人々を一つにする太鼓の力
Yoshikazu Fujimoto
「鼓童」太鼓奏者 藤本吉利(2012年4月6日記事)

1981年にベルリン芸術祭でデビュー以来、世界の舞台で活躍する太鼓芸能集団「鼓童」。その中でも最年長の藤本吉利氏が、かつて「鼓童」の研修生だった「永田社中」の永田ゲリー清氏と共演するためトロント入りした。「達人芸」コンサートを前日に控えた3月14日、藤本氏にリハーサルの合間をぬってお話を伺った。

お祭り太鼓好きが高じて、高校時代から本格的に太鼓を始めた藤本吉利氏が「佐渡の國 鬼太鼓座」に誘われて、この世界に入ったのは22歳の時のこと。当時は、太鼓を職業にして食べていくなど考えられない時代だっただけに周囲には大反対されたが、「太鼓を叩いて世界をまわる」という夢に人生を賭けた。

その夢はやがて現実のものになるのだが、それまでの道のりは長かった。特に最初の十年は苦しく、寝袋を携えて片道切符だけで海外ツアーに出ることもあったという。

「無名の我々をサポートしてくれたのは現地の日系人の方々でした。握り飯を差し入れてくださったりね、それはありがたかったです。そして皆さん、私たち以上に日本文化を大切にされている。こちらがハッとさせられることも度々ありました」

ボストンマラソンではフルマラソンを完走後に太鼓パフォーマンスを行なうという荒技もこなした。やがて、「鼓童」を設立、「ワン・アース・ツアー」と銘打った世界ツアーを開始する。藤本氏は近年、ツアー以外にソロでのゲスト出演やワークショップ、研修生指導などを精力的にこなしている。

「太鼓が大好きなので、太鼓を通していろいろな方と出会えるのは本当に楽しいです」

トロントにも公演やワークショップなどで何度も訪れているという藤本氏は、師弟関係にあった永田氏とも来加のたびに一緒に食事をするなど親しく、すでに20年来の付き合いだ。この2人の記念すべき初共演が3月15日、トロント日系文化会館で開催された「達人芸」コンサートで実現した。

「ゲリーさんがトロント諏訪太鼓にいた頃にもワークショップでトロントを訪れたことがありました。今回、僕と同じく太鼓大好き人間の彼と一緒に舞台に立てることになって本当にうれしいです」

「達人芸」コンサートは、総勢8人のコラボレーション。今年、共に花結ツアーでアメリカを回ってきた、包み込むような温かさで歌う藤本容子氏と高い技術を持つ琉球舞踊の金城光枝氏、そして「永田社中」のメンバーが、昨年からインターネットを通して打ち合わせを繰り返し、曲作りを進めてきた。
コンサートでは、「鼓童」サウンドから永田氏のオリジナルまでを披露。バラエティ豊かな演出は、まるでお祭りのようだった。クライマックスはもちろん藤本氏による大太鼓。年齢をまったく感じさせないストイックで強靭な肉体が、大太鼓に向かって躍動する。その姿は巨大な太陽にたった一人で挑む人間の姿に重なった。

「太鼓は、もともとコミュニティの皆が一つになるために使われてきた楽器です。祭り太鼓が人々の絆を深め、神様と人々をつなげ、祈り、喜び、いろいろな思いを表現します。だから、太鼓は全身で打つ。技術だけでなく、気持ちを込めて初めて太鼓になるんです」

すでに46か国、3400回を超える「鼓童」の「ワン・アース・ツアー」は、大劇場だけでなく、学校や異なるジャンルとのコラボなどさまざまなスタイルで続けられている。このツアーはいわば共感共同体。太鼓で気持ちを共有して、一つになることをテーマにしているという。

「太鼓には人々を元気づけたり、楽しませたりする力がある。これからも子どものような無垢な心で、生きているという証しの太鼓を表現していきたいですね」。

  
Biography

ふじもと よしかず

1950年121972年、「佐渡の國鬼太鼓座」に入座。その後、「鼓童」設立。1981年、ベルリン芸術祭でデビューした「鼓童」は日本、北米、ヨーロッパで「ワン・アース・ツアー」を続けているが、その舞台で「大太鼓」や「屋台囃子」などのクライマックスを飾った。現在、ツアーほか、研修生の指導やソロでのゲスト出演、ワークショップなど幅広い活動を行なっている。
鼓童ウェブサイト http://www.kodo.or.jp