映画作りのモチベーションは新たな自分との遭遇
Ryuichi Hiroki
映画監督 廣木 隆一 (2014年11月21日記事)


作品ごとに観客の期待を裏切っていきたい

今年のトロント国際映画祭にて日本映画として唯一ワールドプレミア公開された廣木隆一監督の『さよなら歌舞伎町』。主演には『ヒミズ』(2011年)で第68回ヴェネツィア国際映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞に当たる)を受賞した染谷将太(そめたにしょうた)さんが務め、恋人役には元AKB48のメンバー、前田敦子さんを起用したことで日本国内公開前から話題の作品だ。

男女の心のひだを捉え、衝撃を与えた『ヴァイブレータ』(03年)、頑張り過ぎない女性像が共感を呼んだ『やわらかい生活』(06年)に続き、脚本家の荒井晴彦氏と3度目のタッグを組んだ作品は、笑いあり、涙ありの切ないラブストーリー。監督が登場した一般上映会の後のQ&Aでは、地元カナダ人と日本人のファンとが矢継ぎ早に監督に質問を浴びせる大盛況ぶりだった。



▲映画『さよなら歌舞伎町』より

― トロント国際映画祭についての感想を聞かせてください

「トロント国際映画祭へは2003年に公開された『ヴァイブレータ』で出品経験はあったものの、参加するのは今回が初めてになります。トロント国際映画祭は、カナダ、北米を代表する映画祭として日本でもよく知られている映画祭なので、来てみたいとは、前から思っていました。映画祭の規模が大きいですよね。ストリートの一部が歩行者天国になっていたり、上映劇場の周りにも映画祭を楽しんでいる人がいっぱいいて、いい雰囲気だなと思います」

― 一般上映会は満席でしたね。上映後のQ&Aでは多くの質問がありましたが、印象に残っている質問はありましたか?

「日本に来たことのない人にとって、歌舞伎町という街はすごく興味をそそるんだなということを感じました。(質問に答える際に)歌舞伎町を知らない人に、歌舞伎町の特徴を伝えるというのは難しかったですね」

―この作品を作るきっかけを教えてください

「企画の元になっているのは、ラブホテルの清掃員が書いたルポ『歌舞伎町ラブホテル夜間清掃員は見た』という書籍です。脚本を担当した荒井さんがこの本を読んで…というのが始まりなんです。その本では南果歩さんが演じた清掃員が主人公になっていますが、僕は主人公を支配人にしました」

―舞台となっているラブホテルはセットなのですか?

「ロビーや外観は”アトラス“という名前の歌舞伎町にある実在のラブホテルを使わせてもらいました。部屋の中は違う場所なんですけど…。ラブホテルが暇な時間というのは午後1時から午後5時くらいまで。あとは、お客さんが入った後、夜の11時から朝の10時まで。その間にロビーでの撮影をさせてもらいました」

―撮影期間はどれくらいだったのでしょうか?

「去年の12月に撮影を開始して、撮影期間は2週間ほどです。歌舞伎町とその隣にあるコリアンタウン、ほとんどその2か所で撮影しています。移動は徒歩で、機材はリヤカーなどで運ぶという感じでした」



―配役には個性的な俳優陣が揃っていましたが、主演の染谷さんと恋人役の前田さんはどのように決められたのですか?

「実は、染谷の役はなかなか決まらなかったんですよ。それで、彼に直接電話してみたら2週間スケジュールが空いてるっていうんで、それじゃ、2週間で撮影してしまおうって。ラッキーでした。彼は今、すごく忙しい俳優でしょ。次の映画の撮影に入る前にたまたま2週間空いていたんです。事務所を通さずに、本人に直談判しました。ちょっと横暴ですよね(笑)。それで染谷が決まって、南果歩さんなどが決まっていきました。染谷の相手役のミュージシャン役は、実際に歌える人がいいなと思って、それだったらAKBがいいかなと(笑)。いいかな…なんてことはなく、(頭を下げるジェスチャーをしながら)お願いします! という感じでしたけれど。それで、役者としても可能性があると前々から思っていた、前田あっちゃんに当たってみようということになりました。ダメ元で彼女にオファーしたところ、ちょうどテレビの撮影の合間に都合がつく日があるということで、その数日間にやってもらいました」

―前田さんがギターを弾いて歌うシーンがけっこう長くありましたよね。実際に彼女がギターを弾いているんですか?

「AKB時代に、彼女がギターを弾いて歌っている曲があるんですけれど、ギターが得意というわけでは全くなく、(出演オファーをした時点では)その曲だけしか弾けないということだったので、この作品のために指導の先生をつけて、ギターの特訓を2週間以上してもらいました」

― ラブホテルが舞台なので、突飛な人も出て来るのかと思っていましたが、染谷さんや前田さん、南さん含め皆さんいい人でしたね(笑)

「歌舞伎町のラブホテルというと、ちょっと危ない感じのイメージを持つ人もいるかもしれないですが、あやしく見える人もいっぱいいるんですけど(笑)、(劇中に出て来る人たちは)確かに、みんないい人でしたね。いい人しか出て来ない映画というのもありかなぁ…と」

▲映画『さよなら歌舞伎町』より

―監督が思われる一番の見どころを教えてください

「いろんなカップルがいて、それぞれに問題を抱えている。それでもシンプルに、前向きに生きて行こう、というのが伝わればいいかなと思います。5組のカップルの中には韓国から来てデリヘル嬢をやってる女の子がいるんですが、その彼女と彼との関係に純というか、切ない感じがあるんですけど…。そこですね」

―少し気が早いかと思うのですが、次回作について教えていただけますか?

「実は次の作品はもう撮り終わっています。少女漫画が原作のラブストーリーで『娚の一生』という作品です。今回の作品とはがらりと雰囲気が違います。少女漫画は初めてのジャンルでとても難しかったです」

―毎回作風の異なる作品を送り出している監督ですが、監督の映画作りのモチベーションを聞かせてください

「作品が売れたからって、次も同じようなものを作ろうとは絶対に思いませんね。毎回毎回、アプローチを変えて、観客の期待を裏切っていきたいというのはあります。ジャンルや趣向が異なる映画を撮っていく中で新たな自分、これまで気づかなかった自分を発見できる、それが面白くて映画を作っています」。



 
 


Biography

ひろき りゅういち


1982年、『性虐!女を暴く』で映画監督デビュー。米国サンダンス・インスティテュートに留学し、帰国後に発表した『800 TWO LAP RUNNERS』(94年)で文化庁優秀映画賞を受賞。2003年『ヴァイブレータ』で、第25回ヨコハマ映画祭の監督賞など数多くの賞を受賞する。09年の 『余命1ヶ月の花嫁』は興収30億円を超える大ヒットを記録。『さよなら歌舞伎町』は2015年1月24日(土)よりテアトル新宿ほか日本国内全国順次公開予定。

『さよなら歌舞伎町』オフィシャルサイトwww.sayonara-kabukicho.com