事件があったその瞬間を映したい
Yoshihiro Nakamura
映画監督 中村義洋(2014年6月6日記事)

土壇場で見せる人間性におもしろさを感じる

とある公園で美人OLが惨殺された。めった刺しにされ、その後火を付けられた不可解な殺人事件を巡り、彼女の同僚に疑惑の目が集まる。彼女の名前は城野美姫。同期入社した被害者の三木典子とは対照的に地味なOLだ。テレビ局でワイドショーを制作するディレクター・赤星雄治が制作した、城野の周辺人物へのインタビューが発端となり、テレビ報道は加熱し、ネットは炎上。果たして彼女は残虐な殺人犯なのか? それとも―。


結末までハラハラさせるサスペンス映画『白ゆき姫殺人事件』を手掛けたのは、ミステリアスな物語を鮮やかに描くことに定評のある中村義洋監督。『告白』などで知られるミステリー作家の湊かなえさん原作の同名小説を多重層サスペンスに作り上げた作品は、今月行なわれるトロント日本映画祭にて北米で初公開される。上映は27日(金)のクロージングナイトに予定されており、会場には中村監督が登場する。

「本当にあった事件が周りの人たちによってどのように報道されていくのかという疑問は、もともと僕の中にあったんです。原作を読んだ時に、自分が描きたいと思っていたことと合致していたことが大きかったですね」とまずは、制作に至ったいきさつを話してくれた。中村監督といえば、伊坂幸太郎さんのベストセラー小説を映画化した『アヒルと鴨のコインロッカー』、『ゴールデンスランバー』などを含め、原作の世界観を見事に映像化する演出力が光る。

「今作品の演出で一番こだわったのは、ワイドショーとTwitterの場面ですね。ワイドショーの場面では映画の中のワンシーンに見えないように、日本人が実際に昼間に見ているワイドショーのようなリアル感を出すように気を使いました。日本では3年くらい前から事件が起こった後、TwitterなどのSNSサイトで情報が広がるという現象が現実に起こっていますよね。原作を読んだ時にも、そこが今っぽいなと感じたので、きちんと再現したかったんです。架空のSNSサイトを作らず、実際のTwitterが画面に出ているんですけど、Twitter Japanから許可が出たのは、本当に助かりました」  

キャスティング選びで一番時間がかかったのは被害者の"美人OL"役だと明かす。


「主演の地味なOL役、井上真央ちゃんは僕の過去の作品『アヒルと鴨のコインロッカー』を気に入ってくれていたようで、前から僕の作品に出たいと思っていたところに、ちょうど今回のオファーがぶつかったそうです。引き受けていただいてラッキーでした。ただ、井上真央ちゃんがかわいいので、彼女に対比してすごい美人という設定人物を選ぶのが大変でした。ハードルが上がっちゃったんですよ。美人OL役の菜々緒さんを選ぶのに1か月くらいかかりました。菜々緒さんに決定した理由は、僕のイメージでは井上真央ちゃんはお嫁さんにしたいタイプの女性、それと対照的な外見を…と考えると、モデルさんかなと思い、彼女を選びました」

過去の作品にも犯罪サスペンスが多い中村監督。事件の渦中で覗かせる人間の性(さが)に興味がそそられるのだという。「実際の事件現場って、後に新聞やテレビで見聞きするものとは違うんだろうと思っているんですよね。事件が起こったその瞬間には加害者と被害者しか立ち会っていないわけですから。その報道されないその瞬間に、何があったのかを映したいと思っているんです。犯罪というのは、何かしら追い詰められて起こるわけですよね。その切迫した場面では、普通はこんな行動はしないだろうということが、土壇場で起きちゃうわけで…。

そういう場面に出て来る人間のおもしろさを描きたいと思っているんですよね」映画少年ではなかったという監督の人生を変えたのは、高校3年生の時にテレビで放映されていた故・伊丹十三監督作品『マルサの女』だ。

