時代を超えて日本の野球道を継承
Tomio Fukumura
「バンクーバー新朝日軍」共同設立者/アシスタントコーチ 福村 十三郎(2016年4月1日記事)

ケイ上西さん(中央)と福村十三郎さん(右)

エース達が集結したバンクーバー朝日軍

戦前、カナダの地で新たな夢を抱いて生きようとした日本人達がいた。しかし、彼らを待っていたのは過酷な肉体労働と差別という厳しい現実。貧しさにあえぎながらも、日々を必死に生き抜く彼らに希望の光が生まれる。それは1914年に設立された野球チーム「バンクーバー朝日軍(以下朝日軍)」だ。やがて、サムライ野球と呼ばれた彼らの頭脳プレイは日系人だけでなく、白人たちからも称賛される。その物語は2014年に妻夫木聡らの主演で『バンクーバーの朝日』として映画化された。そして同年、100年あまりの時を超えて、13歳から16歳の少年を集めた「バンクーバー新朝日軍」(以下、新朝日軍)が結成された。日系文化会館が毎年、日系の文化や歴史の理解と発展に貢献した個人や団体に贈る桜アワードを、今年受賞した朝日軍。伝説の野球チームを復活させた立役者の一人、福村十三郎さんにお話を伺った。


―2014年10月に新朝日軍が結成された経緯を教えてください
「日本の映画『バンクーバーの朝日』がバンクーバー映画祭でも上映されることが決まった時、野球仲間の父親同士で『日系の子どもたちを集めて朝日軍を再開させたらおもしろいんじゃないか』という話をしていました。同じことを考えた6人がアイデアを出し合い、朝日軍の栄誉を称えた記念試合と日本遠征をやろう! ということになったんです」

―オリジナルの選手の方々とは繋がりがあったのですか?
「実は、映画『バンクーバーの朝日』に現地スタッフとしてかかわる機会があり、その時、唯一ご存命の元選手、ケイ上西さんとお会いする機会に恵まれました」

―日系カナダ人にとってヒーローでもあるケイ上西さんには、どのような印象を持ちましたか?
「ケイさんはね、野球の話になると眼が光るんです。いまだにプレイしたいとおっしゃるくらい野球に対して強い思いをお持ちなんですね。我々が想像できないような差別を受けて、大変な苦労をされてきた。そんな彼らにとって野球は心の居場所だったと思うんです。朝日軍を再結成したいと話をしたら、『是非やってください!』と嬉しそうでした」

—新朝日軍ではどんなトレーニングをしているのですか?
「我々にはモットーがあります。それは、自分たちがやっているのは“ベースボール”じゃなくて“野球道”だということ。ボールを蹴らない、グローブを投げない、その辺に唾を吐かない等、北米ではよく見かけますが、日本では当たり前のことを徹底してやる。
今は休止中のシニアチームのメンバーが、年齢別に4つにわかれている少年チームのコーチをボランティアでしているのですが、日本の高校野球の経験者もいて、日本式の厳しい指導をしています」


—どんな選手が所属しているのですか?
「バンクーバーでは、居住している地区の野球チームに所属するという決まりがあります。しかし新朝日軍の選手達はエリア外からも来ているため、(通常の野球チームの)オフシーズンに練習や試合をしています。そんな事情もあってか、各チームのエース達が集まってくるんですよね」

—ケイ上西さんは新朝日軍を見る機会はあるのでしょうか?
「昨年9月にカムループスで3日間の大会がありまして、この時は毎日観に来てくださいました。最後まであきらめないこと、フェアプレイでいくこと等のアドバイスをいただいて、『朝日バンダム(13、14歳)』がAAで優勝、AAAでは決勝まで行きました。私がコーチをした『朝日ピーウィー(11、12歳)』は逆転優勝し、トロフィーをケイさんにお渡しできてよかったです。そうそう、ケイさんは地元新聞社に『この試合にはお孫さんが出ているんですか?』とインタビューされた時、『新朝日軍の選手全員が俺の孫だ』と言ってくださった。これはかなり嬉しかったですね」

—少年選手たちは、朝日軍の歴史をどのようにして学んでいるのでしょうか?
「コーチ陣が常日頃から話していますが、家庭でも父兄の方々が話してくださっているようです。日本でもカナダでも、新朝日軍のユニフォームを着て試合をしていると、ひ孫とか遠い親戚だという方が、うちのおじいちゃんもメンバーだったと話しにきてくださいます。朝日軍にはスポーツを超えた何かがあります。なぜ存在したのか、なぜ野球が必要だったのか、そういうことを考えさせてくれる場なんですね。今の選手達も、新朝日軍の練習だというとなぜか普段以上に生き生きしている。私の息子も選手の一人なんですが、気合が違うし、笑顔がいいんです」

—朝日軍は時代を超えて、自分らしく野球ができる場なのでしょうか?
「現在はいろいろな文化背景の選手がいますが、日系選手の中には自然に日本語を話す者もいます。これは間違いなくいいことです。彼らがいつか野球から離れても、日本の心、日本人としての誇りを持ち続けてくれると信じています。それだけでも再開してよかったと思っています」

—トロントの日系文化会館が行なう桜ガラで、朝日軍が桜アワードを受賞し、4月16日に表彰されますね

「朝日軍の功績が認められて受賞したことを心から嬉しく思います。これは、ケイ上西さん達のための賞です。私たちの想像をはるかに超えた厳しい環境の中で、友達が集まり、朝日軍というチームができて戦い続けた。野球だけでなく、日系移民の土台を築いてくれた。我々はそれを大切に継承させていただいているだけです」

—今後の活動を教えてください
「選手のオフシーズンのトレーニングの場というだけでなく、日本文化を紹介するイベント等もやりたいですね。それから2年おきに日本遠征をするので、そのための寄付も募集します。今後もボランティアで運営しながら、良い選手を育てていきたいですね」。




バンクーバー朝日軍
1914年に日系移民の二世たちが中心となって結成。1921年に日本遠征。その後、開戦のため解散。2003年、カナダ野球殿堂入りを果たし、元選手のミッキー前川さん、ケン沓掛さん、キヨシ菅さん、ケイ上西さん、マイク丸野さんがセレモニーに出席。2014年、映画『バンクーバーの朝日』公開。同年10月に新バンクーバー朝日軍が再結成。

サイト:asahibaseball.com

 
 


Biography

ふくむら とみお

東京生まれ。1歳でカナダへ移住。リトルリーグで野球選手として活躍。野球コーチ歴6年。スキー・レース・コーチ歴20年。映画『バンクーバーの朝日』に現地スタッフとしてかかわり、元選手のケイ上西氏と出会う。同年、バンクーバー朝日軍再結成の設立者の一人として尽力。現在は、理事およびコーチとして同軍を支えている。