人の尊厳さえも失くしてしまう戦争の恐ろしさを描く『野火』
Shinya Tsukamoto
映画監督 塚本晋也 (2014年12月19日記事)

第71回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に日本の作品として唯一選出された塚本晋也監督の『野火』。同映画祭に出席した監督は、直後に行なわれたトロント国際映画祭にも続けて参加した。塚本監督は、『鉄男』(1989)でローマ国際ファンタスティック映画祭のグランプリを受賞し、一躍、世界中にその名を知られるようになった監督。以来、『六月の蛇』(2002)、『KOTOKO』(11)でベネチア国際映画祭の賞を受賞し、世界中にコアなファンを持つ。

「20年ほど前に戦争体験を基にした大岡昇平氏の同名小説を読んで衝撃を受けました。その時から撮りたいとは思っていて、10年くらい前から作品作りのために動き始めました」という構想から長い年月をかけた力作の舞台は、敗北が決定的となったフィリピン戦線。結核に冒された田村一等兵は、数本の芋を渡され、本隊を追われる。極限の飢えと戦いながら腐敗する遺体が散乱するジャングルをさまよい、生き残った戦友の死体までもが食糧となる…。

「今の日本には戦争が起こりそうな風潮があると思うんです。したくてたまらない…みたいな。そんな今だからこそ、戦争というのはこういうことなんだっていうことを、伝えたかったんです。目の前で人が撃たれたり、遺体がそこらじゅうにあったり、何日も食べていないというような飢えを含めた極限状態にいると、人間同士の尊厳も失くしてしまう…。そういうことも含めて。あと、戦争体験をしている生存者がどんどん少なくなっていくじゃないですか。だから、話を聞けるうちに聞いて、映画を作ろうというのはありました」と、この時期に戦争映画を制作した理由を述べた。


▲映画『野火』より

塚本監督は、自身の監督作品のほとんどに俳優として出演しているが、ほかの監督の作品にも多数出演。2002年には『とらばいゆ』『クロエ』『 溺れる人 』『 殺し屋1』で毎日映画コンクールの男優助演賞を受賞するなどその演技力にも定評がある。今作で演じているのは主役の田村一等兵だ。

「本当は多くの方に見ていただくために、主演も有名な俳優の方に出演していただきたかったのですが、自主制作だったので(金銭的な)余裕がなく、自分で演じました」

監督が8キロ減量して挑んだという田村が精神的、肉体的に日ごとに追い込まれていく状況と対比して映されるのは、色鮮やかなフィリピンの自然。原色の自然とは対照的に、そこで何とか生き延びようとする人間たちの姿は醜く、それがなんとも悲しい。

▲映画『野火』より

「小説を読んで感じたのは、広大なフィリピンの原野の青空と白い雲と赤い花のなかに、なぜか兵隊だけがボロボロになっているというコントラストでした。そのなかで人間が虫のように動き回り、何のために、何と戦っているかもわからない中、突然、弾が飛んできたりする。自然が妙に綺麗で、人間だけが何故こんなことになっているのかということを描きたかったんです」

リアルな飢餓状態に加えて、壮絶な戦闘シーン、また、手加減なしのバイオレンスシーンも盛り込まれている本作。戦争のグロテスクさをそのまま見せたいという監督の信念がそこにはある。

「実は、編集中に物足りなさを感じて、後からさらにそういう(グロテスクな)シーンを追加しました。戦争では 人間の尊厳は失われ、モノでしかなくなる。原作ではカニバリズム(人間が人間を食べる行動)が問われていますが、僕はそれだけをテーマにはしたくなかった。追い込まれた状況にいれば、動いている肉だったら食べたくなるぐらいの極限状態に陥ってしまうという、そういう状況を描きたかったんです」



「戦争を知らない人たちが見て、考えるきっかけになれば本望」だという監督の反戦への思いを強く伝える『野火』。日本公開は終戦70周年を迎える2015年夏に予定されている。


 
 


Biography

つかもと しんや

1989年『鉄男』で劇場映画デビューと同時に、ローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞。主な作品は『東京フィスト』、『バレット・バレエ』、『双生児』、『六月の蛇』、『ヴィタール』、『悪夢探偵』、『KOTOKO』など。 俳優としても活動しているほか、テレビコマーシャルのナレーターとしても活躍。

『野火』オフィシャルサイト:  nobi-movie.com
塚本晋也オフィシャルサイト:  www.tsukamotoshinya.net