子を想う気持ちと、母を想う気持ち
塚本 晋也
映画監督・俳優(2011年09月16日記事)

痛々しいまでの愛情を映す「KOTOKO」

4畳半のアパートで少数のスタッフとともに制作した『鉄男』がローマ国際ファンタスティック映画祭のグランプリを受賞。一躍、世界中にその名を知られるようになった塚本晋也監督。『鉄男』以来、『東京フィスト』『バレット・バレエ』『双生児』『六月の蛇』『ヴィタール』、そして『悪夢探偵』などの秀作を次々に 発表し、映画ファンの心を鷲掴みにしたこの個性的な監督が、トロント国際映画祭に新作を引っさげてやってきた。

塚本監督の最新作は『KOTOKO』。シンガーソングライターのCocco を主演に起用している。
「Cocco さんの歌が昔から大好きで、”歌“なんですけど、本人の内側を投影したような叫びみたいな感じがするんですよね。そのCocco さんに、是非、1回(作品に)出ていただきたい。ただ、出てもらうだけじゃなくて、彼女の世界になるべく入っていきたい、というか、触れたい、という気持ちがあったんです。(Cocco さんに)インタビューを繰り返し行なって、色んな話からヒントを得ながら自分の想像を加えて1個のストーリーを作っていきました。(製作期間は)そんなに長くない… 1か月くらいあったかな? と言う感じの中で行ないました。脚本を書いて、その脚本の”琴子“という役をやってもらうに関して違和感があるかどうか聞きながら、全く違和感がなくなるところまで脚本を煮詰めたんです。脚本が上がった時には彼女の頭の中では”琴子“のイメージが出来ていたので、そこ(脚本を一致させる)に至るまでが一番大事な作業でしたね」
塚本監督作品と聞くと、無機質のものと有機質のものが怪しく交差し、監督の独特な世界が展開されるイメージがあった。しかし、試写させていただいた『KOTOKO』は、これまでの作品よりも、もっと人間の感情に寄り添う目線で作られていると感じた。Cocco さんがイメージするものを取り入れた、そのインプットのせいだろうか?「そんな風に感じましたか? いつもは自分の頭の中を解剖して、自分が何を考えているのかを考えながら、探りながら、それを形にしていくことで映画にする。つまり、自分のイメージに寄り添っていたんですよね。でも、今回はCocco さんに、女性の気持ちに入っていって作った作品です。だから(前作までとは)違うように感じるのかも知れませんね。それに、自分の母親が亡くなって… 母と子の絆というか、そんなものを描きたかったんだと思います。そういう意味ではいつもとテーマが全然違いますね」
Coccoさんが演じる琴子は、女手ひとつで乳児を育てていこうとする。そして、その子を愛するがゆえに精神のバランスを壊していく。上手く育てたいのに「上手くできない!」、その叫びは悲痛だ。カメラは、そんな琴子の危ういバランスを静かに映し出していく。塚本監督は、琴子の生き様をカメラ越しに見つめるだけでなく、ただ一度だけ彼女が束の間の心の平安を見出す男性、田中の役を演じている。
「脚本を書いた時に、Cocco さんが(田中を)僕がやるんだったら…っていうのが出演の条件だったんです。今回は、他にいわゆる俳優さんっていうのはあまり出ていないですね。僕の元助監督とか、自分の身近な人とか、素人の方とか(に出演をお願いして)、アットホームな空気でやりたかったんです」『KOTOKO』が例外なのではなく、塚本監督はいくつかの自身の作品に出演したり、他監督の映画やドラマに俳優として参加。殺し屋1( 01年、三池崇史監督)やクロエ(同年、利重剛監督)などの演技が評価され、02年に毎日映画コンクール男優助演賞を受賞している。
「それはね、僕が(映画に)出るのが好きだからなんですよ(笑)」

あのタランティーノ監督もよく自作に出演していることで有名だが…。

「それも、出るのが好きだからだと思いますよ。それしかないですよ(笑)」
笑って答える塚本監督だが、彼の場合は、監督と役者だけでなく、脚本、編集、美術… と、テロップを見ると自身の名前がずらり。ほとんどの作業を自らが行なっている。
「中学生くらいの時に映像を撮るのを初めてから、ずっと同じことをやっているだけから大変じゃないですよ。その代わり、他のことは何も出来ないからね(笑)。本当に、料理も出来ないし、裁縫も出来ないし、お父さんらしく機械を直したりすることも出来ないんですよね。映画がなかったとしたらただの、何にも出来ないだめな男ですよ(笑)」
”映画がないと、本当にどうしようもない“と言う塚本監督はこう続ける。「そういう、ほとんど他に何の芸も才もない男なんですけど、映画を撮るために妄想してストーリーを作るのが好きだったんですよね。妄想しているだけだと、周りから見ると、何にも動かない、ただのぽーとしてる人になってしまいますが、妄想が映画になると、多くの人が見てくれる。喜んだりしてくれる。それってとても嬉しいことですね。それが僕にとっての映画の魅力でもあります」

現在は、頭の中の90パーセント以上は映画のことを考えているという監督に、次回作の構想を聞いてみた。
「”種“はもう、常にあります。もともと映画の種は沢山あったんですが、今、どうしても作りたいものしか作りたくないような気がしてきちゃって…。
『KOTOKO』は、この映画を撮りたい、と言うよりは、Cocco さんと映画が撮りたいと思っていながらどういう映画にするかっていうアイディアがなかったんですよ。だから、『やるよ』『今だったらいいよ』という感じで急遽考えた話ですね。大体、映画を撮る時はずっと前から筋を考えています。でも、この作品については全く考えてなかった。昔から考えていたやつのほう が良いかなとも思ったんですが、まとめようとした時に、せっかくCocco さんが出てくれると言うことなら、僕が考えた話よりは彼女の頭の中から引き出した話の方が良いんじゃないかと思って…それで出来た作品なんです」

その手法が功を奏したのか、ベネチア国際映画祭のオリゾンティ部門でグランプリ受賞。「未だにね、全然、実感が沸かないんですよね」淡々と語る塚本監督だが、これからの作品作りの励みになることは間違いないだろう。

1人の女性の人生と、大切なものを守ろうとするがためにそれを失ってしまう痛み。画面から溢れんばかりに伝わってくる愛情。「僕も父親ですけど、母と子どもの絆ってすごいですよね。なんだか疎外感を感じてます(笑)」と、冗談めかした塚本監督。母親の愛情や大切な人への特別な想いをひしひしと感じながら見たい作品だ。 

kotoko
最新作『K O T O K O 』
今年のベネチア国際映画祭オリゾンティ部門グランプリに輝いた塚本監督の最新作。日本での上映は2012 年春予定。

〈インタビュー/西尾 裕美〉

Biography

映画監督、俳優。1988 年『電柱小僧の冒険』でPFF アワード・グランプリ。翌年、『鉄男』(主演・田口トモロヲ)がローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ。03 年公開の『六月の蛇』でべネチア国際映画祭コントロコレンテ部門審査員特別賞。04 年には『ヴィタール』がシッチェス・カタロニア国際映画祭Fantastic Noves Visions 部門作 品賞、ブリュッセル国際映画祭銀鴉賞受賞。俳優としても02 年に毎日映画コンクール男優助演賞を受賞している。
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