TIFFでワールドプレミアを迎えた 園子温監督最新作『ひそひそ星』
Sion Sono & Megumi Kagurazaka
映画監督 園 子温 & 女優 神楽坂 恵 (2015年11月20日記事)

今後も自主映画を作り、派手な 作品とバランスを取りたい

『希望の国』『地獄でなぜ悪い』『TOKYO TRIBE』に続き、4年連続でトロント国際映画祭に招待された園子温監督。今年は、最新作『ひそひそ星』のワールドプレミア公開で同映画祭に登場した。園監督の作品と聞くと、これまでの作品から過激な印象を持つ読者は多いはず。最新作は、そんなイメージを裏切り、全編モノクロームで、ストーリーも淡々と展開する、監督曰く「すごく地味」な作品。 自主制作で挑み、すみずみまでこだわりぬいた作品の主演は監督の妻でもある、神楽坂恵さんが務めている。一般上映会で挨拶をしたお2人にその後話を伺った。

―ワールドプレミアでの会場の反応はいかがでしたか?

園子温監督(以下、園)「今までやってきた映画と違ってすごく地味。派手じゃないので、そういった意味では映画祭で、楽しませてあげられるような(いわゆるエンターテインメント的な)作品ではないとは思っています。会場にいる中で2、3人が面白いと思ってくれればいいかなくらい。Q&Aで、 “今までの作品に比べて成熟しているように見える”って言われて、ちょっと答えにつまったんだけど、これまで40本近く作品を作ってきて、その多くがエンタメの映画。今回はちょっと違うので、観客にはそう見えたのかもしれない。自分的には、初期の、真面目な映画を撮っていた時に近い感じかなと思っています」

神楽坂恵さん(以下、神楽坂)「園監督らしいといえば、監督らしい作品です。私はトロントの国際映画祭に参加するのは初めてなんですけれど、観客のみなさんが、すごく温かいなと思いました。この作品では、笑うシーンなんてないだろうなと、こちらは思っていたんですけれど、笑い声が聞こえてきたり…。色々な見方があるんだなと思いました」

―監督の17年ぶりの自主映画でもありますよね

「そのおかげで、今まで以上に自由に映画が作れたというのもありました」

神楽坂「編集とか音楽も何回も何回も手を入れていて…。普通は時間の制約があり、そんなにできないのですが、自主映画ということもあって自分の好きなようにやっていましたね。終わるようで終わらない…という感じで作っていました。思い入れがありすぎて、完成したものの、作っただけで満足で、世に出したくないという気持ちもあったのよね?」

「タイムカプセルのように、フィルムを入れて隠したい…みたいな」

―撮影場所は福島県の浪江町(なみえまち)。東日本大震災で被災し、さらにその被害で発生した原子力発電所事故に影響を受けて多くの住民が移動、避難を余儀なくされている町ですよね。撮影許可はスムーズに下りたのですか?

「役所の方の中に僕の映画を好きな方がいて、親身になって相談に乗ってくれて、多くの方を説得してくれた。ラッキーでした」

—浪江町を歩くシーンが多かったですが、神楽坂さんは実際に歩いてみて、どういう感想をもたれましたか?

神楽坂「現在は、雑草が生えていたりしていて、破壊的な被害があったことが少し分かりにくくはなっていて、時間の経過が感じられました。人はいないけれど、建物や表札が残っていたり…。そういうのを見ると、はやり悲しくなり、いろいろ考えてしまいそうになるんですが、 役柄もアンドロイドだし、感情は出さずに、あえて考えないように抑えていました。劇中にも出ている黄色い綺麗な花が咲いている場所があったんですが、現地の人から“その花は荒れた土地に生える花なんだよ”と聞いて、綺麗な黄色い花が、現地の人たちにとっては、荒れている土地の象徴になっている…。複雑な思いがありました」

—アンドロイドの女性、鈴木洋子を演じてみて、難しかった点はどこでしたか?

神楽坂「この作品については企画の段階から携わってきていたので、 作品全体を通して私は役者として、その役割の1つを全うしたという感じです。 監督がおっしゃる通りにやっていたので全然難しくありませんでした。それでも怒られたりした時はありましたが、こういうことを言おうとしているんだな、と、言葉以上に監督の意図を汲むことができる部分がありました」

「もう1つ、彼女のシーン(特に1人芝居の部分)は、日常を描いている。普段の通りにやってもらえばいい役柄なので、特に演技っぽくしたというのはない。あと彼女も僕といてけっこう長いので、あまり指導しなくても、わかるというか、できるっていうかね」


©SONO PRODUCTION

©SONO PRODUCTION


—監督から見た女優としての神楽坂さんの魅力はどこですか?

「他に変わる人がいない人。歌手で例えると、セリーヌ・ディオンみたいな人はいっぱいいるんですよ。歌がうまい、っていうね。でも、ジャニス・ジョプリンみたいな人、うまいとか下手じゃなくて個性がある人。そういう人は他の人に取って代われない。彼女はジャニスみたいな女優だと僕は思っています」

—2015年に4本の作品が公開。ここ2年間ほどは、常に作品作りをしている状態だったのでしょうか?

「公開が重なっているのは偶然、というのもありますけれども、以前に比べて撮ってくださいというオファーが多くなっている状況です。あと、性格上、あまり断らない、断れない…。そのせいで増えたというのもありますけれどもね。僕にとって今は思いっきり映画を作る時期だと実感しています。僕は映画って、音楽と同じくらいのヘビーさ、重さでいいと思っているんですよね。1年に1曲くらいしか書かないミュージシャンってなかなかいないですよね。映画は、ものすごくためてためて出す、というイメージを作っちゃっているけれども、そうじゃなくてもいいんじゃないかな、どんどん数多く作るのも全然アリだと思っています」

—監督の次回作について教えてください

「これから撮影するものはたくさん控えていて、来年も、今年自主映画で1本撮ったように、自主映画を撮りたいと思っているのは確かです。決まっているのはそれくらいです。『ひそひそ星』みたいな映画は1年に1本で、あとは超ド派手な映画が控えている感じですね。派手な映画を撮るときは思いっきり派手に、そしてまた自主映画では、静かな映画を撮るというバランスになると思います」



9月20日、トロント国際映画祭にてアジア諸国の良質な作品、優秀な映画制作者を称えて贈られるNETPAC賞を受賞したことが発表された『ひそひそ星』。今月21日(土)に開幕する映画祭、第16回東京フィルメックスのオープニング作品としての上映が決定し、来年春頃に、日本国内での劇場公開が予定されている。

 
 


Biography

その しおん

法政大学入学後、8mm映画の制作を始める。90年、『自転車吐息』がベルリン映画祭の正式招待作品に選ばれたのをはじめとして、『愛のむきだし』や『冷たい熱帯魚』など、国際映画祭への正式招待作品多数。トロント国際映画祭では、2012年『希望の国』が同国際映画祭「NETPAC賞(最優秀アジア映画賞)」を受賞、2013年には『地獄でなぜ悪い』が観客賞を受賞。

サイト:www.sonosion.com


かぐらざか めぐみ

岡山県出身。テレビドラマ、映画、舞台などで活躍。主な映画出演作は、『トウキョウ・守護天使』(2007年)、『冷たい熱帯魚』、『恋の罪』(11年)、『希望の国』(12年)、『地獄でなぜ悪い』(13年)『ラブ&ピース』(15年)など。第33回ヨコハマ映画祭、おおさかシネファフェスティバル2012にて園子温監督『冷たい熱帯魚』、『恋の罪』で助演女優賞受賞。