道具としての陶器
Yasuki Sakamoto
陶磁器デザイナー 阪本やすき(2013年4月5日記事)

華美にならず、モダンで使いやすく
人々の生活に寄り添う食器を…

長崎県の波佐見(はさみ)町。波佐見焼の産地として知られる谷あいの美しい町、と阪本やすきさんは語る。阪本さんはその波佐見の地に本社を構える白山陶器で活躍する陶磁器デザイナー。

白山陶器は戦後の日本のセラミックシーンを牽引した森正洋氏を顧問デザイナーとして擁し、"時代を超えてスタンダードとなる"商品を多く世に送り出している会社だ。今回は、2005年に逝去された森氏の後継者として、現代のライフスタイルに合わせた新しい定番となりうる器を作り続ける阪本さんにお話を伺った。

ジャパンファウンデーション・トロントで開催されている『Ceramics for Daily Comfort 』展にずらりと並んだ白を基調にした陶磁器。展示の際によく見かける作品の周りを囲うロープやプラスチックケースが外されているもの、実際に手に取って使い勝手を確かめることさえできる展示品もある。

「美術工芸品ではないので、手にとってもらって大丈夫ですよ。僕と、富永和弘(白山陶器デザイナー)の作品です。どれが誰のデザインか、分かりますか?
お客さんによっては直ぐに分かる人もいるんですよ(笑)。
会社名が『白山』と言うように、これらの陶磁器の原料となるのは天草陶石(あまくさとうせき)です。もともとは石なんですが、それを砕石する山が日を浴びて白く輝いている様子を先々代の窯主が見て『白山』と名づけられました。天草の良質な磁器素材を生(き)のままで焼き上げた、本当に魅力的な白磁です。少し青みを帯びているのが東洋的でしょ? その(陶石の)魅力を前面に出したいので白が基調になっています」
すこし関西の訛りが入った、温かな語り口の阪本さん。大阪出身だというが、現在はもちろん、白山陶器の本社がある長崎県波佐見町在住だ。
「波佐見は焼き物の町です。日本でも各地にありますよね。瀬戸、多治見、四日市とかね、そういうところに共通しているものがあるんです。昔は当然、火力が焼き物に欠かせないので、木があること、ですよね。また、窯は登り窯が中心となっていますから、ある程度傾斜地になっていることが大事です。それから、粘土を扱ったり水車を回したりする為に水の流れが必要になってきます。木があって、傾斜地があって、川がある、となると、どうしても谷あいの町になります。だから、どの(陶磁器の)産地も、発祥の地に行くと同じ地形になっているんですよ。
波佐見の町もそうです。大量生産の陶磁器を作る会社はいくつかありますが、白山陶器が他との差別化を図るために力を入れたのがデザイン。

僕が学生時代に勉強してたのは(陶磁器ではなく)工業デザインなんですけどね…。車やら電気製品などのデザインを手掛けることなんですが、課題をこなしながら思ったのは、最終的な現物を(自分の手で)作ることは無理だということ。技術関係や営業のほうと折衝しながら、いろんな社内的なニーズを込めて製品化のイメージを作り上げていくんですが、最終的なモノには自分達の責任や思いは届かない。プロセスが複雑で時間がかかる。まどろっこしいと思いました。そんな時、たまたまクラブ活動で陶磁器に触れたんです。最初は興味半分、面白半分だったんですが、ロクロなんかをひかせてもらいに行くようになり、磁器という素材そのものに惚れ込みました。この素材を、勉強してるプロダクティブな環境で扱える仕事はないか、ってことで、当時、大学で特別講師としていらし ていた先生に森正洋先生のことを教えてもらいました」

その後、東京の百貨店で『グッドデザイン賞』に輝いた作品に出会う。

「展示作品に自分に強烈なメッセージを発しているグループの食器があったんです。それが気になって売り場の方にメーカーの所在地を聞いたら『長崎だ』と…」 白山陶器の森氏の作品だった。そこで、同氏宛てに熱烈な手紙を書き、とうとう、対面することになる。
「初めてお会いした森先生は、表情は熊みたいだし、アグレッシブな感じでしたね(笑)。現場を大切にされる方で、Tシャツを着てショートパンツを穿いて、度数 の高いめがねを掛けて、ぼさぼさ頭で来られたのでびっくり仰天しました」
森氏の『現場を大切にする』姿は、しっかりと受け継がれ、デザイナーである阪本さんも、新製品を作る時にはデザインを起こしてから窯焼き、そして使用感までを自分の手で確かめるという。
「工場から出て行く製品には責任を持ちたいんです。きちっとした品質のものを送り出したい。(最初の)モデルを作った時の自分の思いがちゃんと量産路線に反映されているかは大事なことなんです。そのために、デザイナー自身がプロトタイプを焼き上げまで作ります。型を抜いて、粘土を入れて、釉薬を掛けて、釜に入れて…。焼きあがったものは持ち帰って自分でモニタリングします。先ほど工業デザインの仕事はまどろっこしい、と申し上げましたが、焼き物の場合は実際に作られるプロトタイプが自分の手元で出来る。その即効性が堪らなくなりました。しかも、森正洋という凄い巨人のも勉強できた。真摯にデザインというものに向き合っていらしゃった実績のある方なので、一緒に出来たのは非常にありがたかったと思います」



そんな想いで送り出した製品は、大衆の手元に渡るが、同じ九州の有田焼などに比べると、量産製品は劣るもの、と思われがちではないだろうか?

「そういうところにジレンマはないです。すさんだ生活をしていながら車だけは凄いもの、とか、使っているものや内装は安っぽいものだけど住まいの外観だけは立派、ということって現実的にありますよね。でも、そういう状況は寂しいよね。努力を重ねてそこそこの暮らしを手に入れた人が、より豊かな生活のために、大事な食事に使う食器類から充実させていく…。それを自分なりに作り上げて社会に提供したい。だから、自分で最初から製品を作ることが大切なんです。みんなに使ってもらいたいと言うのに金額が高くて手が届かない、では本末転倒。あとは、工程で不良品がなるべく出ないようにします。手間が掛かりすぎたり、不良品が多く出来てしまうようなデザインだと、それが金額に跳ね返ってしまいますから」

しかし阪本さんは、器はあくまでも食卓を彩る脇役だという。

「やっぱり、食卓の主役はお料理ですから。でも、あんまり味気ないものでも…っていうことで、レリーフやちょっとした色を入れています。彩りはこれからの課題でもありますね。森先生の平茶わん、あれは料理を引き立たせながらも凄くカラフルで画期的です。そう考えると、まだまだ僕は、何にもできていないと思いますね」。 



Ceramics for Daily Comfort: Design Exhibition
by Yasuki Sakamoto and Kazuhiro Tominaga
日 時:開催中~ 4月24日(水)
場 所:ジャパンファウンデーション・トロント( 131 Bloor St. W., 2F )
連絡先:416-966-1600 内線)229
サイト:www.jftor.org



 
 


Biography

さかもと やすき

大阪府出身。1971年、金沢美術工芸大学卒業、白山陶器株式会社デザイン室入社。83年の陶磁器デザインコンペティション金賞、89年陶磁器デザインコンペティションでグランプリなど受賞多数。日本デザイン振興会主催のグッドデザイン賞の常連で、作品には「グレビーポット」(01 年、特別賞・ロングライフデザイン賞)、「シングルス・ミストホワイトシリーズ」「リーヴズシリーズ」(各05)、「ティー土瓶・ゆのみ猪口・陶茶托」(08)、「茶和/急須」「ターマ」(各09)、「COMMO」(10)、「TIMES」(11)がある。