オンタリオワインの魅力
Yuuji Nagaoka
ソムリエ 長岡裕司 (2015年8月21日記事)
今号のトピックスにてオンタリオの2大ワイン産地、ナイアガラとプリンス・エドワード・カウンティのワイナリーからおすすめの1本を選んでいただいた長岡裕司さん。Biff's Bistroにてソムリエを担当し、世界中のワインに精通している長岡さんにオンタリオ州が誇るワインの産地、ナイアガラとプリンス・エドワード・カウンティのワインの特徴や魅力について伺った。

—まず、カナダのワインの特徴を教えてください
「カナダのワインは、気候、地質を含めて、フランスのブルゴーニュ、シャンパーニュに近い特性があります。 カリフォルニアやオーストラリア、アルゼンチンなど温暖な気候のワインとは全く特性が異なります。ですので、例え品種が同じであっても“カリフォルニアのカベルネが好き”という人が、カナダのカベルネを飲んだとすれば、思っていた味と違ってがっかりすると思います。その違いは同じ果物であっても全く味の違うリンゴとオレンジくらいの差があります。リンゴだと思って食べたら、オレンジの味がした…となれば、それは美味しくないって感じますよね。フランス産のワインが好みの人は、カナダのワインは似ていながら、フランスワインにはない個性も持ち合わせているので、いい驚きがあると思います」

—オンタリオ州で一番大きなワインの産地、ナイアガラのワイナリーの特徴を教えてください
「カナダの2大ワイン産地として、ブリティッシュ・コロンビア州(以下BC州)とオンタリオ州が挙げられますが、BC州のワイン産地は南北に約130キロ続いています。それに比べてナイアガラのワイン産地は横に長く続いています。BC州のように南北に130キロほどの距離というと、南と北では緯度も違ってきます。その結果、南の方では赤ワイン用のブドウ種が採れますし、 北の方では白ワイン用のブドウ種が採れます。よく言えば、白も赤も両方美味しい。ナイアガラは白は安定して美味しいと言われていますが、赤は当たり年とそうじゃない年があります。それには気温が影響していて、すごく暑い年はカベルネが美味しい。そうじゃない時は、他のワインの方が良かったりと、美味しくできるワインが毎年違ったりします。フランスやイタリアのワインの場合は、“今年は当たり年だ!”と大々的に発表されますよね。ナイアガラの赤ワインにもそういう年はあります。また、ナイアガラのワイナリーの特徴は、いろんな種類のワインを作っていることですね。1つのワイナリーで20種類くらい作っているところもあったりします」

—1つのワイナリーで多品種を作るのは何か理由があるのですか?
「その年の気候により美味しくできるブドウ種が変わってしまうから、いろいろ作っておけばダメージが少ないというのがワイナリーの経営事情として、あります。ただ、この2年間、冬がすごく寒かったので、ブドウの木がたくさん死んでしまいました。新たな木を植える際には、“寒さに強い品種”を選んで植えるようになりますので、今後、種類は減っていき、寒い気候に適した品種を作るようになっていくと思います。 ワイナリーとしてはダメージですが、ナイアガラ全体のワイン作りとして見た場合、土壌を生かした品種にどんどん集中して作ることになっていくのは、いい傾向ではありますよ。フランスのブドウ畑では、1800年代後半にフィロキセラ(ブドウ根アブラムシ)という害虫が大発生したことがありました。その後、土地に合ったものを植えたことにより、得意なワインがでてきたという歴史があります。ナイアガラもそういう時期にきているのかもしれないですね」



―ナイアガラに次ぐオンタリオ州のワイン産地プリンス・エドワード・カウンティは急成長中のワイン産地ですよね
「プリンス・エドワード・カウンティ(以下PEC)でワイン作りがさかんになったのはここ10年くらいです。PECの地質はライムストーンと呼ばれるワイン作りに適した水はけのいい石灰岩です。フランスと同じく、雨の多い地域では、水はけの良い土壌が質の良いブドウ作りの要になります。水分が少ない方が濃縮された、味の濃い、美味しいブドウができるんです。また、水はけがいい土壌だと、ブドウの木の根が水分を求めて下に伸び、地層によって異なるいろんな成分を吸収して美味しくなるという説もあります。ナイアガラとPECのワインを比べると、ナイアガラのワインの方が濃縮感では勝ると思うんです。ワインに最適なブドウの木の樹齢は、30〜50年。ナイアガラは約30年の歴史がありますが、PECの樹齢はまだ10年ほど。PECはわずか10年ほどという若い樹齢なのに、これほどまでに美味しい。これが30年だと…という期待もこめて、評価が高いのだと思いますね」

―それでは最後にオンタリオのワインを楽しむコツを教えてください
「カナダのワイン、というと真っ先に思い浮かぶのがアイスワインですが、まず、アイスワインから離れること。それが第1です。オンタリオのワインは全般的にさっぱりしているので夏向きです。特に、シャルドネ、ピノ・ノワール、スパークリングを飲んでみてください。 繊細であっさりしていてクセがないです。ソムリエの間ではオンタリオワインの持つ繊細な味わいはすごく好まれるんですよ。ガツンとした強い味ではないですが、よく味わうと深みがあるという、例えるなら日本食の出汁のような感じですね。出汁文化のある日本人はその味わいが楽しめると思います。オンタリオには、トピックスで取り上げた以外にも趣の異なるワイナリーがたくさんあるので、ぜひ実際に行ってみていろいろ楽しんで欲しいですね」


 
 


Biography

ながおか ゆうじ

2005年Oliver & Bonacini Restaurantsに入社。Canoe、Auberge du Pommierなど同グループレストランでの経験を積み、15年よりBiff's Bistroにてソムリエを担当。イギリスを拠点にしている世界最大のワインの教育機関WSET(Wine & Spirit Education Trust)のディプロマ 試験に向けて勉強中。 弊誌にて「ワインをちょっと感じる暮らし」連載コラムを開始。