Yoshitaka Mori
映画監督 森義隆(2017年9月8日記事)


原作者が生み出した世界の中から
絶対に捕えるべき部分を探すんです


トロント日本映画祭に出品された映画『聖の青春』は、29年という短い生涯のすべてを将棋に賭けた将棋棋士である村山聖さんの生き様を描いた作品だ。大崎善生さんによるノンフィクション小説が原作である同作品の映画化を手がけたのは、映画監督の森義隆さん。過去に『宇宙兄弟』の映画化なども行ってきた森さんは、TV番組などでドキュメンタリー作品の演出を務めてきたという経歴を持つ。『聖の青春』の映画化にあたり、構想から実に8年の年月を経て実現したとのことで、そこに至るまでの道のりと映画に込めた思いになどをうかがった。


―監督の経歴として、そもそもはドキュメンタリーの制作から始められたとのことです。映画制作にシフトしたきっかけを教えていただけますか?
実は、学生時代に趣味で自主映画を作っていました。役者を目指していた時期も少しだけあったことから、演劇の演出も行っていました。卒業後はTVのドキュメンタリー番組をたくさん作っている制作プロダクションに入社したんですね。そこで8年ほど、ドキュメンタリーや情報番組を中心にTV番組を作っていました。2008年に『ひゃくはち』で映画監督のデビューをし、再び映画に挑戦しているという流れですね。

―ドキュメンタリーと映画は制作面においてどのような違いがありますか?
それはもう、全く違いますね。ドキュメンタリーは台本通りにはいかないのが醍醐味でもあります。ですから、常に台本を書き換えていくような作業だと思うんですよ。例えば、インタビューもドキュメンタリーの1つだと言えます。相手の答えが読めないし、会話の流れも読めないところが、面白さであります。逆にドラマは台本が決まっていて物語の結末も見えているので、それを組み立てて再現していく作業になります。ドキュメンタリーにおける台本は、いつでも捨てられる設計図という感じなので、その発想はおそらく映画制作にも影響しているかも知れません。

―『聖の青春』は8年かけてようやく出来上がったとのことですね。これも、作り方としてはドキュメンタリーに近かったのでしょうか?
いや、できればもっと早く撮りたかったんですよ(笑)。やはり、資金集めや脚本を練る作業に時間がかかったんですよね。ただ、8年かかったからこそこういう映画になったと思います。早々とお金を集めて3年で撮っていたら、また違う内容の映画になってたのかなと。例えば、29歳で亡くなる人間の話を30歳の時に撮っていたら、もっと違う視点になっていた。時間がかかったことによって、僕自身の村山聖に対する視点が確実に変化しました。その部分も含めて、映画の根っこの部分にはドキュメンタリー性があると感じています。

松山君が自分を燃やし尽くそう
という思いで乗り込んで来てくれた

―8年間で森さん自身に大きく影響を与えた出来事はありましたか?
1番大きかったのは、子どもが生まれたことですかね。この映画は「死」を扱う映画ですが、僕は死ぬのが本当に怖いタイプだったんですね。絶対死にたくない、誰かを突き落としてでも生き残ってやろうというタイプでした(笑)。それが、子どもが生まれて初めて「この子が死ぬか僕が死ぬかを選べと言われたら、僕が死のう」と思えるようになったんですね。自分が本当に守らなきゃいけない、自分の命よりも優先しなければいけない命が生まれたことがすごく衝撃的でした。「人はこういう風に変わるんだな」と思い、村山聖の親の気持ちも分かった。そういう出来事が、映画に影響したのではと思いますし、8年かかった意義だったりするのかなと。何よりも、時間がかかったからこそ、松山ケンイチ君という役者が現れたと思っています。

―松山ケンイチさんは、どのようなきっかけで配役されたのでしょうか?
何人もの候補が居る中で、松山君自身がこちらに手を上げてくれたんです。彼が自分の中で「俳優としてやりきる役を見つけたい」という時期だったそうです。そんな中で、いろんな原作を漁って役を探していたらしいんですね。彼が『聖の青春』の原作に行き当たり、「これを映画化したい!」と原作サイドに聞いたら「ある人たちが動いてるよ」と聞いたらしく。それで、松山君からこちらに申し出が来たんです。こちらからオファーする前に、向こうから来たという、ちょっと運命的な出会いだったような気がします。

―そういうことは、良くあることなんですか?
なかなか無いですね。お互い知らないで動いていたのが、タイミング良く一致したという。村山聖役をこちらから選んでいたら、こういう映画にはならなかったと思います。松山君が自分を燃やし尽くそうという思いで乗り込んで来てくれたことが、映画にすごく大きな影響を与えたんじゃないかな。

―今回、ノンフィクション小説の実写化にあたってどのような工夫を凝らしましたか?
今回の場合は、村山聖以外の登場人物が全員存命で、村山聖だけが居なかった。ですから、村山聖以外の全員に会って、とにかく取材をしましたね。取材をしたものをそのまま描くのではなく、ヒントを得て作品の中に込めていきました。村山聖に対する印象は、全員違うんですよね。「どんな人だったのか?」にかかる答えが異なり、そこが彼の面白いところでした。それから、原作をどう縮めようかと考えるのではなく、原作者が生み出した世界の中から、絶対に捕えるべき部分を探しました。作家自身が潜り込んで探したテーマをもう一回探す。それができれば、作家を裏切ることにはならないのではと思いました。汲み取ったふりをするのではなく、本当に見つかるまで探すんです。作家が努力して探し当てたテーマを、なんとなく探したつもりでいるのはダメなんです。

―では、映画監督として幸せを感じる瞬間とは?
お客さんが作品から少しでも人生のヒントや影響を受けてくれたり、映画を見ている時間がその人にとって大事だったということが伝わってくると、すごく嬉しいです。

―それは、TVのドキュメンタリー番組を作っていた頃から変わりませんか?
TVの制作では掴めなかった幸せなんですよね。TVはお客さんの顔が全く見えない作業だから、映画にシフトしたということもあります。今回もトロント日本映画祭の会場で直接お客さんの顔を見ることができます。お客さんからの反応が伝わってくることが、映画を作る原動力になっていると思いますね。






 

Toronto Japanese Film Festival
第六回トロント日本映画祭

聖の青春
Satoshi -A Move for Tomorrow-
©2016 2016 “Satoshi no Seishun” Film Partners


監督:森義隆
上映時間:117分
出演:松山ケンイチ、東出昌大、リリー・フランキー ほか





Biography

もり よしたか
映画監督。TV番組やCM、演劇などでも演出を手がける。2008年に『ひゃくはち』でデビューをしヨコハマ映画祭新人監督賞を受賞。2012年には『宇宙兄弟』がプチョン国際ファンタスティック映画祭でグランプリと観客賞をダブル受賞した。