カナダ唯一の
日本人毛皮職人としての信念
Takashi Itoh
MTBEAUTY 代表取締役 伊藤孝志(2014年1月10日記事)
伊藤孝志さんは、1987年にワーキングホリデー第一期生として来加し、その後友人と会社「MTBEAUTY」を起業。
20年に亘り独自の製法でビーバーの毛皮製品を手がけている。その彼の座右の銘である、「一生懸命」という言葉には特別な重みが感じられる。伊藤さんが海外への関心を持ちめたのは22歳のとき。サーフィンをするために初めて海外に出たのがきっかけとなった。

「波乗りをしに初めてハワイに行ったときに、自分が今まで知らなかった世界を見て、強烈なカルチャーショックを受けたんです。それでもう一度行きたいと思い、アルバイトをしてお金を貯めて、今度はロサンゼルスに行ったのですが、そこではハワイ以上に英語が必要になって。少しでも英語が話せるようになりたいと感じたのがきっかけですね」
その後、知人からカナダのワーキングホリデー制度のことを聞いた伊藤さんは即座に渡加を決意。旅行関係の仕事を通じて、自身の目標へのステップを踏んだ。

bits

「最初の1年はお土産屋さんで一生懸命働きました。1年が過ぎたときに、社長がツアーガイドの仕事を紹介してくれてすぐに『お願いします』という形で始めました。日本に帰りたいと思ったことは何度もありましたが、1年が終わったときにこのままじゃ帰れないと思ったんです。まだ自分の目標に届いてないなと」
当時は現在のようにインターネットのなかった時代。「日本へのコミュニケーション・ツールは電話か手紙。寂しくなったら電話するしかない(笑)」と振り返る。海外生活での情報収集も今のようには勿論いかなかったはず。

「そうなんです。自分の目と耳で見聞きしたもの、足で探すしかない。その頃の僕らの最初の情報源はガイドブック『地球の歩き方』くらいで、それを見ながら自分でどんどん開拓していきました」

ツアーガイドとして5年を経たのち、今度は全く異業種の「毛皮」に出会った伊藤さん。その中での一つの出会いが、彼の直感を刺激したそう。「毛皮職人として働いていた現在のパートナーと仲良くなったのがきっかけで、毛皮製品に興味を持ち始めました。そんな中、一人のカナダ人女性が毛皮を使ったニット商品を彼の元に持ってきたんです。それを見たときに、毛皮がこのように変わるのは素晴らしいなと。毛皮業界の将来は必ずこのようになるという強い直感があり、これをやっていこうと彼と話しました。その後、彼が製造特許を取得して、最初は彼の家のベー スメントで2人で一着作ってはお土産屋に持っていき売ってもらう。得たお金で原皮を買い、また作って売るという自転車操業でした。部屋が毛皮だらけになったので、彼の母親にはよく怒られましたが(笑)、温かく支援してくれました」

その地道な努力の積み重ねにより、今ではカナダ以外にアメリカ、日本からも商品の注文が寄せられるように。彼の仕事への姿勢は、サーフィンから学んだものが大きいという。
「一生懸命集中してやったら上達がすごく早いし、遊びながらやってれば成長もゆっくり。地道にコツコツやることの積み重ねが結果に出るのを、波乗りを通じてすごく感じました。仕事でも最初は出来なかったことが毎日一生懸命やることによって自然とできるようになるし、結果は後からついてくる。自分なりに目標を作って、それに向かって一生懸命やることの面白さが仕事でも趣味でも感じられるんです」

また、「そういう人を見るのも楽しい」と言う伊藤さん。
「一生懸命やると、それを見てくれている人にバックアップしてもらったり、その人に必要とされる人間になる。そこから道が少しずつ開けますよね。今は若い日本人が積極的に色々な集まりに参加して、様々なことを吸収したいという人が多いですが、そういう人と会うと応援したくなるし、すごくいい刺激になります」カナダに礎を築いて20 年。最後に、日本人としてこの地で活躍することへの思いを語ってくれた。

「常に僕たちは日本代表としてここで生活をしていると思っているんです。僕らはスポーツ選手ではないけれども、海外で生活してたら日本人であることは常について回ることは同じ。特にカナダでの毛皮業界にいる日本人は僕くらいなので、その中で僕の仕事やクオリティに対して、日本人だからこれだけの良い仕事をするんだと思われたい。日本人であることに恥じないように、いつも頑張りたいと思っています」。



 
 


Biography

いとう たかし

「MTBEAUTY」代表取締役。1993年、友人と共に「MTBEAUTY」を設立。特許を持つ独自の製法でビーバーの毛皮製品を作り、パリコレクションに作品を出展するなど幅広く活躍している。現在は毛皮のリモデル、リサイクル事業に力を入れており、国境を超え事業の拡大を行なう。

mtbeauty.net