好奇心に従って目指す北極点無補給単独徒歩到達
Yasunaga Ogita
冒険家 荻田泰永 (2014年9月5日記事)


"自分にはできる"という自信で進む

氷点下40度以下、目に見えるのは雪と氷の世界。そこでたった1人で北極点を目指す荻田泰永さんは、世界で3人目、日本人では初となる北極点無補給単独徒歩到達に挑戦する冒険家だ。

今年3月、カナダ最北端のディスカバリー岬から北極点を目指し、約800キロを踏破する旅に出発。当初は50 日で到達を目標にしていた荻田さんだが、予想以上の暴風雪に見舞われ、進行が遅れた。そして、ついに48 日目、 旅の続行を断念するという決意に迫られた。


荻田さんが挑戦している"北極点無補給単独徒歩" を少し説明したい。"無補給"とは、行程途中に外部からの物資補給を一切受けないこと。そして"単独"とは隊を帯同することなく、文字通り1人きりで行なうこと、そして最後の"徒歩"。これは主にスキーを使用して、荷物を積み込んだソリを引きながら氷上を進むこと。昨今の地球温暖化により、厚い氷が地続きであることは珍しく、歩行での到達は困難を極めている状態。事実、2003年以降は誰も成功していない過酷な冒険としても知られ、荻田さんも2年前の初挑戦時は17日目で断念している。

「今回、途中で引き上げた理由はいろいろありますが、一番の要因は資源切れです。持って行った食料が足りなくなって、先に進むのが難しかったんです」
常温に比べ極度に温度差がある場合、人体の消費カロリーは高くなるという。


約120キロのソリを引きながら前進するという運動量に加え、氷上での低温、限られた食料を計算しながらの歩行は、常に空腹感との戦いになる。今回の荻田さんの旅では進行の遅れにより、さらに食事の量を減らさざるを得ない状況だった。歩行中、スーパーマーケットが目の前に現れ、食料を買い込む幻想を見るほどだったという。

食料不足が要因ということであれば、補給をしてもらえば到達できたのでは?と無補給にこだわる理由を伺う。

「過去に達成した人も本当に希少。最も難しいことというところにも惹かれているというか…。経験したことで見えてきた、"自分だったら出来る"という自信があるからだと思います」

荻田さんが冒険と出会ったのは14年前のこと。両極単独歩行横断を果たした世界で唯一の冒険家である大場満郎(おおば みつろう)さんが出演していたテレビ番組がきっかけだ。「番組で大場さんと一緒に北極に行く若者を募集していたのを見て、早速手を書き、一緒に北極へ行く旅に参加しました」

それまでパスポートを持っていなかった荻田さんの初めての海外旅行が北極体験。ちょうどその頃、大学に意義を見出せず、退学して、やりたいことを模索している間のことだった。

「死がすぐそばまで迫っている状況で、目標に向かい、それを達成するという経験は日常生活では決して得られないものだった」と振り返る。

テントを張って休息を取っている間に北極熊の襲撃にあうかもしれないという緊張感、また、夜間にテントに入る前には見えなかった氷の割れ目が突然、朝起きると目の前に現れるという目まぐるしく変化する気象状況など、 旅の間は一秒とも気の抜けない状況。初の北極の旅以降、何度も冒険に出掛けている荻田さんだが、その緊迫感は旅が終わった後もしばらく続くのだという。

「恐怖心は旅の間は無意識下で抑えているのか、冒険が終わった後に出てくるという感じですかね。40日間以上氷の上にいて、前日までそこで寝起きしていたのに、終わってからベッドの上で眠っていると、夜中に目が覚めて"氷が、氷が!"とうなされている自分がいて…。目覚めてから5分くらいたってやっと"あ、もう戻って来たんだ"と気づくなんてことが起こりますね。今回、日本に戻る前にオタワのホテルに泊まったんですが、そこでも夜中に目が覚めてホテルの窓際立ち、リドー運河を見つめながら、"今どこにいるんだっけ?"としばらく立ち尽くし、"もう冒険は終わったんだ、今はホテルにいるんだ"と、ベッドに戻る…。
そんな状態が毎回冒険から戻って1週間くらいは続きますね」

帰国後は講演やテレビの特別番組出演など、メディアへの露出も多く、忙しい日々が続いている荻田さん。8月中旬には、子どもの夏休み期間に行なうイベント「100miles Adventure」を開催した。これは荻田さんが親元を離れた子どもたちを連れて、日本国内を100マイル(約160キロ)歩くという企画。今年で3回目となる今回は、5人の小学生を連れて、大阪から福井までの道のりを歩いた。このような子どもや若者向けのイベントへの積極的な姿勢は心境の変化によるものが大きいという。


「北極に一番最初に行ったのが2000年で、以降、毎年のように行っていますが、10年を過ぎた頃から変わってきたんですよね。それまで自分が好きでやっていることとして完結していたのが、自分が今までやってきたことを生かしてみたいと思うようになったんです。その結果スタートしたプロジェクトが100miles Adventureという企画なんです。
僕自身、14年前に大場さんのプロジェクトに参加して、初めて北極に行ったわけですが、今度は大場さんが自分にしてくれたように、自分が若い人を連れて、北極に行きたいなということも思うようになりました。
子ども向けのイベントにしても、他の企画にしても、 自分のこれまでの経験を伝えることで、若い人たちにとって影響を与えることができたり、人生の教訓が得られるのであれば、うれしいなと思ってやっています」

2015年に三度目の北極点・無補給単独徒歩到達に挑戦することが先ほど発表された荻田さん。過酷な旅へ彼を再び 駆り立てるそのモチベーションとは何かを問いかけた。

「昔は大陸を発見するとか、航路を探すとか、そういう理由で旅の目的、社会的な意味があったわけですよね。時には国家規模で、出掛けて行くこともあったりしました。今はそういう時代ではなくて、自分が行くことで何か新しい発見があるのかと問われると… 何も言えないですよね。
僕が北極を歩こうが、どこに行こうが、社会にとっては関係がない。世界がそれによって平和になるわけでもない ですしね。冒険とは自分にとって何か…。それは実際に、自分の目でそこに何があるのかを見たいという純粋な好奇心ですかね。好奇心を失ってしまったら、人間ということをやめないといけないと思っている。だから僕にとって冒険とは、人間であるゆえのチャレンジだと思っています」

そしてチャレンジするために必要なこととは、根拠のない自信だと断言する。

「自信をつけろとか、自信を持って、とはよく言われますが、やったことがないから挑戦するわけであって、自信の根拠はどこにもないわけですよ。他人がどう思おうと、"自分にはできる"と、自分のことを信じるとか、根拠がない自信を持つというのは何に挑戦するにしても非常に重要だと思います」

競争社会の中ではとかく何かを始めるとそれがもたらす結果や意義を考えがち。純粋にやってみたい! その心に素直に従えば、今までの自分を超える未知の世界が広がるのかもしれない。




 
 


Biography

おぎた やすなが


1977年生まれ。神奈川県出身。2000年、冒険家大場満郎さんが企画した北極の旅「北磁極をめざす冒険ウォーク」に参加。01年以降、単独で北極への旅を重ねる。13年、講談社より『北極男』を出版。NHKスペシャル(NHK 総合)、地球テレビ エル・ムンド(NHK BS)などをはじめ、テレビ、ラジオ出演多数。15年、3度目の北極点無補給単独徒歩到達へ出発予定。
【荻田泰永北極点事務局】northpoleadventure.jimdo.com
【オフィシャルブログ】www.ogita-exp.com