写真を通して新たな考え方やモノの見方を提案したい
Takashi Suzuki
アーティスト 鈴木 崇 (2015年3月20日記事)


大事なことは単純な動機をいつまでも追いかけること

世界各国のアーティストの写真作品がギャラリーなどで展示されるイベント「コンタクト・フォトグラフィー・フェスティバル」。トロントダウンタウン各所で5月1日から1か月間の予定で開かれるこのフェスティバルのパブリック・インスタレーションの部門に、今年は日本人アーティストの鈴木崇さんの作品が登場する。鈴木さんの作品は公共の場に立つビルボード(巨大な看板)やバス停の広告スペースなどで展示され、一般公開される予定だ。

―今回、コンタクト・フォトグラフィー・フェスティバル参加に至ったいきさつを教えてください

「ヨーロッパで開催されたアートフェアで実際に作品をご覧になったのか、僕のホームページで写真を見ていただいたのかはわからないんですが、フェスティバルの担当者からプロジェクトに参加して欲しいという連絡がきたんです。 出展する作品『BAU(バウ)』は、 1作品がハガキ1枚サイズほどと、実寸はすごく小さいサイズで、これを何百枚と組み合わせて構成する趣旨の作品です。トロントでの展示は、ビルボードなど非常に大きなサイズでの展示になり、これまでの展示スタイルとは異なること、また、カナダで作品を発表するのは今回がはじめてのこととなるので、参加させてもらうことにしました」

▲シリーズ「BAU」、愛知県美術館「これからの写真」展展示風景

―『BAU』はどのような作品ですか?

「美術用語でアッサンブラージュ(寄せ集め)といいますが、”こういうものを作ろう“などと決めないで無作為に組み立てた市販のスポンジが、写真になったら何に、またはどう見えるのかという事を主題にした作品です。即興で組み立てて、撮影して、またバラバラにして組み立てて撮影するというのを繰り返しています。絵画や彫刻と違い、写真は、ウェブや印刷物、また、展示する作品までと、形や大きさが変えられますよね。そのように簡単に形が変えられるメディアを扱っているので、美術館とかギャラリースペースなどで作品を展示する場合は、サイズや大きさについて、実物を見たときの感覚をすごく大事にしています。この『BAU』も、1作品の大きさを実際のスポンジの大きさと同じくらいにするというのが大事なことだったんですよ。そのように小さなサイズなので、展覧会会場で遠くから見ると、色の塊があるくらいにしか見えない。それで、近づいていくと具体的なテクスチャーが少しずつ見えてきて、改めて見直すとスポンジだって分かるようになっています。最初に見た印象と実際にスポンジだと理解して見る印象とは、見方が違うと思うんですよ。それが僕自身、写真というメディアの不思議さだと思っていて、(この作品以外でも)そういうことを作品で伝えたいというのが常にあります。作品を実際に見たその場で体験できる、オリジナリティの追求を信条にしています」

▲シリーズ「BAU」より


―鈴木さんにとって写真とはどういう存在ですか?

「僕にとって写真は”探求“、英語でいうと”クエスト“に近い感じ。冒険というか、インテリジェンスを総動員して知的なパズルを解くみたいな、そういう面白さに惹かれます。これまでさまざまな人が人間の知恵を形にした結晶が美術。これは学校で習ったことですが、美術という、アイディア比べというか知恵比べというか、そういう積み重ね(歴史)の上に自分が立ち、そこからまた違ったアイディアをみんなに見せることができるかを考えるのは、面白いことだなと思います。人を喜ばすとか人を感動させるのが全てではない。今までになかった考え方やモノの見方というものを提案していくのが僕にとっての写真です」

▲「BAU#1980」


―写真に興味を持ったのはいつ頃でしたか?

