浮世絵60点とROM所蔵の日本美術コレクションを大公開!
第三のジェンダー
浮世絵に見る若衆
(2016年5月6日記事)
A Third Gender : Beautiful Youths in Japanese Prints

Hawking Party in Front of Mount Fuji Kitagawa Utamaro (1753–1806) ca. 1790 Sir Edmund Walker Collection

5月7日(土)からロイヤル・オンタリオ博物館 (ROM)にて特別展「A Third Gender : Beautiful Youths in Japanese Prints(第三のジェンダー:浮世絵に見る若衆)」が開催される。若衆(わかしゅ)とは原服前の若い男性のこと。生まれ持った性別や個人の選択でもなく、年齢や社会的階層、また見た目も含まれていたという、複雑なジェンダー構造であったとされる江戸時代。成人男性や女性とは異なる“第三のジェンダー”として存在した若衆は、当時、男女両者を魅了する性的な魅力を放っていたという。この特別展は、江戸時代の若衆に焦点を当てたジェンダーの考察をテーマとしており、若衆を描いた浮世絵、さらに当時を偲ばせる美術品などが紹介される。

4つのセクションに分けて展示

特別展は、4つのセクションに分かれている。まず、「Introduction」では、若衆の身なりや社会的、性的な役割について解説。「Wakashu and Men」では、武家社会が始まった頃から江戸時代までの男性同士の恋愛、男色(なんしょく)について述べる。また、ここには、浮世絵以外の江戸時代にまつわる美術品も展示。続く、「Wakashu and Women」では、若い女性のようであった若衆の容姿や女性との関係にも触れ、若衆と女性の一緒にいる姿は、美人画の対象であったことなどを説明。そして最後のセクション「Women Cross-Dressing」では、女性の男装について注目し、若衆の服装を真似た女性が描かれている浮世絵などを紹介している。 今回が北米初公開となる「A Third Gender : Beautiful Youths in Japanese Prints」は、 11月27日(日)まで開催予定。期間中には展示に関連したレクチャーなども行なわれる。浮世絵を通して当時のジェンダー、さらに現代におけるジェンダーについて考えさせられるこの展示会。貴重な機会をお見逃しなく!

Information


■日 時:5月7日(土)~ 11 月 27 日(日)
■場 所:Royal Ontario Museum(100 Queen's Park)
■連絡先:416-586-8000
■入場料:一 般$17
     学生(15~ 25歳)・65歳以上$15.50
     4~14 歳$14(3歳以下は無料)
     ※ROM の入場料含む
■サイト:rom.on.ca

※各イベントの開催時間などの情報は4月28日現在のものです。
お出かけ前にウェブサイトなどでご確認ください。


浮世絵


\私がご案内いたします/

監修・池田安里博士
Dr. Asato Ikeda

60点の浮世絵に加え、ROMが所蔵する貴重な コレクションを加えたこの特別展のキュレートを担当したのは、 ニューヨーク・フォーダム大学美術史准教授*で現ROM研究者である池田安里博士(インタビューは こちら)。特別展にて展示される一部作品を 池田博士による時代背景、解説を加えて紹介。
*アメリカの制度ではAssistant Professor

おすすめ作品1

鷹を持つ女 Wakashu and Young Woman with Hawks (制作年:1803年)

>>作者略歴/文浪(生没年不詳)
喜多川歌麿の門人。美人画や花鳥画の版画のほか、草双紙の挿絵や版画ではなく、直接絵絹や紙に直接描く肉筆画を残している。活動期は、1801〜1804年。

>>時代背景・解説
若衆は、若い女性と同様、若さとエネルギーの象徴であったとされ、若衆と若い女性が描かれた浮世絵は、縁起の良いものとして、年中行事を祝う浮世絵にも描かれていた。当時、武士階級にしか許されていなかった鷹狩り。武士の若衆と若い女性が鷹を腕に抱く姿が描かれたこの作品は、初夢に出てくると幸運が舞い降りると言われている鷹、さらに着物のモチーフに茄子、富士山などが描かれていることから、新年を祝うために描かれたものだということがわかる。