「100回くらいは観てると思いますね。台詞も全部覚えました。ちょうど大学受験の頃で、進路もその時点から全く変わりました。それまで、大学の専攻は考古学を考えていたりしたんですけどね。伊丹さんって作品作りの裏側を撮影したメイキングも出しているんですけど、それを見て、映画監督という作り手の仕事について知ったんです。それがきっかけで映画を作る職業にも興味を持ち始めました」

大学入学後は映画研究会に入り、映画制作を開始した。学生時代は「天狗になったり、落ち込んだりの繰り返しだった」と当時を振り返る。

「入学後すぐに、5分くらいの短編作品を作ったんですけど、それが周囲から褒められたんですよね。それで天狗になっていたら、そのうち自主制作の映画賞にひっかからなくなってきて…。褒められたいという気持ちが大きくなっていくと、作品が良くなくなっていくんですよね。相当意識しちゃっていました。その時は"映画を撮りたい!"という気持ちよりも"映画監督になるんだ!"という気持ちの方が大きくなっちゃっていたんでしょうね。そういう時期に、確か、大学の3年か4年生の時だったかと思うんですけれど、ウディ・アレン監督の『ハンナとその姉妹』を観たんですね。その作品からウディ・アレンが本当に映画を撮るのが好きで撮っているんだなということが伝わってきたんです。冒頭からね。それで、僕が間違っていたんだと反省して、そこからまた撮りたいものだけ撮るようになって…。
そして賞を取るとまたさらに受賞したいという気持ちになり、そしてまた褒められるような作品を作る、そういう感じでしたね(笑)」大学卒業後は、崔洋一監督や、平山秀幸監督、伊丹十三監督らの助監督を経て、1999年自主制作映画『ローカルニュース』でデビューを果たす。その後、ヒット作を輩出し続けている中村監督。

学生時代とは異なり、現在追求しているのは芸術性よりもエンターテインメント性だ。


「本当に無心でお客さんのことだけ考えて映画を撮る努力をしているっていう感じですね。お客さんのことしか考えない。もうちょっとこうしたら評論家の人にウケるんだろうなというのは、なんとなく分かるんだけど、そこにいかないようにしています」

かつて中村監督が伊丹監督に憧れたように、中村監督の作品に感銘を受けて映画監督を目指す人も多いはず。そんな若者に向けてアドバイスを伺った。

「好きなものに自信が持てるように日常生活を過ごして欲しいなと思いますね。具体的には映画を鑑賞したり、本を読んだり、エンターテインメントでなくても何でもいいんですけど。今25歳だとしたら25歳なりに自分がおもしろいと思う価値観というものがあると思うんですよ、そこに自信を持って欲しいですね。"これはおもしろい。こういう映画を作りたい"と思って撮り始めますが、進めていくうちに、迷いが出て来るんですよ。一時はあんなに盛り上がってたのに"あれ? これって本当におもしろい?"って。そうすると、褒められる撮り方になっていったりするので、はじめに"これはおもしろい!"と思った瞬間を大事にして欲しいですね。その直感は、自分が25年かけて作り上げてきた価値観。そこがぶれてしまったら意味がないって思うんです」

こちらの質問にざっくばらんに答えてくれた気さくな人柄の中村監督。最後にトロント日本映画祭で監督に会えることを楽しみにしている読者へメッセージをいただいた。

「この作品は、本当に丁寧に作りました。おもしろいものに仕上がったと思っております。笑いながらちょっとうるっとくるものを感じてください。上映後のQ&Aでは何でも答えますので、ぜひ遊びに来てください」

写真は全て『白ゆき姫殺人事件』より

 
 
Biography

なかむら よしひろ

成城大学文芸学部芸術学科卒業。大学在学中より映画研究部に所属し、1993年、ぴあフィルムフェスティバルにて『五月雨厨房』で準グランプリを受賞。『チーム・バチスタの栄光』(2008)、『ジェネラル・ルージュの凱旋』(2009)、『ゴールデンスランバー』(2010)、『ちょんまげぷりん』(2010)などヒット作多数。近年の作品は『ポテチ』(2012)、『みなさん、さようなら』(2013)、『奇跡のリンゴ』(2013)

【『白ゆき姫殺人事件』オフィシャサイト】 www.shirayuki-movie.jp