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日本で育ったジャパニメーションその原点に自信を持って
原 恵一
アニメーション監督 (2011年11月18日記事)
世界中の老若男女に親しまれている日本のアニメーション。それらの作品の作者名やキャラクターはよく知っているが、その作品の監督名を知っている人はどれだけいるだろうか。思えば実写映画の監督さんと異なり、アニメーション作品の監督・演出家の方々の姿を見る機会は意外に少ない。
今年秋にジャパンファウンデーション・トロントで開催されたアニメ・ディレクターズ・トーク&上映会には、アニメーション監督と直接言葉を交わせる稀な機会を逃すまいと、人種を問わず、多くの人が参加し、賑わいを見せた。このイベントに招かれたのは原恵一監督。テレビや映画で人気のアニメ作品『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』などに携わり、劇場公開されたアニメーション作品『河童のクゥと夏休み』、森絵都の小説をアニメーション映画化した『カラフル』で毎日映画コンクール アニメーション映画賞や日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞など、数々を受賞しているアニメーション監督だ。

「今回のカナダ訪問は、バンクーバーから始まって昨日の夜にトロントに着いて、明日はモントリオール、その後オタワの国際アニメーション映画祭に参加して(日本に)帰ります」

原監督の最新作『カラフル』は同映画祭の長編コンペティション部門の上映作品として選ばれ、今回は、その結果を見つつの訪加だという。『カラフル』は、既に第4回ソウル国際家族映像祝祭 外国映画部門観客賞、アヌシー国際アニメーション映画祭長編作品特別賞&観客賞を受賞するなど、日本国内だけでなく、海外でも評価されている作品だ。

「普段フェスティバルを廻ることはあまりないですが、アヌシーは足を伸ばしました。小さい町なんですが、町中にフェスティバルの雰囲気が溢れていて… 結構、各国から人が訪れている感じでしたよ。『カラフル』に関しては、原作自体がすごく魅力のある、知名度のある作品だったので、なるべくこの原作の雰囲気を壊さずに作らなければ大丈夫だろう、と思っていました。もちん、アニメーション版のオリジナルエピソードっていうのもありますけどね。今回、こちら(ジャパンファウンデーション・トロント)で上映してもらう作品は、実は、最初は作れなくてもしょうがないと思っていたんですね」

ジャパンファウンデーション・トロントのイベントで上映された作品は07年に劇場公開された『河童のクゥと夏休み』。文部科学省特別選定作品、そして日本PTA全国協議会特別推薦作品に選ばれた秀作だ。

  「この作品って、なかなか賛同してくれる人がいない作品だと思うんですよ。原作の知名度ということもあるんですが、もの凄いファンタジー寄りの作品をつくろうとは思ってなかったんですね。題材として河童という存在がありますけど、それすらも、今、アニメを作る、つまり、お金を出す存在の人からしてみれば、魅力を感じない存在みたいなんですよ。僕は誰でも知っている河童っていう存在が面白いと思ったんですが、その案を見た人は”… 河童かよ…“ってね(笑)。そんな反応をする人が多くて、作れそうで作れなかった期間が長いんですよ」日本のアニメーションの特長として現実とファンタジーをうまく混ぜ合わせているところ、と言われることがあるが、確かに、原監督の作品には普通の小学生などが登場し、舞台も実在の場所だ。「なんかね、いかにもアニメーションっていう作品にはあんまり興味がないんですよね。周りに似た作品がないものを作りたいな、とは思っているので…。自分でも不思議な感覚になるんですけど、自分の作品を作っているうちにアニメを作っているような気持ちじゃなくなるんですよ。頭の中だと実写の映画を撮っている感覚なんですよ。だから、”アニメだとこれは無理だ“とか、”アニメはこういうことが得意だから“っていうことはあんまり考えないで作っています。…演出によって見せられればいいと思っているんですよね。アニメだろうが実写だろうが、演出が稚拙な作品はどちらにしても稚拙な作品になる。いくらアニメで情報量がシンプルだとしても、演出がちゃんとしていれば、実写と同じように人の感情を動かしたりできると思うんです」

アニメにも”映像作品“としての完成度を求めている原監督。そんな思いで温め、長い期間かけて監督の中で育て、作り上げた『河童のクゥと夏休み』は大きな映画賞を受賞するなど、高い評価を受ける。

「(映画が完成して)達成感はもちろんありましたが、自分の中で長い間、自分の心のすごく大きなところを占めていたものを、形として出してしまったことが理由だと思うんですけど… もの凄い喪失感でした。『河童~』だけはとにかく作りたかったんですよね、ずっと。その先のことはあんまり考えていなかったんです。それくらい、僕は自分の仕事の上の夢だと思っ いたんです。だから、『河童~』が作れた、もう後はどうでもいいや(笑)みたいな気持ちがありました。実際、人間、そうはいかないですけどね」

そのため、これからの作品の構想は『まだない』と言う原監督。昨今では、日本のアニメーションの影響を受けた作品が海外で多く生産されている。そのような中で監督は、今の日本のアニメーション界について、どのような意見をお持ちなのだろうか。

「日本では、こうやって世界でマンガとかアニメが注目されるようになって、海外のことを考えて作るようになったりしているんですよ。でも、僕はそういうことはあんまりしないほうが良いような気がしています。やっぱり、日本という文化の中で独特の進化をした結果が今日、外国の人から他に似たもののない、ジャパニメーションと呼ばれるものが出来た理由だと思うからです。それなのに、世界的に受けるような作品作り、ということを掲げて作り始めると、日本のアニメの特色っていうのはどんどんなくなってしまうと思うんです。だから僕は、そういう考え方をしたくない。もちろん、韓国とか中国とか、日本のアニメーションに似た作品の自国生産を始めています。まだまだ日本のアニメの真似って言う感じもありますが、そこから注目される作品が出てくるかも知れませんね。だからといって、それをまた日本のアニメーションが真似する必要もないと思います」

信念を曲げず、今持っているもの、信じているものを追求する。一見マイペースにも見えるその表情からは計り知れない強さと自信が、日本のアニメーション界を牽引する原監督の力となっているのだろう。  

Biography

はら けいいち
1959年、群馬県生まれ。東京デザイナー学 院卒業後、CM 制作会社に入社。その後、 シンエイ動画に入社しアニメーション作品 に関わるようになる。これまでに『ドラえ もん』『エスパー魔美』『クレヨンしんちゃ ん』などの演出を手掛ける。07 年にフリー ランスとなってからは劇場用アニメーショ ン映画『河童のクゥと夏休み』(07 年、 英題:Summer Days with Coo)、『カラフ ル』(10 年)を発表。それぞれ第31 回、 第34 回日本アカデミー賞優秀アニメー ション作品賞に輝くなど、各方面から高く 評価されている。