Wakashu and Young Woman with Hawks. ca. 1803. Bunrō (active 1801–1804) Gift of Ramsay and Eleanor Cook

おすすめ作品2

見立浦島太郎 Youth on a Long-Tailed Turtle as Urashima Tarō (制作年:1767年)

>>作者略歴/鈴木春信(1725〜1770年)
多色刷りの浮世絵版画、錦絵(にしきえ)の確立に貢献し、 美人画を得意としていた。日常生活の情景に古典和歌の歌意など表した見立絵(みたてえ)を数多く残している。

>>時代背景・解説
第三のジェンダーとして存在していた若衆。その最も顕著な特徴は、前髪を残し、小さい中剃りがある髪型。当時、前髪は成人に達する際に剃るものであったため、前髪を残したスタイルは若衆であることのサインとともにフェティシズムの対象になっていった。このような若衆の姿は、故事や古典を分かりやすく伝えるために描かれた見立絵などにも描かれている。この作品は、いじめられていた亀を助けた漁師が竜宮城に招かれる、浦島太郎の一場面。


Youth on a Long-Tailed Turtle as Urashima Tarō. 1767 Suzuki Harunobu (1725–1770) Sir Edmund Walker Collection

おすすめ作品3

婦人手業拾二工 From the Series Twelve Forms of Women’s Handiwork (制作年:1790年代後半)

>>作者略歴/喜多川歌麿(1753〜1806年)
多色刷りの浮世絵版画、錦絵(にしきえ)の確立に貢献し、 美人画を得意としていた。日常生活の情景に古典和歌の歌意など表した見立絵を数多く残している。

>>時代背景・解説
多くの浮世絵に見られる若衆と女性の姿。理由は諸説考えられるが、当時、若衆は男性だけではなく、女性をも魅了する存在だったということ。また、女性も若衆もどちらも姿・形の美しい“美人”であり、男性の目を楽しませるために描かれた美人画の対象になったことなどが考えられる。この作品において、武士の若衆にうっとりと見とれている女性の上方右肩に見えるのは絵馬。絵馬の図柄となっている孔雀と牡丹の花は、若衆の華麗な美しさの象徴として描かれている。


From the Series Fujin tewaza jūnikō (Twelve Forms of Women’s Handiwork). Late 1790s Kitagawa Utamaro (1753–1806) Sir Edmund Walker Collection

おすすめ作品4

見立三夕「西行法師」 Mitate-e of a Poem by Saigyō Hōshī (制作年:1767~68年)

>>作者略歴/鈴木春信(1725〜1770年)
多色刷りの浮世絵版画、錦絵(にしきえ)の確立に貢献し、 美人画を得意としていた。日常生活の情景に古典和歌の歌意など表した見立絵(みたてえ)を数多く残している。

>>時代背景・解説
若衆と成人男性による恋愛関係“男色”は、江戸時代の社会では広く受け入れられていた。武家社会が始まった当初から存在していたという男色は、上級武士と若い弟子という師弟関係から恋愛や性的関係に発展することもあった。江戸時代には、豪商たちの中に上級武士を真似て男色の練習をする者が出てきたといい、売春宿では若衆の売春斡旋も行なっていた。中には女装をして顧客を喜ばせる若衆の男娼も存在していたといい、この作品はその様子を描いたものだと伺える。


Mitate-e of a Poem by Saigyō Hōshi. 1767/8 Suzuki Harunobu (1725–1770) Sir Edmund Walker Collection

おすすめ作品5

若衆と鼓 Wakasyu with Shoulder Drum (制作年:不詳)

