自分に自信が持てるもの
それが漫画です
Taiyo Matsumoto
漫画家 松本大洋(2013年6月7日記事)

熱狂的なファンを持つ漫画家の
ユーモラスで温かな人柄に触れる

トロントニアンが知っている日本語というと、何を思い付くだろうか。Sushi・Sashimi はもちろん、最近ではIzakaya など、食に関する言葉から日本文化がカナダにも浸透している。しかし、2000年以降、日本からの文化の”輸出“で最も影響力が大きいものは娯楽文学、それも『Manga』ではないだろうか? 海外のいわゆる『Comics』と比べ、日本の『Manga』は独特のスタイルを持ち、大人の鑑賞に堪えられる深い内容で、優れたサブカルチャーのひとつとして評価されている。

今回は、そんな漫画作品を生み出し続けている人気作家の1人、松本大洋氏にトロントでお会いできる機会を得た。5月11日・12 日、トロント・リファレンス・ライブラリーで華々しく開催されたToronto Comics Arts Festival(TCAF)には、大勢のアニメ/漫画ファンが押し寄せた。ゲストの1人として招かれた松本氏は『鉄コン筋クリート』などの作品で海外にもその名が知られている。しかし、実際にはお顔を拝見できる機会が非常に少ない作家さんの1人だ。
「(こういうイベントに顔を出すことは)確かにあんまりないかな…。たまに出ますけど、忙しい時は遠慮していることが多いです」
聞けば、アシスタント陣はあまり使わないのだという。「以前は人と仕事をしていたんですけど、今は奥さん(漫画家の冬野さほ氏)とずっとやっているので、それに慣れてくるとね…」

奥様とは実際に絵を描く作業だけでなく、制作作業の最初から相談し合うという。家族は仕事に口を出さないで欲しい、という作家さんも多い中、稀な印象を受ける。「うん、そういう(仕事をしている時は放っておいてくれる)人がいい、って言う作家も結構いますね。でも、うちはそんなことはなかったです。話を作っているところからずっと一緒にやっていきます。お互いの意見の良いところを合わせていくんです。もう10年一緒にやってるのでそんなに意見の食い違いというのはないですよ。例え意 見が食違っても、相手に打ち勝てばいいというものでもないですからね(笑)。2人が納得いくところを探していくので、喧嘩になったことはないですね」


松本氏といえばスリリングでスタイリッシュ、個性的なコマ割りなどでスピード感溢れる作品を作り出す、という印象があった。しかし、にっこりしながら話すその物腰はとても柔らかい。そんな人柄の温かさは、新作の『Sunny』のイラストのタッチに通じるところがある。二面性を持つ作家さんなのだろうか?

「絵(のタッチ)を変えようと思って変えてるわけじゃないんですよ。少しだけ試してみたくて意識的に変えたこともあったんですが、自然にそうなっていたりします。その時に影響を受けていたものとかで変わるんじゃないでしょうか?

『Sunny』は、わりと自分の実体験に近いんですよ。ずっとやりたかったんですけど、特殊な環境で暮らしているので(子ども達が様々な事情により、親と離れて暮らす)、僕を含めて、施設の人とか親など関わっている人達にどういう影響が出てしまうんだろう、というのをちょっとだけ考えてしまったんです。連載を頼まれる度に(これを)やるかやらないか、奥さんと話していた作品なんですけど、そういう、少し怖い部分もあって止めていたんです。

(今回、作品としたのは)あんまり年を取ると子どもが上手くかけなくなるんじゃないか、と思ったからなんですけどね…。今回は、書くなら本当にこのタイミングかな、っていう気がしましたから」多くの人が代表作に『鉄コン筋クリート』の名を挙げる松本氏。『Sunny』は新たな代表作となるのだろうか。

「やっぱり、”代表作は何だと思いますか?“と聞かれたら、最新作です、って言いたいですよね。『鉄コン筋クリート』を描いていた時と比べると、自分の中で変わっていない部分はもちろんありますが、時が経つことで変わった部分もありますからね。あの当時は、人を驚かせたいとか、そういう気持ちが強かったと思うんです。今は、人がやってないことをやろう、という気持ちは少し減ったかな、と思います。

実は、30歳を過ぎた辺りからあと何本書けるかな、と思うことがあるんです。多分、映画監督とかもそうだと思うんですが、20代の頃には、どんどん新しいものを作っていくと思ってたんですけど、年を取って(作品を頻繁に生み出していくことが)体力的にもキツくなってくると、あと何本やれるか、ということを考え出し、計算していくと…(その本数が大体分かってくるので)やりたいことしかやりたくない、と思うようになってくる。作品を一本描くことって、本当にバテるんですよ(笑)。だから、漫画を描くのは楽しいんだけどそろそろ…」

インタビューに同席していた松本氏の担当編集者、そして『鉄コン筋クリート』劇場版を任されたマイケル・アリアス監督も、このコメントに思わず苦笑する。

「でも、漫画は生涯やっていきたい、と思っていますよ(笑)。それが自分に一番合った表現方法だから。昔は、映画を撮ってみたい、小説も書いてみたい、と思っていたこともあったんですが、例えば、物書きの人は上手い人は本当に上手い。敵わないんです。僕は、文章だけとか絵だけではダメだけど、漫画を描くと自分に自信が持てる。だから、僕にとっては漫画が一番。これしかないと思っています」

 
 


Biography

まつもと たいよう

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東京都出身。1988 年にデビュー。小学館『ビッグコミックスピリッツ』『月間IKKI』などで作品を掲載。代表作に『花男』『鉄コン筋クリート』『ピンポン』などがある。2001 年『GOGO モンスター』で第30 回日本漫画家協会賞特別賞受賞、07 年には『竹光侍』(原作:永福一成)で第11 回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、同作品で11 年には第15回手塚治虫文化賞 マンガ大賞を受賞している。最新作は『Sunny』(小学館)。