“無条件の愛”の大切さを世界中に伝える
Shingo Misawa
俳優 水澤 心吾(2016年1月6日記事)

演じることで自分自身も変化していく


第二次世界大戦中におよそ6,000人もの命を救った1人の日本人をご存知だろうか。リトアニア駐在の外交官であった杉原千畝氏は、自らの危険を犠牲にしながら、ナチスに迫害されたユダヤ人たちに日本通過のビザを発行し続けた人物として知られている。俳優の水澤心吾さんは千畝氏の行動に魅了され、自らが演出と構成を手がけた一人芝居「決断 命のビザ~SEMPO杉原千畝物語~」を演じ続けており、先日はオタワとトロントにて初のカナダ公演を敢行。ここトロントでは日系福音教会にて公演が行なわれた。ステージの背景には英語字幕が表示され、絶妙な呼吸と間、そして穏やかな見た目からは想像がつかないほどの声量で、観客の心をゆさぶる迫真の演技を魅せた水澤さん。教会に集まった人々は、ときおり涙を流しながら見届け、終演後にはスタンディングオベーションが送られた。

水澤さんは、クリスチャンだった杉原千畝氏を演じ続けるうちに自らも目覚め、洗礼を受けたという興味深い体験を持つ。「決断 命のビザ~SEMPO杉原千畝物語~」の公演回数は現在250回を超えており、水澤さんの「アガペーの愛=無条件の愛」を追求する旅は、今もなお続いている。

―トロントの訪問は初めてですか?

「カナダ自体が初めてになります。僕は普段、東京の中でも多くの人がひしめき合う渋谷に住んでおりますから、オンタリオ湖が目前に広がるゆったりとしたこんな場所に、いつか住んでみたいですね」

―まずは、杉原千畝氏を演じようと思ったきっかけからお聞かせください

「千畝さんのことを知ったときに、僕に同じことはできないと思ったんです。なぜ彼はできたのかを体で知りたかった。しかしながら、250回演じてもまだ分かりません。今でも追求しているところなんです」

―杉原千畝氏と自分の性格で、重なる部分はありますか?

「キャラクターは正反対だと思うんです。千畝さんは寡黙な方だと聞いておりましたが、僕はそうではありませんしね(笑)。ただ1つ共通点を感じる部分は、1つのことを諦めずにやり続ける部分ですかね」

—アメリカやリトアニア、そして今回のカナダ、さらにはオーストラリアでの公演も予定されているそうですね。海外でお芝居をすることに挑戦している理由を教えていただけますか?

「昨夜もベッドに横になりながら、本能的にもっともっと海外に出たいと思っていたところでした。しかし、個人的に“世界に羽ばたきたい”というわけではありません。もう、そういう歳ではありませんしね。千畝さんのストーリーの中にある“無条件の愛”というテーマは、世界中の人たちに共感していただける。それがいかに大切かを、お芝居で伝えたいというのが、自分の中に生まれた決心なんです」


―10年以上に亘り杉原千畝物語を演じ続けておりますが、どのようにモチベーションを保っておりますか?

「まずは、私の芝居を通して目覚めることの大切さを感じてもらえたらという思い。演じるのは自分にできるほんの些細な行動だと思っていて、それがお芝居を続ける上でのモチベーションにもなっているんです。やはり、一時的な思いだけでは続かないんですね。魂からの叫びがないと継続できない。特に、若いころのように結果の評価だけを気にしていては、とてもできないことでした。今は、多くの人に希望を持っていただけることが大切だという思いを持って続けています」


—千畝氏が生きていたのは、第二次世界大戦やユダヤ人の迫害という、人類が反省すべきことが起こった時代です。しかしながら、今でも世界中で争いは無くなりません。少しでも世の中を良くするために私たちに何ができるのか、考えをお聞かせください

「大きく変えられるのは、世界のリーダーたちの考えとコミュニケーションにかかっていると思います。でも、僕は政治家ではありません。では、1人1人がどうするべきかというと、個々が愛情の大切さに気付き、それを基に行動することだと思っています。理想論に聞こえるかもしれませんが、もしも個人個人が“無条件の愛”という感覚を少しでも持っていれば、隣人同士が争うことはなくなると思いますし、人間同士を比較することが緩和されていくような気がしています」

—暴走する列車に身を投げ、乗客を救った人物を描いた小説『塩狩峠』のお芝居も始められました。何か新しい役を演じる際に、役作りのようなことは行なうのでしょうか?

「犠牲死を遂げた主人公の永野信夫ではなく、そのライバルにあたる三堀峰吉の視点で脚本化し、演じております。僕は、ある意味ではほとんど役作りをしません。演じる人物の生き方を見つめていくうちに、内側からキャラクターが出来上がってくるんです」

—現在、新たに挑戦しているお芝居についてもお聞かせいただけますか?

「淵田美津雄さんという、真珠湾攻撃の総指揮官であり、日本政府に“トラトラトラ”の合図を発した人物を描いた “真珠湾からゴルゴダへ”というストーリーです。彼は戦後にコロッと変わって牧師になるんですよ。人が目覚めて変わることに興味があって、さらに演じることで自分自身も変化していくんです」

―演じるたびに、自分も変化すると

「そのことに、わくわくしています。自分が新しく変わっていくことを実感することで、希望が生まれてくる。希望というものは自分の頭で考えるものではなく、内側から湧いてくるものなんですよね。それが、本当にその人に与えられた希望なんじゃないかな、と思っています」。    


Biography

みさわ しんご
1970年代より、朝の連続ドラマ小説から大河ドラマ、映画、舞台などで活動する俳優。そのかたわらで心理学や哲学も学び、現在はセラピスト/心理トレーナーとしても活躍。一人芝居「決断 命のビザ ~SEMPO杉原千畝物語~」は公演千回を目指しながら、世界へと公演の場を広げている。

サイト :www.misawashingo.org