江戸時代における長屋文化の世界観を若い世代へ
Sansho Nakamura
落語家 中村 山椒 (2015年4月3日記事)


落語イベントを通して推進する密接なコミュニティ作り

日系文化会館にて4月10日(金)に開催される日英両語で行なわれる落語のイベント「落語の夕べ」。このイベントで、鏡を見たことがない男が起こす珍騒動のお噺「松山鏡(まつやまかがみ)」を披露するのが落語家の中村山椒(さんしょ)さんだ。中村さんは地元の熊本を中心に、若い世代に落語を広めるためのコラボレーションイベントや、落語を通し、 地域コミュニティの活性化を図るユニークなイベントを精力的に開催している新進の落語家だ。

今回が初の海外公演となる中村山椒さん。まずは、「松山鏡」をトロント公演の演目に選んだ理由を伺った。

「日本で英語で落語をした時に外国人のお客様にこの噺が一番、 落語の面白さが伝わったこと、また、日本ならではの文化が感じられる噺だなと思っているので、これを選びました」

中村さんは日本でも定期的に国際交流会館など、外国人が集まる場所で、英語で落語を行なっている。落語には言葉遊びの要素も多く、英語に翻訳する難しさはたやすく想像できる。

「落語のオチは、日本語の掛詞(かけことば)だったりしますよね。意味は同じですが、音が違ったり、またその逆もあったり。それを外国人の人にわかるように変えたりしています。落語は日本の古い話なので、日本人でも想像力を働かせないといけない場合がありますよね。その時代性に加えて、なかなか英語には直しにくい文化的な背景もあります。また、言葉以外でも、日本人にはわかる”間“が外国の方にはウケなかったり…。まだまだ思考錯誤中ですね。外国人に実際に落語を披露してみて、その反応を見ながら、少しずつ変えながら…という感じです」



中村さんが落語に興味を持ったのは、18歳の頃に放映していたあるテレビドラマがきっかけだった。

「『タイガー&ドラゴン』という、宮藤官九郎さんが脚本を書かれた古典落語を現代に置き換えたドラマでした。それを見て、すごくおもしろいなと思ったのが、はじめでしたね」

以降10年ほど、趣味として落語を聞いたり、覚えたりはしていたものの、人前で話すことは全く考えていなかったという。落語家になろうと思った直接のきっかけは、後に師匠となる大阪亭打凪(おおさかてい うなぎ)さんの寄席を見る機会があり、そこで見た落語に感銘を受けたことだった。当時銀行に勤めていた中村さんは、大阪亭師匠との出会いにより”自分の好きな方向に進もう“と弟子入りを決意する。一般的に、厳しいというイメージがある古典芸能の弟子入り。中村さんの場合は? という問いに意に反した答えが返ってきた。 「僕の場合は、そんなに厳しくはなかったですね。 師匠はすごく温かい、きさくな方で、親身になって手取り足取り教えてくださいました。弟子入り時代は、師匠の舞台を見て覚えさせていただいたり、自分の噺を見てもらってアドバイスをいただいたりとか、実技的なことを教えてもらったという感じです。人の前で落語を披露するのに、師匠からお許しが出たのは弟子入りして1年くらいたった頃でした。前座名の山椒は師匠の打凪(うなぎ)に合うものとして付けていただきました」



そして2014年3月、落語家としての活動をスタートさせたのと同時に中村さんの地元である熊本県で「nagaya design」という団体を設立し、同県でシェアハウスとイベントスペースを融合させた空間「坪井長屋」を立ち上げた。この坪井長屋は、 中村さんが落語の最大の魅力だと感じている江戸時代の長屋文化に通じる。

「長屋に住んでいる住人たちが喧嘩をしながらも、困ったことがあれば助ける…というような、義理人情とでもいいますか、そういう世界観が、落語に魅かれた理由でした。人間らしい部分というのを否定するのではなく、それをおもしろおかしくして、その部分も愛するというか、認めるという世界観にすごく魅かれました」

そしてこの坪井長屋では、落語の寄席を中心に地域コミュニティの活性化を目的にしたイベントをさかんに開催している。

「落語というと、年配の方が楽しむもののようなイメージがあるかもしれませんが、若い人にも気軽に楽しんでもらえるというか、興味を持っていただければという思いがあります。この坪井長屋で開催しているイベントは、料金もリーズナブルで、カジュアルなイベントにしています。『日本酒と落語の会』などでは、飲みながら、食べながら、噺を聞くという感じで楽しんでもらっていますね。

また、 困った時に助け合いができるようなコミュニティ作りというか、場所作りを目的とした活動もしています。たとえば、『地域防災ふれあい寄席』というイベントでは、落語を聞きに来たついでに、火の用心についてや緊急の時にはこうしましょう、みたいなことを参加者同士で話し合える機会を設けています」

「日本酒と落語の会」や「地域防災ふれあい寄席」のほかにも、この坪井長屋では、海外メディアの情報を英語でシェアし合う朝活イベント「Nagaya Times」を開催している。

「これは朝、世界で話題になっているニュースや日本ではなかなか取り上げられないような海外のニュースを持ち寄り、それを英語で共有するというイベントです。1つのニュースをいろんな角度から見て、ディスカッションをする。英語で行なうことによって英語のコミュニケーション力を高めることを目的にしています。外国人の方も参加されていて、興味深いイベントになっています」



坪井長屋での活動の根底になるのは、”映画を観に行くのと同じような気楽な感覚で、落語を聞きに行く“というような文化を地元熊本で創ること。そしてその先にはもちろん世界も視野に入れている。

「落語を聞く機会というのを世界中に広めたいと思っています。今回はトロントとニューヨークで公演をする予定ですが、これを機会に、いろいろな国でやっていきたいです」

最後に、『落語の夕べ』で中村山椒さんの寄席を楽しみにしている読者へメッセージを伺った。

「身構えずに気軽に来て、笑っていただければいいかなと思います。落語というとちょっと敷居が高いイメージを持っている人がいるかもしれませんが、そういうことは全くないので、ばかばかしい噺を聞きに行くという気持ちで聞きに来てくれればと思っています」。

「落語の夕べ」


nob morley 日系文化会館にて、中村山椒さんを招いて行なわれるイベント「落語の夕べ」。日本にまだ鏡が普及していなかった時代、松山村に住む男が初めて鏡を見ることによって起こる騒動をコミカルに描いた噺「松山鏡(まつやまかがみ)」が披露される。はじめに日本語、その後、英語でそれぞれ30分ずつ行なわれる予定。予約制なのでチケットの入手はお早めに。

【日 時】4月10日(金)19時~20時
【場 所】日系文化会館(6 Garamond Crt.)
【入場料】一般$7、JCCC会員$5
【連絡先】416-441-2345
【サイト】www.jccc.on.ca


 
 


Biography

なかむら さんしょ


1986年生まれ。熊本県出身。東北大学卒業後、銀行に入行。大阪亭打凪師匠に出会ったことを機に退職し、弟子入り。古典落語をメインに英語での落語や創作落語を創る活動を行なっているほか、nagata designという団体を立ち上げ、熊本市にシェアハウスとイベントコミュニティスペースを融合させた「坪井長屋」を設立し、地域コミュニティ活性化を主旨としたイベントを多数開催している。

【サイト】オフィシャルサイト www.nakamura-sansyou.com