>>作者略歴/細田栄之(生没年不詳)
鳥文斎永之ともいう。浮世絵師としては珍しく旗本の出身で狩野栄川院典信に絵を学ぶ。喜多川歌麿の全盛時代と重なり、互いに影響を受けあっていると言われている。活動期は1790〜1823年。

>>時代背景・解説
江戸時代においてはジェンダーが、社会的なヒエラルキーを確立する重要な役割を占めていた。当時、ジェンダーは、生まれ持った性別だけでなく、年齢や容姿などを含む複雑な構造をしており、 既婚女性は、未婚、娼婦、または修道女とは異なるジェンダー、成人男性は、修道士とは別のジェンダーと考えられていた。江戸時代において、成人男性からも女性、そのどちらにも属さない若衆は、両者から性的な対象となり、“第三のジェンダー”として存在していた。


Wakashu with a Shoulder Drum Hosoda Eisui (active 1790–1823) Sir Edmund Walker Collection

ROM所蔵の日本美術コレクションによる

江戸時代の
装飾品や小物



Box with cover (Incense box) Lacquered wood Early Edo period Japan; 17th century

蓋付き線香入れ

貴族や上級武士など限られた人たちの 間で行なわれていた香を焚く習わしは、 江戸時代に入り、広く浸透。さらに、 楽しむだけでなく、「道」に発展し、 贅沢な小物なども作られるように なった。
制作年:1700代初期

Woman's long-sleeved kimono Silk; gold thread Japan; 1800-1825 Gift of Christie, Manson & Woods Ltd.

着物

現在着られている振袖が誕生 したのは江戸時代のこと。この着物 にあるモチーフの鶴は、延命長寿の 象徴であることから、身分の高い人 の衣料に使われ、婚礼など慶事の晴着として着用されていた。
制作年:1800〜1825年頃

Hair comb with peony design Incised & gold lacquered tortoise shell Edo period Japan; 19th century

まっすぐに下ろしていた髪型から変わり、 結い上げるスタイルに変化した江戸時代の女性の髪型。華やかに着飾る女性たちに とって、櫛は髪にアクセントを加える アクセサリーになっていった。
制作年:1800年代

関連イベント

特別展示期間中、ROMではレクチャーなどの関連イベントが開催される。
作品鑑賞と合わせてレクチャーに参加すれば、当時の文化への理解がより深められるはず!


 ROM Daytime

同特別展のキュレーター、池田安里博士によるレクチャー。江戸時代の日本において、男性、女性を魅了した若衆について考察する。北米から見た江戸時代のジェンダーとセクシャリティの構造、さらに、現代のポップカルチャー、女性向けの漫画についても触れる。
日 時:5月12日(木)11:00〜13:15
場 所: Signy and Cléophée Eaton Theatre
参加費:ROMの入場チケットに含まれる


 ROM Speaks Series It’s Complicated : Gender Ambiguity in Early-Modern Japan

ブリティッシュ・コロンビア大学アジア研究学科教授のジョシュア・モストウ博士による、日本におけるジャンダー、セクシャリティなどのレクチャー。
日 時:6月7日(火)19:00〜20:00
場 所: Signy and Cléophée Eaton Theatre
参加費:$20(1ドリンク付き)
*19歳以上対象


 ROM Speaks Series Lost in translation? Gender and Sexuality across Time and Cultures

同性間のセクシャリティは、過去にはどのように理解されていたのか? トロント大学のセクシャル・ダイバーシティ・スタディグループによるプレゼンテーション。
日 時:6月21日(火)19:00〜20:00
場 所: Signy and Cléophée Eaton Theatre
参加費:$20(1ドリンク付き)


 Japanese Art & Culture

特別展示の鑑賞に加え、カナダ最大のコレクションを誇るROMの日本美術コレクションが集められたギャラリーを閲覧する。また、レクチャーなども行なわれる。日本美術や文化についての造詣が深められるイベント。
日 時:10月16日(日)10:30〜15:30
場 所: Education Classrooms
参加費:$80(ランチ付き)