「高校生の時は映画が好きで、友人と短編映画を作ったりしていました。映画の仕事がしたかったので、ハリウッドで映画の勉強をしようと思い、アメリカに向かいました。留学先を西海岸にするか東海岸にするかで迷った結果、最終的に一番居心地が良かったボストンに決めて、そこでブロードキャスティング学科のある大学に通い始めました。アメリカの大学では、サマースクールという、夏季に他の大学で取った単位を在籍している大学の履修科目として移転できるシステムがあるんですが、それを利用して、自分が通っていた学校の近くにあった小さな芸大で写真のサマーコースを取りました。その時に、アートの分野のほうが自分に合っていると感じ、通っていた大学からその芸大に編入しました。その学校は、1年、2年の時に一般教養と同時に美術教養として、絵画とかデザインとか、文学、彫刻なども履修する学校で、ある程度身に付いたもののなかから、3年生、4年生にどの分野に専門的に進むのかを決めるという教育方針。ゼロから何かを作りだす絵画や彫刻よりは、映画をやっていたというのもあって、既存の映像や見えている世界の解釈の仕方というか、物の見え方のほうに興味があり、そのまま写真の学科に入りました」

▲「Altus021」

―その後ドイツにも留学されていますが、どちらの国で学んだ影響が大きいと思われますか?

「基本的にはアメリカで基礎を築いていると思います。その基礎にドイツ的なエッセンス、または日本的なエッセンスが混ざっているという感じです。ハイブリット的ではありますね。どちらの影響の方が強いとはいいにくいです。僕は日本人だし、日本の文化が影響を与えている部分は大きいと思うんですよ」

―講師として教鞭もとっておられますね。講義ではどのようなことを教えているのですか?

「浜松にある大学と、兵庫県にある社会人向けの学校で講義をしています。僕自身、教えてくれた人の話を聞いて、おもしろいなと思ってこの世界に足を踏み入れたので、今度は僕が導く存在になれればと思っています。講義はそれぞれ、写真や美術に興味があったり、実際にアーティストを目指しているという人向けのものです。講義の内容は実技とアカデミックな座学を混ぜています。写真史だけでなく美術史にも触れます。例えば印象派とは一体何だろう? その前は? それ以降は? この画家はなぜこういう絵を描いたのかとか…。それらを学んだ上で、自分はどういうことをやりたいのかを考えろと僕が教わってきたという影響もあると思うのですが、過去の作品を紐解きながら、実際に手を動かして自身の表現の方向性やモノを見る時の基準を探ってもらいます。そうすることで自分が撮りたいのは人なのか、モノなのか、また、こういうイメージが好きなんだなとか、色よりも形に興味があるのだなとかが見えてきて、求めているものがはっきりしてくる。自分が求めているものを追いかければ、誰でもアーティストになれるんですよ。あとは根気の問題ですね」



―追いかけるものを明確にし、根気よく続ける。そのほかにアーティストになるために必要な要素とは何でしょうか?

「”成功したい“”有名になりたい“ということを目指すよりは、”世の中に対する謎を解明したい“とか、”純粋に自分が思う美しいものを作りたい“とか、単純な動機をいつまでも持ち続けられればいいのかなと思います。自分のやりたいことを夢見続けることでしょうかね」

―トロントで鈴木さんの作品展示を楽しみにしている人にメッセージをお願いします

「日常風景の一部であるビルボードに、広告とは違う意味不明なイメージが紛れ込むことで街の見え方が変化することや、単純にパッと見えた不可思議なイメージの謎を、楽しんでもらいたいですね。僕の作品をきっかけに、写真に限らず、美術の表現に興味を持ってもらえたらうれしいです」。

 
 


Biography

すずき たかし


京都出身。1996年ボストンにあるアート・インスティチュート・オブ・ボストン写真学科卒業後、ドイツのデュッセルドルフ芸術アカデミーのトーマス・ルフクラスの研究生を経て帰国。2002年より日本国内を拠点にアーティスト活動を開始。主な展覧会は06年の東京国立近代美術館「写真の現在3:臨界をめぐる6つの試論」の他、08年にフランス・パリにて「Paris Photo 2008」、10年、韓国・広州での「Emerging Asian Artists」、14年には愛知県美術館「これからの写真」など国内外で多数。

【サイト】オフィシャルサイト www.takashisuzuki.com
【サイト】コンタクト・フォトグラフィー・フェスティバル scotiabankcontactphoto.com