江戸時代からの伝統を守りつつ新しい価値観を提供したい
Shiro Tsuji & Dan Osano
辻利茶舗社長 辻 史郎/MOD'S & Kaw Ping 小佐野 彈(2016年7月1日記事)

お茶は心の拠り所かつ、心と体に効く薬

ベイ×ダンダス付近はここ数年、日系の企業やブランドが多く出店し、今や「リトル・トーキョー」とよばれるほど。そのエリアに今年5月に、京都からの歴史を引き継ぐ老舗、辻利茶舗がカフェをオープンした。そのオープニング・セレモニーのために辻史郎社長と、海外店舗を統括兼運営する台湾TSUJIRI法人であるMOD'S & Kaw PingのCEO小佐野彈氏が揃って来加。お二人からお茶にまつわる、いろいろなお話を伺った。

―現在、TSUJIRIの日本国外の店舗は、新店舗のトロント店を除くと計13店舗あり、台湾や中国、シンガポール、マレーシアに加えてロンドンにもあります。今回、北米初の出店が、トロントとなった理由を教えてください

小佐野
「トロントはカナダ最大都市で、自由かつ民族の多様性があり、すべての者を受け入れる土壌があります。ですから、いろいろなマーケティングができる理想的な環境なんですね。我々が目指しているのは、1860年創業の辻利茶舗の江戸時代からの伝統を守りつつ、新しい価値観を提供していくこと。トロントでも日本の辻利とまったく同じ品質のお茶を、よりカジュアルに、よりファッショナブルに楽しんでいただきたいと考えています」


―伝統ということで言えば、たとえば茶道はまだまだ海外に浸透していない日本文化の一つですよね

「日本では抹茶と緑茶が完全に棲み分けられていて、日本人なら抹茶は粉末で茶器に入れてお湯を入れ、点てて飲むものだということを誰もが知っています。しかし海外のお客様にとっては、抹茶とお茶は同義で差がよくわからない。そのぼんやりとしたイメージをクリアにして、お茶がどういうものか、そして、その先にある精神性までも知っていただきたいと思いますね」

小佐野「TSUJIRIの海外店舗オープンの際には必ず辻社長にお越しいただいて茶道のプロモーションをしていただいています。こういったことを通して海外でも日本のお茶に対する新しい発見をしていただければ嬉しいですね」


―国によって商品の差別化はしていますか?

小佐野 「ええ、たとえばカナダではメープルシロップなど地元の素材を使ったメニューを出しています。また、イギリスでは紅茶を意識して、生の茶葉を使った飲み物を提供しています。茶葉の輸入規制は、実はアジアが一番厳しいんです。そういう意味で、実はイギリスやカナダは日本の一番高い品質のお茶をお届けできています」

—TSUJIRIではお茶だけでなく、さまざまなスイーツがありますね


「トロント店では現地のサプライヤーさんと提携して、毎朝、できたてのシュークリームと大福をショーケースに並べています。お抹茶を使った新鮮なスイーツは特におススメです」 小佐野「あと、白玉もすべて手作りです。カナダには専門の業者さんがいないため、じゃあ、ここで作ろう、と。その白玉がすごく美味しい! 台湾でも一番人気の白玉サンデーは是非、お試しいただきたいです」

小佐野「あと、白玉もすべて手作りです。カナダには専門の業者さんがいないため、じゃあ、ここで作ろう、と。その白玉がすごく美味しい! 台湾でも一番人気の白玉サンデーは是非、お試しいただきたいです」



—辻社長はスイーツを始められるときに自ら製菓学校に通われたとか

「はい、まず製菓の専門学校に電話して、『すみません、社会人枠を作ってください』と(笑)。そこに若い子全員と一緒に行きまして、4か月ほど学びました。今はちょっとした厨房を作って窯でケーキなどを焼いています。私はまず自分がやってみて納得するところから始めるのが好きなんですね。そうやって自分達が学ぶことによって、新しいレシピに発展するなど、会社全体の成長につながっていると思います」


—一方で、1860年創業の京都の老舗を背負う重責をどのように考えていらっしゃいますか?

「今、日本人がお茶を飲まなくなってきているという状況があります。そんな中でも元気のいいお茶屋さんには4パターンあるんですね。1つはインターネットでがんばっている、1つはお茶を使ったカフェをやっている、1つはお茶を使ったスイーツ販売を手掛けている、そして最後の1つは海外に目を向けて出店や輸出をしている。この老舗を背負う「重責」を「チャレンジ」する心に変えて、ホームページの充実、小さいながらも厨房を作ってスイーツを作り、先代から引き継いだカフェの開発の手も緩めず、海外も小佐野さんと提携してどんどん展開する。今、日本で元気のいいお茶屋さんがやっていることをすべて、欲張りなんですけども、やっています」



—お二人が一番好きなお茶の楽しみ方を教えてください

「私はやっぱり抹茶をそのまま点てて飲むのが一番好きですね。ただ、商品開発ということで考えると、たとえば、最近はニューヨークで人気の抹茶バーには『アップルジンジャー抹茶』とか、日本人がとうてい考えつかないような商品が行列ができるほど売れている。そういった未知の発想は大事ですね。ただし、さきほど小佐野さんも話されていたように、伝統を守ったうえにこそ『革新』がある。一服の抹茶を楽しみながら発想を膨らませていくことを常に心がけています」

小佐野「ボクも、もともと茶道をやっていたので、やっぱりそのままが一番好きなんですが、新しい試みもよくします。最近では毎朝、TSUJIRIの抹茶をたてて、そこにエクストラバージン・オリーブオイルをまわしがけして飲んでいます。オリーブオイルはお抹茶のカテキンやビタミンA、C、Eといった栄養素の吸収を助けるので、実はこれ、黄金の組み合わせなんです」


—抹茶の飲み方は無限大にありそうですね。最後に、お二人にとってズバリお茶とは何かをお聞かせください

「心の拠り所です」

小佐野「心と体に効く薬、ですね」。





 
 
Biography

つじ しろう
1974年、福岡県生まれ。証券サラリーマンから、家業である1860年に辻利右衛門が京都で創業した辻利茶舗へ転職。福岡県北九州市でカフェやスイーツなど新しい発想で人気を呼び、2010年には台湾の小佐野氏と合弁提携のうえ海外へ進出。2014年より、同社社長に就任。

おさの だん
1983年、東京都生まれ。慶應義塾大学在学中に台湾にて創業。2010年、新たにMOD’S & Kaw Ping Co. Ltd.を台湾にて設立し、辻利茶舗と商標使用契約を締結。同社と提携・合弁の上、台湾・台北を拠点に「TSUJIRI」ブランドの海外での展開を始める。現在、「TSUJIRI」ブランドの飲食店を各国で展開する傍ら、歌人として歌壇でも活動中。