今を生きる車人形
Koryu Nishikawa
西川古柳座 五代目 西川古柳(2012年5月4日記事)

魂を吹き込まれた人形が踏む舞台

Nishikawa Koryu

八王子を拠点とする伝統芸能、八王子車人形。「車人形」とは耳慣れない言葉だが江戸時代から続いており、東京都の指定無形文化財人形劇であり、国の選択無形民俗文化財に指定されている。この八王子車人形の公演が、来たる5月8日、トロントの日系文化会館で楽しめるという稀な機会が訪れる。今回はそのイベントに先んじて、江戸の粋を今に伝える八王子車人形・西川古柳氏にお話を伺った。

ー人形劇だと思ってみると、人形の大きさに驚きますね

「私たちが使っている人形は120センチくらいありますよ。人形劇だと思うと、確かに大きめだと感じるでしょうね。300年くらい前までは小さな人形だったんですけど、それ以降、使い方というか、表現方法が異なってきて、人形がだんだん大きくなっていったんです」

ーお使いの人形は、いつ作られたものなのですか?

<「人形の顔は、150年くらい前に作られたものがほとんどです。もちろん、それより新しいものもありますが…。顔は人形師さんが作ります。ボディの中身とか衣装は私たちが作るんですよ」

ーだから、着物ではなく洋服を着ているお人形さんもいるのですね

「洋服を着せはじめたのは近年なんですけど、最初は外国でのカーテンコールなどで使うために作ってみたんです」

ーカーテンコールのためであっても、江戸時代から続く伝統の人形芝居となると新しい試みを導入していくのは難しいことですよね

<「伝統的なものがベースにありますので、全く新しい、ということではないですが、僕は、その”時代“にある程度マッチしていかないと伝統芸能ではないと思っているんです。新しい息吹っていうのを古典の中に入れるためには、『大胆なことをしてみる』のは大事だと思っています」

ートロント公演では、何か新しい試みを見ることはできますか?

「今回は(人形遣いとしては)私が1人で行きます。通常は人形遣いが5〜6人行くんですが、今回は大夫さん(たゆう、人形浄瑠璃を語る人)と人形で、お芝居の良いところだけをちょっとずつ見ていただけたらな、と思ってるんですよ。一つの浄瑠璃ってとっても長いお芝居になりますので、(見慣れていない)子ども達や若い世代の人に、浄瑠璃ってとっても楽しいんだよ、ということをまずは教えるような形でよく上演している方法です」

ーでは、人形浄瑠璃を見たことがない人でも足を運びやすい公演となっているのですね。人形浄瑠璃がお好きな方でも、車輪が付いている台座に座って演じる人形劇を見るのは初めてかも知れませんね

「そうですね。海外は色々なところにお邪魔していますが、カナダでは(車人形の)公演はあまりないですからね。車人形では、人形遣いは1人で人形の5か所を動かさなきゃいけないんです。両方の足と手、そして顔。だから全身を使うことになるんですけど、人形の大きさが120センチくらいなので、何かに腰掛ける、つまり座って操る形が出来たんですね。そして、座るものが動くともっと自由に舞台を動くことができる、ということで(台座に)車が付いたのです」

ーもちろん、舞台上をくるくると回ることもできるんですよね

「はい、その辺は当たり前のことなんですけど(人形劇では)他に類を見ないと思うんですよね。
この車人形の特徴っていうのは、人形が直接舞台を踏める、ということなんです。人形遣いの足に人形の足が付いていますから、(人形遣いが)足を動かせば、人形も同じように足を動かす。うちの形が進化したものには、例えば、『ライオンキング』(ミュージカル版)のティモンがあるんですよ。伝統芸能といえども、見方とか、考え方を見ていくと、今にとっても通じるところがありますよね」

ー人形遣いの動きがそのまま人形の動きになる、そこが面白いところでもあり、大変なところでもあるのですか?

「いえ、動きよりも難しいところがあるんです。ダイレクトに外に感情を表現するオペラなどの外国の芸術と違って、日本の演劇は心の中に秘めたものの感情をどう表現するか…そこが難しくて…ちょっと大変なんですよね。内に秘めている悲しみや喜びを表現していく、というのは、長い年月の中でいろんな経験を積んでこないと分からないところなんですよ」

ー人形の表情は変わらないので、首のかしげ方やら手の角度でそういう感情を表現するということでしょうか?

「そうなんですよ。微妙な動きの中で喜び、悲しみ、怒りなどの感情を表現していきます。海外公演では、お客様がどのように理解してくださるかが楽しみですね」

ー日本に住んでいても、なかなか拝見できない舞台なのではないでしょうか?

「プロフェッショナルな形で(車人形の公演を)行なっているのは確かに私たちだけですね。あとは、神事の伝統芸能として多摩地区と埼玉に一つずつ残っています。でも今、日本に残る伝統の人形芝居の数は世界一だと思うんですよ。ですから、いろんな人形を私たちが発掘しながらやっています。そうしていかないと、地方に良いものがあってもなかなか分からないので。だから、日本国内でも、これから人形芝居っていうのが確立されていくのかな、と思います」

ートロント公演に向けて、最後に一言お願いします

「はい。日本の古典(芸能)って、今の日本人の考え方の原点みたいなものなんですよね。それをトロントの人たちに受け取っていただけると、”日本人“というものも分かるし、我々がその文化を通じて日本を紹介している、っていう意味が、きっとそこで分かってくると思います。だから、まずは舞台を楽しんでいただいて、そこから日本の文化、そして文化の中から日本人というものを分かっていただけると嬉しいですね」。

Biography

にしかわ こりゅう

江戸時代から伝わる伝統人形芝居『八王子車人形』西川古柳座の5代目。幼少より祖父(3代目)、父(4代目)に指導を受けた。地元・八王子での定期公演のほか、日本各地で公演。海外公演も多く、スウェーデンでは国立人形劇団や人形劇学校で車人形の指導にあたる。また、2000年の国際交流基金主催南米公演(ブラジル、チリ、ウルグアイ)により、ウルグアイ演劇祭にてフローレンシオ賞(外国演劇部門特別賞)受賞。04年より八王子市観光大使。06年八王子市文化功労賞。
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