞踏が及んでいないのは、アラブ圏とアフリカくらいです。ヒマラヤにまで舞踏研究所はありますし。去年ロンドンで聞いた聞いたレクチャーでは、舞踏は戦後最大の文化遺産だ、とアメリカの学者が話していました。日本では現在、舞踏は低迷している状況ですけれど、世界では高く評価されています」


外国での評価が高い理由を続ける。

「言葉の世界じゃないから、国境を簡単に越えられるということが1つ。あとは時代性じゃないかと思いますね。今は、1つの文明が終わって、新しい文明に移行しているというような時期。そういう先行きが見えない不安な時期には、もう一回、体に戻って考えるということに行き着くんじゃないですかね。

ダンスが舞台芸術として確立したのは、ごく最近のことだけれど、原始時代から宗教的な儀式などで披露されていたもの。 土方さんの思想の中には、西洋、近代という考え方を抜きにして、もっと本能的なもの、そしてシャーマニズム的なものも含んでいますしね。だから世界中の人に伝わるんじゃないかしらね」

また、海外での活動と並行して、日本では健常者と知的障がい者が一緒に踊るクラスを開講している。

「私が50歳になった頃、海外での活動に一区切りつけて日本に戻ろうとしていた時に始めました。アーティストというのはエゴイスト(他人のためというより自分のためにやっている部分があるという意味で)な部分があるので、 1つくらい、人のために何かやってみようと思ったのがきっかけです。始めてみてつくづく思うのは、彼らから教わることが多いということですね。ダンスは本能の芸術。純粋な彼らは表現が伸びやかで、教わることがたくさんあります。日本ではダンスはダンス、演劇は演劇というようにジャンルの垣根がありますが、彼らと一緒に踊ることで、その垣根を壊せるというか、かえって前衛的なことができるということもあります。私は知的障がい者の人だけを教えることはせず、プロを含めた健常者の人たちと一緒に教えていますが、お互いに学び合えていると思います」

50歳から新たなことをスタートし、70代になる今も、舞台に立つ中嶋さん。その原動力の源を伺う。

「踊っていないと生きている感じがしないからじゃないですかね。 現在72歳ですが、今日も午前0時まで稽古をしていました。この先どれくらい踊れるのかと思うと、かなり切ないですね。ダンスは好きだから、思いは深いです。だから舞台に立てることは幸せだと思って、いけるところまでは一生懸命やろうと思っています。踊るのはすごく疲れますが、踊りというのは生命力、命の芸術だと実感しますね。踊ることで、エネルギーをもらっている気がします」。


公演&ワークショップのお知らせ


4月30日(木)から5月2日(土)に行なわれるハーバーフロント・センター・シアターの公演には、中嶋夏さんを含む国際的に活躍する5組のアーティストたちが出演。また、公演に先駆けて中嶋夏さんによる舞踏のワークショップが4月26日(日)から28日(火)の3日間に亘り開催される。経験者向けのワークショップだが、初心者でも参加はOKとのこと。興味のある人は参加してみよう。

【公演】
日 時:4月30日(木)〜5月2日(土)20時〜
場 所:Harbourfront Centre Theatre(235 Queens Quay W.)
入場料:一般$30、シニア$25
連絡先: 416-973-4000

【ワークショップ】
日 時:4月26日(日)〜28日(火)13時〜16時
場 所:Canadian Contemporary Dance Theatre, Studio C(509 Parliament St.)
参加費:1日$90、3日$250(CADA会員は$225)
連絡先:info@canasiandance.com



 
 


Biography

なかじま なつ

土方巽、大野一雄に師事。暗黒舞踏創立に関わる。1969年、舞踏集団「霧笛舎」創立。83年のロンドン国際演劇祭を皮切りに、世界有数の国際フェスティバルに参加。89年よりニューヨークの大学などで舞踏の指導、振付け、演出家として活動。振付けでも受賞経験多数。92年より知的障がい者のダンス教育に携わる。