色と光、その中に生きる
私たちを考える
藤本 隆行
照明アーティスト(2012年2月17日記事)

今見えている色は、本当にそこにありますか?

赤、黄、青、白。数限りなくあるように思える色。学校ではクラスが色の名前で分けられていたり、色で運勢を占ったり、今日は何色の服を着ようか… ということまで、色と私達の生活は密に繋がっているが、目で見えている”色“というものを意識したことはあるだろうか。普段の生活の中に何気なく存在する『色』。今回は、色と色を生み出す光を見つめる照明アーティストの藤本隆行さんを、マキシーン・ヘップナーさんがディレクターを務める『My Lifeis a Spoon』のリハーサル会場に訪ねた。

マキシーンさんの強い要望でコラボレーションすることになったという今回の『My Life is a Spoon』。約1年前、自身で制作した公演『true/本当のこと』のモントリオール公演で来加した時から今回の舞台の打ち合わせが始まったという。マキシーンさんは藤本さんの照明を「彼の色はスペシャルなのよ」と語る。
「LEDだから出来ることがいろいろありますからね。LEDが出てきたのは約10年くらい前です。そこから、商品化されて普通に使えるようになったのが 2003年頃ですね。舞台って技術的に新しいものをあまり使いたがらないところが一部ありますけど、僕が始めたその頃でも、照明の制御卓でLEDが使えるパレットを持っているものがひとつあったんです。
LEDというのはRGBの赤(Red)と緑(Green)と青(Blue)の3色でいろんな色を作っています。赤と緑と青、それぞれの色の比率を変えて他の色を表現するんです」LEDとは発光ダイオードのこと。青色発光ダイオードの開発によってフルカラーが再現できるようになり、商業用ディスプレイにも使用されている。また、省エネの動きとともに一般家庭にも普及しているので聞いたことがあるだろう。藤本さんはそのLEDを使っての舞台照明や、筋電センサーなど先端テクノロジーを駆使した舞台作品を制作し続けている。
「LED だから出来ることの一つとして、”影回し“(人や物の影をくるりと360度回し、影だけがその周りを動いているように見せること)があります」LED照明は電球よりも点灯するまでのタイムラグが短い。その特性を利用しての面白い試みだ。「影を回す、というのは、順番に(少しずつ方向を変えながら)電灯を点けていけば出来そうなものなんですけど、普通の電球って、点いてから消えるまでの間にカーブ(タイムラグ)があるわけですよね。影が回って見えているのはアニメーションの原理と同じなので、普通の電球でやってしまうと回らない(回ったように見えない)んですよね。電球が早く反応しないと無理なんです」アニメーションの原理というのは、簡単に言えばパラパラマンガの原理。1枚1枚は静止画だが、それを早く動かすことで、実際に絵が動いているように見える。その原理を利用し、1秒間に24個のLED照明を順番に点灯していく。円形に吊った24個の照明が順番に点いて、消える。原理は分かっていても、”くるり“と影が回る様子は興味深い。

「舞台上で動いているダンサーを私達の脳は動きとして見ている。でも、同じように24個のライトを順番に点灯させて作っている”動き“を( ダンサーの動きと)同じように知覚しているというの がすごく面白いんですよ。人間の目っていうのは、どうして色がみえるんやろ、っていうこと、考えたことはありますか?」 藤本さんが逆に質問する。
「赤と緑と青のドットしかないのに、合わせると白に見える、どうしてやろ?って…。それを調べると、そこに色があるわけじゃなくて人間の目にそういうセンサーがあって、それが色を私達の脳で作ってるんだって分かります。”脳“って面白いなって思いませんか? どんなことでも、なんで? と疑問を持つことから始まり、それを探っていって分かると面白いですよね」
確かに、私達が見えている”色“は、実際は脳で作り出されている。そんな話から藤本さんは、現在進めているプロジェクトについて少し話してくれた。「韓国のコリオグラファーとやっている 作品で、『意識(Consciousness)』が題材になっています。『赤を見る(SeeingRed)』という面白い本があるんです。イギリスの進化心理学者が赤色を見る、という話題から、意識とは何か、というレクチャーしたものをまとめたものです。
その本を手がかりに作品をつくります」光の3原色、つまりRGBの3色のうち赤は特別なのだという。
「”赤“というのは、人間が一番最初に見える色らしいんです。赤ちゃんの様子を観察した研究からです。赤ちゃんは話せないので、そこをじっと見ているかどうか、ということで評価していく形で展開しているんですけど、赤色は医学的にも、目のセンサーが一番先に発達するらしいです。目にはセンサーが3つあるんですけど、赤と緑と青のセンサーのうち、赤が一番最初に発達して、青が最後。逆に赤が最初に見えない人は、血が流れていても見えないということになってしまいます」
必要に迫られて進化していった人間。色と生態系は深く繋がっている。そして、私達はみな、身の周りに溢れる色を好奇心の対象として見ていた時期があった。海や空はどうして青いのか、 夕焼けはどうして赤いのか、そんな疑問を持たなくなってしまったのはいつからだろう。いつから、”そう見えること“が当たり前になったのだろう。「例えば、夕焼けの色、赤色(の光線)は角度が低くないと見えないんです。太陽光線が上のほうから来ると見えなくて、角度が低くなってくると赤が見えてくる。色って面白いでしょ? 光線は面白いんですよ。すごく大きな光が太陽から来ているのに、人間が見えている範囲はすごく限られていて、それも物理的に言えば3色だけしか見えない。青と赤と緑しか見えなくて、ほかの色は脳には届いていない。3色でものを判断して生きている。他の動物には人間が見えないものがみえているんですよ。
例えば、蜂はセンサーが4つあって、紫外線が見える。だから人間以上のものが見えている。紫外線を感知できるものを使って白い花の写真を撮ると模様が出てくることがあって、蜂にはその模様が見えている。同じように見える白い花の違いが区別できていたりする。そう考えると、人間が見ている世界って本当に少ないんです。ひょっとしたら他のものが見えている人もいるかも知れないですけどね」

舞台の要素の一つとしてみていた照明。ダンサーの動きに気を引かれ、その良さを引き出す要因の一つとして感じていた照明だが、光や色、そしてそれを取り巻く世界に思いを馳せると、その世界は限
Biography

ふじもと たかゆき
1987 年、アーティスト集団「ダムタイプ」に参加、照明並びにテクニカル・マネージメントを担当する。その後、演出の分野でも才能を発揮、パフォーマンス作品『true/ 本当のこと』(07 年)はモントリオールなど、10 か国18 都市以上で上演された。そのほか、山本能楽堂(大阪)での能の演目にLED 照明デザインを付けたり、11 年10 月に横浜で開催された「スマートイルネーション」にて横浜三塔などをライトアップ。従来の明というイメージの域を超えた作品を次々と生み出し、注目を集めている。