文化を仲介する
キュレーターという職業
Mami Kataoka
森美術館チーフ・キュレ-ター 片岡真実(2013年4月19日記事)

アート界のみならず、
あらゆる世界で必要とされる文化の架け橋

来る8月、アジアを代表する現代美術家、アイ・ウェイウェイ(中国の現代美術家)の個展がオンタリオ美術館にて開催される。
アート界ではこれまでも非欧米圏からスターが誕生してきたが、近年の中国や韓国、インドをはじめとする東アジアの経済新興国の急激な発展を背景に、コンテンポラリー・アートの潮流がこれまでにないスケールでアジアに拡大してきている。それに先立って行なわれた、展覧会のキュレーターである片岡真実氏(東京・六本木の森美術館)の講演会には、アジア現代アートの現状をアップデートすべく大勢のアート関係者やファンが詰めかけた。いま世界の眼がアジアに向く中で、欧米との文化的差異を埋める「仲介者」として、キュレーターという存在に注目が集まっている。

― キュレーターというのはそもそもどういうお仕事なんでしょう。展覧会の企画、立案をしてアーティストを選定するというのは知られていますが、片岡さん の仕事の範囲は、そこからどこまで広がるのでしょう?

「シンプルに言えば、 作品を集めて展覧会をつくるということなので、言うなれば誰にでも出来る仕事だと思います。ただ、それをどういう位置づけ、基準で行なうかによって、展覧会が誰のために向けられたものであるのかが変わります。例えば日本のアートをカナダのオーディエンスに紹介する場合、そこには確実に作家のやっていることとオーディエンスの知識に開きがあり、その文化的差異をどういう風に仲介者として繋ぐことができるかを考えなければなりません。ですから展覧会の役割や、オー ディエンスの種類、何をどこに伝えるかによってキュレーターの役割というのは大きく幅がでてくると思います」

― 仲介者という言葉がありましたが、アジアの芸術を欧米に紹介する際に、やはりアジア人のキュレーターが最も適した仲介者であると考えますか?

「それはそんなにシンプルではありません。通訳みたいなもので、アジアの文脈と西洋人の知識や体験を繋げるためには、 両方の(文化的)言語を分かってないといけないのです。そういう意味では西洋人でもアジアの文化に精通している人には出来ると思いますし、決してアジア人でなければいけないというわけではないと思います」

― 例えば日本のアーティストを紹介するときに、一番難しいハードルは何でしょうか?

「両義的なもの、もしくは多義的な複数の価値が、同時に存在し得るということを理解してもらうのが、もしかしたら一番困難かもしれないですね。日本を含めアジアは多神教の文化なので、異なる宗教が同時に存在していても大丈夫なわけです。それはかなり受容的な文化なので、アジアではこれまでほとんど宗教戦争というのは起こったことがないですね。それが中東を経ていくと、一神教の国々では一つの信条や価値観しか認めないので宗教戦争みたいなものが起こってしまうことがあります。例えば西洋ではアイ・ウェイウェイが美術の活動をしながらポリティカルな活動をしているのを、どこで線引きをしているのかという質問をよくされますが、本人としては自分の中で線引きしているつもりはなくて、全て自分という一人の人間の中で起こっていることなのです。
ところが合理的、論理的に分析していくことを是であるとした近代の西洋では、それを理解するのがなかなか難しいのですね」

最初の巡回館である米コロンビア特別区ワシントンのハーシュホーン美術館で開催された『アイ・ウェイウェイ展』の様子

Snake Ceiling
Ai Weiwei, Snake Ceiling, 2009.
Installation view of Ai Weiwei:According to What?
at the Hirshhorn Museum and Sculpture Garden, Washington D.C., 2012.
Photo:Cathy Carver.


― 片岡さんは、キュレーターに成ろうとして成ったのですか、それとも気付いたら成っていたのですか?

「どちらかと言うと、気付いたら成っていたに近いかもしれませんね。アーティストになるのと同じで、別にそうであるとディクレア(宣言)すれば、 誰にでもできると思います」

― もともと仲介者としての部分に、喜びを感じるタイプだったんでしょうか?

「たぶん、全ての場面でそれなりに必要に迫られて行動した結果でしょうね。この10年間で欧米の大学機関を含めてキュレーターのためのコースがすごく増えていますが、10年前はキュレーターをプロフェッショナルとして育てる機関がほとんどありませんでした。90年代以降に現代美術がグローバルに広がり、そこでアジアや日本、中国の美術といったものをインターナショナルなオーディエンスに伝えなければいけなくなった。その時に、英語もできて、西洋の言語もある程度理解した上で、アジアの歴史、文化、社会などを文脈付けて説明していく仲介者が必要になったということですね。私はたまたまそういう状況に継続的に出くわし、その回答を出さなければいけなかったので、それを繰り返し、蓄積している、今もまだ途中の段階ということになりますかね」

― このキュレーターという職業を他に置き換えるとしたら何が近いでしょう?

「通訳のようでもあるし、宗教家のようでもあるし、企業のマーケティング&コミュニケーションのディレクターのようでもあるし、心理学者のようでもあるし社会学者のようでもあるし、私立探偵のようでもあるし(笑)、シェフのようでもあるし、色んなものに似てるなと」

― シェフになってたかも知れないんですね(笑)

「私は今でもシェフに転向したいと思ってます。ははは。料理はプロのレベルではないですけど、ものづくりのプロセスとしては似てるところがあるなと思っています。もちろん展覧会をつくるほど社会批判をするわけではないので、もうちょっと美的なセンスのところで、もしくは文化的全般という意味でCuisine というのは面白いなと思います」

今やキュレーターという職業は、アート界のみならず、世界で行なわれるシンポジウムや、地域と地域とを結ぶ場面など、社会にとって必要不可欠な存在となっている。このインタビューの後に行なわれた講演会のQ&Aでも、熱心なカナダ人による質問が相次いだ。その全てに対して英語で、アジアの視点を明確に述べる片岡氏は、まさにアジアと欧米文化を結ぶ架け橋であり、仲介者であった。 

※「アイ・ウェイウェイ展― 何に因って?」は8月17日(土)〜10月27日(日)までオンタリオ美術館で開催予定。

 
 


Biography

かたおか まみ

民間シンクタンクで文化政策・都市開発と芸術文化プロジェクトに関する調査研究を行った後、1997 年から東京オペラシティアートギャラリーにてチーフ・キュレター。2003 年より森美術館。07 年から2 年間、ヘイワード・ギャラリー(英ロンドン)でインターナショナル・キュレーター兼務。09 年に手掛けた「アイ・ウェイウェイ展」が北米の美術館5館を巡回中。今年8 月にトロントへ。12 年の「 会田誠展」(森美術館)は国内外で大きな話題となった。