TVでは出来ないことを映画でやろう
Shogo Watanabe
映画監督 渡辺正悟(2012年6月15日記事)

妥協なき美術家とがっぷり四つに組むために選んだ映画というメディア

ドキュメンタリー映画の面白さは、なんと言ってもそれまで知らなかった世界に目を見開かされることにある。去る4月に開催されたカナダ国際ドキュメンタリー映画祭「Hot Docs」にて上映された渡辺正悟監督の『会田誠ドキュメンタリー 駄作の中にだけ俺がいる(英題、AIDA:A Natural-Born Artist)』は、日本ではタブー視されているという一人の現代美術家に焦点をあて、その創作過程にギリギリまで迫った快作である。

ーこの作品はもともとテレビ用に作り始めたという話を聞きましたが?

「彼(会田誠さん)が業界では”危ない“と言われているのは知っていましたが、ちょっとケアすればいい、極端なところを柔らかくすればテレビでも大丈夫だろうと思っていたんですね。ところが局は彼の芸風をみて”難しいだろう“と簡単に結論を出してしまった。
まぁしょうがないな、と。彼の世界観をこちら側が変えて見せるのは、アーティストに対して失礼だし、全体の中から口当たりのいい部分だけを取り出して会田さんはこういう人なんですよ、っていうのは出来ない。だから、あまりそういう制約を受けないで作れる『映画』という形にしようと思いました」

ーテレビという枠から自由になって、どのような変化がありましたか?

「あの『灰色の山』という作品を、最初から最後まで、作り上げるところまでを取材するっていう、それだけの縛りにしてやりました。だからいつ完成するかも分からない、いや完成しないかもしれない。そういうつもりでやったんですね。会田さんがいつもああいう風に締め切りを守れない、間に合わない作家だというのは初めは知らなくて(笑)。でも、それはそれで非常に面白かったです」

ーなるほど、もともとテレビ向きではない素材だったという言い方もできますね

「僕はずっとテレビの中でドキュメンタリーを作ってきましたが、最近のテレビ番組というのは視聴率競争のなかでどんどん煽るような作り方になっている。ナレーションにしても、もう分かってるよ、というところまで噛んで含めて説明してしまう。画なんて見なくても内容が分かるぐらい、情報過剰な作りをしている。そういうのが厭になってきて、そうじゃない、あんまり説明しないものを作りたくなったんですね。情報不足と言われてもいい。あえて説明せず、むしろ感じる、想像する余地を多分に残したいという風に思ったんです」

ー作品の中で、会田さんの奥様がナレーションの声を喋っている部分が非常に印象に残りました

「第三者のナレーターを使うとテレビ的な距離感が生まれてしまう。プライベートな奥さん自身が、内輪のこととして喋ることによってある意味クローズドな、閉じた世界感をもつ作品になったかも知れないですね」

ー初回を終えた感想はいかがでしたか?

「僕みたいなドキュメンタリーの形がどのように受け入れられるのかなという不安はありました。やはりヨーロッパやアメリカのドキュメンタリーとは違う作り方をしてるので」

ー具体的にはどのように違うのですか?

「たぶん欧米あたりは、非常にジャーナリズムの要素が強い。社会的なものとか、政治的なものとか、そういうものにフォーカスしたものに価値がある、そういうことを社会的に認める風土がある。日本の場合はもうちょっとエモーショナルだったり、感情的だったりそういう部分に重きを置いた作りをしている気がします」

ーそれは日本の国民性も影響してるんでしょうか

「たぶんね、日本のドキュメンタリー映画が歩んできた道のりっていうのが、欧米とは違う。映画から出発してるんですよね。それに対し、欧米のドキュメンタリーっていうのはジャーナリズムから派生してきている。日本の場合は、ある世界を描くときに、非常に映画的な、ストーリー的な、あるいはドラマティックな側面から描いていくものが非常に多いんじゃないかな。欧米はむしろそういうものはいらない。どんどん社会を糾弾したり、暴いていったり、そういうのが基本的なトーンだと思うんですよね」

ー渡辺監督が影響を受けた監督、または映画はありますか?

「ないですね。映画は好きだったんですけど、見ていると不自然だな、説明不足だなと最初に思ったんですよ。どうしてもっと客に親切に、状況とかもっと分かりやすくできないのかなと。もっと説明すべきだと、当時の僕は思ってました。今と全く反対ですね(笑)。
テレビの場合だとストーリーもぜんぶ撮って構成して、並べ替えるわけです。物語になるようにぜんぶ組み直す。今回はそれをしない。撮った順番に並べるだけです。操作は一切してない。省略はするんだけど、順番は変えてないんですよ。そのように、ずっとテレビというメディアでやってきた人間が、テレビじゃないメディアでこういうことがやれたっていうのは、自分なりに良かった点だと思いますね」

ータイトルですが、日本語タイトルでは『駄作の中にだけ俺がいる』となっていますね

「これは彼が初期にやったグループ展のときのタイトルなんです。彼自身の言葉なんですね。非常にひねった言い方をする人なんで、傑作とか上手くいった作品の中に自分はいない、失敗した中にこそ本当の自分がいるんだという、非常に深みのある言葉ですよね。会田さんらしい言葉です」

ー監督にとって駄作とは何ですか?

「うーん…(沈黙)、やはり妥協の産物でしょうね。いろんな制約だとか。突破できるものもあると思うんですけど、突破した中で100%やってれば自分の中では満足できる作品なんじゃないでしょうか。常に条件というのは付いてきますから、その条件がある中で障害をひとつでもこじ開けていけば、こじ開けた障害の数だけ自分の満足度も上がりますから、その積み重ねでしょうね。今回の作品は会田さんのようなアート作品とは違いますけど、ある意味で完成まで持ってこれたので良かったなと。スクリーンで観て、あれこれ思う部分もありますけど、手直しを入れてしまうと会田さんじゃないですけどキリがない、終わらないですから(笑)」。 

Biography

わたなべ しょうご

映画監督。1951年広島県生まれ。民放、NHK-BSなどで情報番組やドキュメンタリーを数多く手掛ける。自然、歴史、戦争、人物など様々な長編ドキュメンタリー番組で高い評価を得る。93年には「宇宙からの大追跡母子ツル渡りの謎」で高柳健次郎記念賞、第35回科学技術映像祭科学技術長官賞、日本動物愛護協会賞を受賞。84年には「椎名誠のパタゴニア大氷河2,000」で第1回ATP(全国テレビ番組制作者連盟)優秀賞、第11回ソビエト国際番組フェスティバルグランプリ受賞などの受賞経験がある。