600時間の世界観
スタイリッシュでスリリング、そしてとことんエンターテインメント
Katsuhito Ishii
石井 克人(2012年1月6日記事)
「トロントに来るのは『鮫肌男と 桃尻女』(99年)以来。だから約10年ぶりなんですよね。その時も”ミッドナイトマッドネス“での上映だったんだけど、夜、街をぶらぶらしていた記憶しかありません…」
『月間アフタヌーン』(講談社)に掲載されていた真鍋昌平氏による漫画『スマグラー』を実写映画化した『スマグラーおまえの未来を運べ』が第36回トロント国際映画祭の正式招待作品に選ばれ、そのスクリーニングのために来加した石井克人監督は、にこやかにトロントを訪れた感想を話してくれた。
「以前トロントに来た時は、CNタワーでしたっけ? 登ったんですよ。それで、そこにあるバーみたいなところで飲んでいたら、店の一角にいた男女の集団がだんだん全裸に…(笑)。誰も止めないうちにフロアで女の子が相撲をし始めて、そこでやっとお店の人が止めに入ったということがありました。そんな印象があったんですが、(笑)、今回街を歩いてみて、トロントはお洒落になったな、と思いましたね」
驚きのエピソードとともに始まった今回のインタビュー。石井監督は自身の作品のようにテンポよく、そして所々に笑 いを散りばめながら質問に答えてくれた。

インタビュアー(以下、イ) 「石井監督は映画監督業だけでなく、さまざまな映像作品を手がけていらっしゃいますね。普段は何をされているんですか?」

石井監督(以下、石) 「普段は、コマーシャルなどの仕事をしています。他には、今は、アニメで短編の作品を作ったり指定しています。あとは、散歩してるくらいです(笑)」

「コマーシャルなどのように依頼主がいるお仕事と、ご自身の映画作りではやはり映画作りのほうが面白いんでしょうか?」

「どちらもそこそこストレスはありまけど、(CMと映画作りは性質の違うストレスなのでCMと映画の)両方をやって分かち合う、みたいなところがありますね」

「よく言われることですが、日本映画は未だに低予算なんでしょうか?」

「低予算ですよ。単館上映の『茶の味』 (04)と全国(上映)の『スマグラー』が同じような予算ですからね」

「この前、中国からいらした監督さんと話す機会があったんですけど、彼の作品はちょっと予算多めで10億っていわれました」

「日本円?」
「いえ、アメリカドル」
石・イ(苦笑)
「予算が少ないことは足かせになりますよね」

「なりますよ! これだけ予算がないとスケジュール的にもきつくなって1か月で撮らなきゃいけない。30日間、一日20時間、600時間働いてやっと出来上がった作品です(笑)。それに、今回は特撮が結構ありましたから、特撮で2週間、ドラマで2週間。20時間働いて、残りの4時間の中で家に帰って休んだりするんだけど、照明さんとかアシスタントの子なんかだと、21時間労働。『いったい君たちは、いつ寝てんだ?』というスケジュールでしたね。よく、『撮影が終わったから飲みにいくか』っていうのがあるじゃないですか?今回に関しては全くない(笑)」

「特撮ではスピーディな場面をわざとスローに映すことで、殺し屋の”背骨“のパンチのすごさとかが逆によく伝わってきました」

「”背骨“役の安藤(安藤政信)君は、全身ペイントだから、誰よりも早く来ていましたよ。作品中に”背骨“と”内臓“が喧嘩をするシーンがあるんですが、そこは3日間かけて撮りました。実は、その初日に安藤君があばら骨を折っちゃったんですよね。だけど、裸でいなきゃいけない役だから保護できないじゃないですか。我慢してやってもらいました… 彼が言わなかったんですけどね。言ったら撮影が止まっちゃうからね」

「それはきっと、大変でしたよね。他の役者さんたちはどんな人柄なのですか」

「そうですね、妻夫木(聡)さんは、役(砧涼介)だけを見るとダメな青年みたいですが、実際はすごくしっかりしていていますね。例えば、撮影中に取材が入ったときに仕切るのは彼です。今、こうこう、こういう撮影をしているという状況とかを説明して、司会みたいな役をやってくれるんですよ。永瀬(正敏)さんとかは、そういう場になると黙っちゃう(笑)。
 あと、松雪(泰子)さんは”月9“の主役をやりながら、『スマグラー』に出てくれたんですよ。『無理しなくてもいいですよ』って言ったんですけど(笑)。(松雪さんとの仕事は)初めてだったので、厳しい女優さんなのかな、と思っていたんですが、全然、そんな感じはありませんでした。変なメイクをしてもOKだったり、鼻血もOKだったり、なんだ、意外とOKじゃないか…って(笑)。ああいうの(コミカルな役)が好きだったりするのかも知れませんね」

「タイトなスケジュールの中でも、今回撮りたかったものを撮ることは出来ましたか?」

「今回、マニアックな人じゃなくても楽しめるようなアクション映画を撮ってみたいな、と思ったんです。アクションシーンって撮ったことなかったんですよね。だから、今回はアニメと実写の中間みたい感覚で撮ってみたかったんです。でも、とにかく時間がなかったので、後で編集でどうにかした、というところもありました。ここはカット、ここもカット… という感じで、割とCMを作ってる感覚で編集しましたね。拷問シーンがあって、それが長いんじゃないか、っていう声もあったようですが、まあ、映画だからいいじゃん(笑)、と思ってます。自分の中でも決着は付いていませんが…」

「映画監督さんって、自分の作品でも100点満点だということはなかなかない、ってよく聞きますが?」

「ないですね。100点だ、って言えることは今までない。大体、60点を超えたら合格か、って思っています」

「最後に、監督にとって映画を作ることっていうのはどんなことですか?」

「生活の一部… に、したいことです。出来れば、ずっと映像に関わっていたいですね」

今回のトロント国際映画祭出品作の中で、良かった作品は『コクリコ坂から』だという石井監督。「ああいう作品は結構好きです」という石井監督に初めは意外だと思ったが、考えてみれば、緩急のバランスを取ってその独特の世界観を作り続け、振り幅が広い石井監督らしい答えなのだろう。
Biography

いしい かつひと
新潟出身。映画監督、アニメーション監 督、CM ディレクター。武蔵野美術大学卒。 東北新社でCM ディレクターを勤めた後、 2000 年に退社。クエンティン・タランティー ノ監督のファンとして知られ、同監督作 品『キル・ビル Vol.1』でアニメを担当す る。 映画作品に第14 回高崎映画祭若手 監督グランプリを受賞した『鮫肌男と桃尻 女』(99)、カンヌ映画祭監督週間オープニ ング作品に選ばれたほかアントレヴュ国際 映画祭最優秀外国語映画賞・観客賞など 数々の映画祭で高く評価された『茶の味』 (04)などがある。